命拾いしたの
「ところでそなたら、エリザベートを追い詰めてどうするつもりだったのじゃ?」
エリザ姫姐様ことエリザは、ギロリ。ギロリ。と国王、王妃を交互に睨んだ。
そしてアゴをクイッと上げる。
『話せ』
という督促だ。
「どうも致しません。まだ十歳の子供でございます」
「余も同意見だ。ただエリザベートの対応が余の想定を遥かに越えており、正直どうすれば良いのか戸惑ってはおった」
「ではおぬしら。エリザベートを王妃の座から引き摺り下ろすつもりは、なかったということじゃな?」
エリザはまたギロリギロリ
「余はたとえエリザ姫姐様が降臨せずとも『エリザベートは王妃に最も相応しき者である』その想いは揺るぎませぬ」
「わたくしも同じでございます。もしルーレンスが懸念を持ったならわたくし、離縁をちらつかせてでも止める所存でございました」
ふむ。
エリザは満足気に頷く
「よき心がけじゃ。ではおぬしら。
なにがどうエリザベートを気に入っておるのじゃ?申してみよ」
「我が息。エアリスの従者共……実は今回の御披露目に合わせて従者共を総替えするつもりであった。
エアリスにはわざと従者に相応しく無い者共をあてがい『世にはどうしようもない輩がいる』と思い知らせ、そののち文武両道の優秀な従者をつけ『人は使いよう。人選によってこんなにも違いが出る』と人の使い方。適材適所適所の大切さを学ばせるつもりでおった。
だがエリザベートは余がはじめから『使えぬ者共』と切り捨てていた者共を、一名どうしようもない輩がおったが、他の者は見事に『王太子付きの従者に相応しき者』に変えおった。
確かに文武の面では我がエアリスの従者にと望んだ者達には遥かに劣る。だが、最も大切な『忠義』そしてエアリスを盛り立て『共に成長していく』という気概に溢れておった。あのような強き光を目に宿した者共を切ったとあっては、エアリスにどうしようもない『悪例』を余が植え付てしまったであろう。どんなに『努力しても報われぬ』という悪例をな。
今もあの従者共はエアリスと供に日々成長しておる。
あの『腐れ切った者』共をエリザベートは一瞬で、それこそ魔法のように変えよった。
そしてその元『腐れ切った者』共が口々に言いよる。
『エリザベート様が王妃であればエアリス殿下の世は安泰である』と……。
そのような事のできる九才児がおりましょうか?
これは天が我が王国に授けてくださった宝ではないか?
余は常々そう思い、こうも思っておった。
『エリザベートほど王妃に相応しき者はいまい』と!」
「わたくしも同じでございます。
エアリスがエリザベートに会ってから見違えるようになりました。
今日もあのつっかえつっかえ話をしていたエアリスが舞踏会でダンスを披露してから、言葉につっかえる事がなくなりました。
エアリスは自信に溢れ、そしてエリザベートに恋心を越えた『愛』の想いを向けております。
そしてエリザベートもエアリスに『深き愛』を示しております。
『自ら王妃の座を去る』と決意させる程に……。
エアリスのため醜聞も省みず、エアリスとの別れを決断するまであんなにも慟哭する女の子を、どうして引き剥がす事ができましょう。
互いに相手を『思いやり』『気遣い』『歩み寄る』普通の夫婦なら、何十年という月日をかけて築き上げる事柄をほんのわずかの出会いで成し遂げたのです。
こなような相思相愛なふたりを、わたくしたちが別つことなど出来ようがございません」
「当たり前じゃ!」
エリザは破顔した
「エアリスとやらは、我が愛しき者。エリザの生では大国を率いておった我が夫。
アルフレイム・テイラムの生まれ変わりじゃからの。
当たり前じゃ!」
アーハッハッハッハッ!
と笑うエリザを、この部屋にいる者全てがポケーと口を開けて眺めていた
「おぬしら。命拾いしたの」
エリザは真顔になって言った
「このままではエリザベートに捨てられるところじゃった」
「どのようなことでごさいましょう?理由をお伺い致してもよろしいでしょうか?」
エリザはフムと頷き
「あの者エリザベートはそなたらが言うように天から使わされた者じゃ。まっ。我が使わしたのだがな。
いや。ちょっと違うな。追々話してやろう。
エリザベートはの滅びの時を緩やかにする。
そのための『天啓』じゃな」
「滅び?」
国王は前のめりになって、更につづけた
「なにが滅ぶのであろうか?」
「何をって決まっておるじゃろが……。
この国じゃ!」
それこそ皆、顔面蒼白で固まっていた。
国王は我に返り
「このフォラリス王国でありますか?」
「くどい。そうだと言っておる。
エアリスとやらもエリザベートもおるのがこの国じゃろう?何故他の国を滅ぼす為に天が人を使わす?
天は他国を侵略し滅ぼすことになど手を貸さん。
当たり前じゃろが?
じゃが、この話しは一旦棚上げじゃ。
あの馬鹿ふたりのの子孫共が来てから続けてやろう。
それよりもエリザベートの事じゃ。
あやつこの国、いや、世界で『最も王妃に相応しき者』であるのに……自身は『最も王妃に相応しく無い者」と信じておる。
あっちの世界での悪いクセじゃな?
『どうせわたしなんて……』ぐじぐじぐじぐじとあー情けなし!少しはエリザベートを見習えというものじゃオクダタエコよ!」
「オクダタエコ?」
「あっちの世界?」
国王と王妃の頭に、クエスチョンマークが溢れた。