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オムライス


土曜日。社長の息子。ボンボン子犬くんと散歩することになった。


会社周辺の案内だ。


待ち合わせ場所に来たボンボンは、結構オシャレしてきた。


ちょっと手抜きのわたしは、なんだか気恥ずかしくなった。

流石にこの黒縁メガネはないと思った。これしかないから仕方ないけど……。

オバサンにだけは見られないように地味すぎる色にせず、少し明るめの服を選んだ。

ただどうしてもキャリアウーマン風になってしまう。


まあ部下の案内をする上司な訳だから、これはこれで問題なかろう。


そんな私をみて


「タエコさん……とても綺麗で……お似合いです」


ほざくボンボンに


「ありがと。では行きましょう」


社交辞令はもう沢山とばかりに、色々と案内した。

ボンボンはわたしの隣に並ぶでもなく、金魚のフンみたいに後をついてくるだけだ。


男のクセに歩くペースが遅い。これでは予定していたコースを回り切れない。

仕方がないので、その手をつかみ引っ張って歩いた。


引っ張っられている間。ボンボンはやけに静かだった。

あれほど饒舌だったのに。ちょっと思うことがあり、見たら顔が赤い


「もしかして具合が悪いの?少し休みましょうか?」


訊ねると首を振ってやけに潤んだ瞳でこちらを見ている。ヤバい。だいぶ具合が悪そうだ


「もうすぐお昼ですからね。予定より早いですが、近くにオムライスの美味しいお店があります。

あなたは男ですから、なかなかそういうお店に寄ることもないでしょうから、かえって面白いかと思います。

どうでしょう?イヤですか?」


卵なら滋養もあり、少し元気になるかもしれない。

お昼時にはいつも満席になるから、今の時間は丁度いいかもしれない。わたしは了承をとると、ボンボンの手を少し強く握りお店までゆっくり歩いて案内した。

具合が悪い人に無理はさせられない。





『ホントにこの子。美味しそうに食べるわ』


今目の前で美味しそうにオムライスをがっつくボンボンに見とれていた。

わたしがまだ1/3も食べていないのに、もう胃袋に全部納めそうだ。


わたしはゆっくり味わいながらたべる。食後のデザートも頼んでおいた。

だって具合悪いそうだったから、少しでも長居して体を休ませてあげないとね……。


でも美味しい。わたしオムライス大好き。子供の時から好きだし、週に一度は自分で調理して食べる。

なかなかプロのようにはできないけれど、それでも大分上達したと思う。こうして定期的にオムライス屋さんに通って、味付けとか色々真似したり工夫したりする。

ここのオムライスも大好物だ。

デミグラスソースと卵の味のバランスが最高!


ん~~~たまらん♪


ん?視線を感じる。

ボンボンが微笑みながらこちらを見ている。

まあ、いい歳した女がこんなだと変だよね


「ごめんなさい。わたしオムライスに目がなくて。

先ほど御託を並べましたけれど、ホントのところはわたしが食べたかっただけです。

お見苦しいところをお見せしました」


「いいえ。美味しいそうで、ボクの心もなごみます。

また今度来ましょう」


「それまでに好い人見つけなさいね。

まだあなたは若いですが、時が経つのは早いですよ。

もしかして、もう意中の御相手がいまして?」


わたしは片肘をついて、ちょっと悪戯っぽく笑った。

ボンボンは顔を赤らめ


「いえ……その……はい……います……」


なんとも煮え切らない返事をする。まあいるなら何より。

今度はその女子と来れたらいいね。

でも、わたしと目を合わせない。

やはり微笑んだのが悪かったか?

わたしの微笑みが悪魔に見えると言われた事がある。

新人には心臓に悪かったかも?

ホントごめんなさい。

せめてサキュバスとでも、揶揄してほしかった。

男っ気のないサキュバス……自爆だった。


それからお店を後にするとき少し揉めた。案内のお礼にボンボンが奢るという。

わたしは上司で来月から社長になるというのに、新人に持たせる訳はいかない。

わたしは少しきつめに言って無理に払った。


でもちょっと強引過ぎたか?プライベートとも言っていたし、男子だしボンボンだから、わたしも変に意地を張らないで割り勘位でおさめればよかった。


「あの。ごめんなさい。ちょっとわたし意地になっていました。

また案内が続きます。途中で休憩しようとも思っています。もしよろしければ、そこでご馳走になっても宜しいでしょうか?ご迷惑でなけ……」

「ぜんぜん大丈夫です。嬉しいなあ」


何がそんなに嬉しいのだろうか?

とにもかくにも機嫌が直ってよかった。



それからわたしは、ボンボンの案内を続けた。

欲張っていた案内コースメニューを変更し、幾つか切り捨て、余裕のあるプランにした。

そして休憩で別れる。


休憩場所に選んだのはメインストリートから外れた路地の喫茶店だ。

ここのマスターとも長い付き合いになる。

わたしの無駄な目力を怖がらない希有な人材だ。


カランコロン


ドアをあけると心地よい鐘の生音がなる。


「いらっしゃい。ああタエちゃんお久しぶり。

あれ珍しいねぇ誰かと来るなんて、もしかしてタエちゃんにも遅い春が来たのかな?」


チョビヒゲベレー帽が笑いかける


「イヤですよマスター。からかわないでください。

歳が離れすぎています。迷惑に思われちゃいます。

いずれ社長さんになられる部下ですよ。

今日は街の案内です」


わたし達は部屋の角の落ち着いたテーブルの席に腰を下ろした。なんだかボンボンが浮かない顔をしている


「もしかして、こういうところ苦手だった?」


マスターに聞こえないように小声で話す。

ボンボンは首を振り、わたしを見つめて言った



「ぜんぜん迷惑だなんて思っていないです」



その声はやけに大きく響いた。





オムライス食べたくなったよ。


それにしてもタエコさん。

あなた筋金入りにすごいね。


トンカチで色々カチ割ってあげたい。

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