わたしを打ち上げんでくれ
三ヶ月振りに出会ったオクダ姉妹は抱き合った
「あーいい香り……。お姉ちゃん甘くていい匂いがする。懐かしいなあ。凄く安心する」
「もう。恥ずかしいから止めてよミナコ。
でも嬉しい!会うたびにどんどん綺麗になってくれて!」
そして存外にお互いに余韻を堪能したあとは自然に離れて、両手を握りあった
「久し振りミナコ。元気そうで何より」
「お姉ちゃんこそ。相変わらず……」
その後言いかけた言葉を飲み込んだのは、妹の優しさだろう。
そしてミナコはチロリと視線を和服美女に向ける
「お久し振りですミズホ様。いつもお世話になっております」
やけに丁寧な言葉使い。知り合いかしら?
「あのーお二人の関係は……」
「お姉ちゃん知らないの?」
えー知りません。
「呉服屋の若女将さんとだけ……」
「そっか。知らないんだ。ミズホさんは芸能人の和服のコーディネーターとして有名ですし、それに帝都銀行の頭取の息子さんの奥様ですよ」
「えっと」
わたしは頭がこんがらがった。
呉服屋に嫁に行ったのになぜ頭取の息子さんと結婚しているの?
わたしがよほど妙ちくりんな顔をしていたのだろう。
ミズホさんが助け舟をだす
「わたくし元々呉服屋の者です。そして見初められて頭取の息子さんの嫁となりました。旦那も同じ帝都銀行に勤めさせて頂いております。
ただ、わたくしの跡継ぎの弟がまだ大学生なので、その彼が跡を継ぐまでの繋ぎとして若女将をしております。そのお約束で婚姻いたしまたので、何ら問題はありません」
ソウイウコトか。すこし納得した。
それで住む世界が違うと感じたんだ!
そして三人は席に付き、マスターは姉妹にブレンドとシフォンケーキを持ってきた。
ミズホさんも
『あら。美味しそう』
なんて注文していた。
そしてオクダミナコはミズホさんを巻き込んだ
「ミズホ様。折角ですから、わたしたちのお話しを聞いて下さいませんか?」
ミナコは説明した。
タエコが社長になること。
いまのままじゃアレだから、イメチェンすること。
そんなこんな諸々と……
ミズホさん
「あーら。面白ろそう!渡りに船ね。
それにしてもタエコさんが社長にねぇ。
やっと本体に肩書きが追い付いてきたのね」
なんて訳の分からない言葉を放ち、了承する。
わたしの意見も何もなく、仲間になった。
そしてミズホさんはミナコに、普段の言葉使いでいいと釘を刺した。畏まられると肩が凝るらしい。
折角お茶しているのだから、リラックスしたいそうだ。
ミナコは言葉に甘えた
「では、今より姉オクダタエコの変身作戦会議に向けての作戦会議を始めます!」
ミナコは宣言した。
作戦会議に向けての作戦会議?なんのことやら?
「姉オクダタエコは知っての通り、このような残念なお姿を自ら好んでしてます。
黒縁メガネ。紺のスーツ。バックや小物のチョイス。靴やおそらく下着まで『なぜにこれを選ぶ』ような格好!
髪型もそう!ダメダメです!
で、社長就任に当たり会社の奥様から軍資金として100万渡されましたが……」
十分でしょう
「あまりにも少な過ぎます!」
─えっ!少ないの?嘘?
「社長に相応しい格好となれば、スーツ一着だけでもほとんど軍資金が消え失せます。バックひとつ買えば足が出るでしょう!
社長が同じスーツを毎日着る訳にはいかないでしょう?
それでリョウさんに相談したのです」
「リョウさんてあの、カンバシラリョウさん?」
誰よカンバシラミリョウって!カッコ良さげな名前して!
「兎に角リョウさんにからすれば、会って素材を確認しなければナントモヤラでこれから18:30から会う段取りはつけてあります。
ですが姉がこの通りですから、心配していたのですが、そこへミズホ様。
もしミズホ様が同行していただければ、百人力です!」
「あまりわたくしがお力になれるか分かりませんが、カンバシラリョウさんが力を貸して下されば、この蚊帳の外のタエコさんにも日が当たるかも知れませんね。
子供のことは家政婦に任せて、同行致しましょう」
そういうな否や、スマホで連絡しだした。
ホントにタエコは蚊帳の外。何がなにやら見当もつかない。ミズホさん用事は済んだよう
「ところでミナコさん。いくらお姉様でもリョウさんやわたくしまで巻き込むなんて、なぜそのようにタエコさんを表に出したいのですか?まあ。わたくしも同じ想いを抱いておりますから気持ちはわかりますが、教えていただけますか?」
はい。からミナコは話し始めた
「オクダタエコは特別です。
自分から何もしなくてもいつしか人の上に立っています。小中高とほとんど学級委員長。
中学生ではほとんどイジメに近い扱いをされていたのに生徒会長。
高校生では生徒会副会長。会長は立候補制ですから、副会長はそれ以外のトップになります。
そして今回。血縁者でもないのにあの会社の社長になるというのです。
自らは動かないのに周りが自然と盛り立てる。あまりにも異常です。
そしてわたしオクダミナコは姉オクダタエコの並外れた素材の良さも知ってます。
天性の人の上に立つ資質に、私たち人の手が加わって、社長就任というイベントに合わせて世に送り出す!
いえ、絶対皆に知って欲しいのです!
オクダタエコの本気を!
そして妹としてではなく、ひとりの人間として、この日本という大舞台に立ったオクダタエコがどこまで駆け上がるのか見てみたいのです!」
─なんかミナコ。
─何言っちゃってんのコレ。
─人の上に立つ資質ってあーた。
─全部おっ付けられたのよ!
「よくぞ申されましたミナコさん!
天と人と時。天命を持つタエコさんをわたくしたちが盛り立て、この社長就任というイベントとともにオクダタエコという花火を打ち上げる!
面白そうじゃありませんか!
みんなみんな巻き込んでドデカイ花火を夜空いっぱい花咲かせましょう!」
そして立ち上がり
「オクダタエコというドデカイ花火を!」
と気勢をあげた!
タエコはポケーと口を開けていた。
─どこでどうしたらこうなる?
─わたしを打ち上げんでくれ。
もう思考停止に決めた。
誤字脱字報告有り難うございました。
大変助かりました。
感謝しております。