オクダタエコという者
乾杯を終えたエリザは、着座をうながした。
そして皆それぞれの席に着く。
もちろんエリザは国王の介助付きだ。
エリザはいつものポーズ。
ひじ掛けに右肘をつき頬杖。深々と座り、足を組んでいる。
「まずはエリザベートからじゃ……」
エリザはおもむろに切り出した
「初めに言おう。このフォラリス王国は一度滅びておる。こことは少し異なる平行世界でのことじゃ。
その折それはそれは悲惨な状況であった。
まずは身内で血ミドロの権力争いをし、国力が弱ったところを他国の侵略をうけた。
王族はことごとく殺され、フォラリス王国は影も形もなく別の国に塗り変わった。
文化も風習もおとぎ話も歴史も言葉も何もかも否定され消え去った。反抗する者はことごとく殺された。
我が築き愛してやまないこの国はやがて人々の記憶からも消えていった。
その世界の事柄は変えることができぬ。
じゃが違う世界に、別の可能性の種を植えることはできる。
滅びはするが、フォラリス王国の記憶を残したままの世界を見てみたかったのじゃ。
我エリザが夫の国をほぼ無血で降したように血をあまり流さず、国の名は変わろうともフォラリス王国の歴史や人々が歩んできた様を残したかった。
我が子孫達も全てが善政をしいた訳ではないが、このフォラリス王国や民を愛し慈しんできたのは間違いない。
フォラリス王国の皆が生きてきた証を残す。
その為の布石が今世のエリザベートじゃ」
言葉を一旦切り、厳かに続けた
「この世界は、フォラリス王国が全て消え去った世界とは違う世界じゃ。
平行世界。パラレルワールドじゃ。
厳密にはやり直しにはならんが、やり直している。
以前の世界ではエリザベートはエアリスに捨てられた。別にエアリスが悪い訳ではない。エアリスなりにこの国の行く末を想いエリザベートではなく妹を選んだ。
じゃが、その選択が大いなる滅びに繋がった。
妹との間には子が生まれず、ヒロインとやらの間にしか子供が出来なかった。
その者が次代の王となった。
そしてその王の子の代にフォラリス王国は滅びる事となる。ヒロインの孫になるの。
それが優柔不断で身内の権力争いを加速させ、血で血を洗う酷い下らぬ戦いが起こった。
後は言いとうない。勝手に想像せよ。ただの、もう二度とあのようなこと繰り返してはならぬ」
そして悲壮な顔の皆を見回し
「本来ならばエリザベートとエアリスが夫婦となり、孫の代でエリザベートと入れ替えに、我の生まれ変わりがこの国に生まれる筈であった。
そうすれば我は自らの手で速やかにこの国を滅ぼした」
「エリザベートの孫。生まれ変わったエリザ姫姐様がこのフォラリス王国を滅ぼすのか?」
国王は呻いた
「当たり前じゃ!我が築いた国ぞ。我が幕を引かんでなんとする!
勘違いするでないぞ。
滅びは決定事項じゃ。生まれたものは滅する。
盛者必衰の理じゃ。
ただ滅びの道が緩やかであるか、それとも転げ落ち砕け散るかの違いじゃ。
我は緩やかなる道を選ぶに過ぎん。
電光石火に王家を滅ぼす!
それが緩やかなる道じゃ」
皆は絶句し二の句が告げない
「ここでもうひとりの半生を語ろう。
異界に生きたオクダタエコという一人の女の半生じゃ」
エリザベートは居ずまいを正す
「ここではない別の世界。時間軸も違う世界じゃがの。
そこにオクダタエコという我のワケミタマがおった。
オクダタエコは大いなる光で時代を動かし、人々に希望と喜びをもたらす使命をもっておった。
だが生まれはごく庶民の出。ここよりも身分差別もなく自由な世界であるが、それでも庶民は庶民じゃ。
ワシのワケミタマはどうも女性に生まれる事が多くての。そして光が大きければ大きいほど目付きが悪くなるのじゃ。
オクダタエコもご多分に漏れず目付きが凶悪での。
庶民の通う学舎で随分酷い扱いをうけた。
もう十年以上それは続いた。
それで屈折しての、自信をとことん失ったのじゃ。
でも、我エリザのワケミタマじゃ。オクダタエコは目立ち光に吸い寄せらる虫のように人々が盛り立て……そなたらに分かりやすく申せば、身分のような肩書きが上がっていった。
見る者が見ればオクダタエコは只者ではないと分かるのじゃよ。
そしてなようやくじゃが……今の王妃と同じ年頃になって、ようやく恋を……ううん……愛をしったのじゃ。
じゃが遅すぎた。
その矢先事故にあっての、命を落とした。
使命などわからず、何も成さず、何者にもなれなかった。
そしてな、その愛を知った相手が元の我が夫の生まれ変わりでの。その者は出会った頃からオクダタエコだけを愛してるおった。
オクダタエコはその愛しき者に抱かれながら逝ったのじゃ。
死の間際。オクダタエコはその者に語った言葉。
それはその者への愛に溢れておった。
一から十までその者の幸せを願っておった。
だがの。心残りが無い訳はなかろう。
ホントにこれからだったのじゃ。
なのに相手の事を思いやる。
我はその心に打たれたのじゃ。
だが、死してオクダタエコは己が使命を知った。
そして魂が慟哭した。
凄まじいエネルギーじゃ。
そのエネルギーの行き先が今世のエリザベートじゃ。
エリザベートは我のワケミタマで有りながら、全てではないがオクダタエコの記憶を有しておる。
そなたらよりもある意味人間が出来ておる。
オクダタエコなりに己が人生を精一杯生きたからの。
そして……」
エリザは足を組み替えた
「エネルギーはエリザベートだけでは収まらなかった。オクダタエコは今、オクダタエコをやり直しておる。
エリザベートとして生きながら、別のパラレルワールドではオクダタエコとしても生きておる。
我にもよくわからんがそうなっておる。
我が仕組んだことではないぞ」
そんなエリザは心底不思議そうな顔をしていた。




