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わたくしを照す太陽


ここは舞踏会会場へ登場する。貴賓専用扉の前。


直前。国王夫妻が舞踏会会場へここから降臨ましまして、会場が沸きに沸いた。

ちょっと隙間から覗いたら、その熱狂と興奮の渦。そして自分たち王太子ペアをいよいよご登場か!と待ち受ける期待を込めた人々の上気した顔立ちに、ビビり恐れ萎縮したエリザベート。

というかタエコ。

社会の荒波とは別次元の世界とても乗りきれない。

たぶん自分の目力に攻撃されたら、こんな風になってしまうのかな?って思ってしまった。


『庶民タエコにはこれは無理だわ。ヤバいわこれわ』


両足がガチガチになって、小刻みに体が震えだした


「え……エリザベート。そんなに……固くならなくて……大丈夫。余がちゃんと……リードするから」


ポヨポヨはエリザベートの両手を軽く握り、真剣な眼差しでエリザベートの泣きそうな目をしっかり見て励ます


キュン


胸の奥で音がした。

顔がみるみる赤くなるのがわかる。

そして自分でもわかっちゃったわ。

この気持ち。この感じ。この瞬間。

小学校の教室の《あの日》に置き忘れたままの気持ち


『ポヨポヨに恋をした!?』


アリエナイ!28歳アラサー女子オクダタエコが、こんなお子様にトキメイているなんて……。

だって!以前のぽよぽよした体やお顔がいくらか原型を見せ初めたとはいえ、まだ肥満領域のポヨポヨが格好良く見える!

キラキラキラキラ輝きだす!


「さぁ。いくよ……エリザベート!」


手を引かれる瞬間にわたくしはか細い声で


「はい……でんか……」


なんて、しおらしい誰にも見せたことのない姿を晒してる。

そしてポヨポヨに手を引かれて舞踏会会場に足を踏み入れる。


おおおおおおおーーーー!


会場を埋め尽くす歓声とどよめき!

降り注ぐシャンデリアの煌めき!

音楽が一斉に鳴り響く!


そしてわたくしエリザベートは社交界デビューした。


わたしタエコは恐怖に支配され現実逃避にキツく目を閉じた


『何をおビビりになっているのですか?情けない!

あなたはテイラム公爵家の始祖!このエリザの生まれ変わりなのです!』


心の中に金の鎧に身を包み、深紅のマントを翻し、鎧に負けじ劣らず燦然と煌めく黄金の髪を靡かせた、目付きのやたら悪い絶世の美女がいや……女神がそこにいた!


『三十万の軍勢が固唾をのんで見守るなか、今のあなたのように恋に落ち、惚れに惚れた方になりふりかまわず口づけを交わした、あの状況に比べたらこんなのミジンコ以下ではありませんか!

それをあなたの魂はもう経験済みなのですよ!

さあ!愛する人の手をとって!

愛する人に身を委ねて!

堂々とその薄っぺらな胸をお張りになって!

フォラリス王家が今ここにこうして存在するのは、わたくしエリザの存在あってのものなのですよ!

このエリザの築いたフォラリス王家の!

そして我が生涯愛した夫と共に築いたテイラム家の誇りを胸に!

いざ出陣です!

こんな連中!

薙ぎ払っておしまいなさい!!!!!』


黄金の剣を抜き放ち、堂々と颯爽と薙ぎ払えのポーズをする女神エリザ!


そしてエリザベートは目を見開いた!

世界全てが止まったように見える!


そしてポヨポヨ殿下に重なって青い鎧に身を包み、青空色のマントを翻し、自分を優しく見つめる美丈夫の眼差しに胸がトキメキ、心臓が高鳴り、心が魂が熱く熱く燃え上がる!


エリザベートは胸を張り、そして軽く目を閉じた。



見渡す限りの雲ひとつない青空。


緑豊かな草原の丘の上。


わたくしエリザベート公爵令嬢と


ポヨポヨこと


エアリス・ラピス・フォラリス殿下が


何故か白馬に跨がって抱き合っている


そして抱き合ったまま右手を


エリザベートは黄金の剣を天高く掲げる


うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!


地面を覆い尽くす人人人人人人人の群れ

何十万という鎧兜の男達が剣を高々と掲げ

咆哮し世界がどよめきに覆われる!


これは神聖なる

完全なる

フォラリス王国誕生の瞬間


その高揚と興奮と達成感と狂おしいばかりの愛情とを練り混ぜた坩堝(ルツボ)を胸中に、ふたたび瞳を見開く


そこにはエリザベートをやさしく見つめるエアリス王太子殿下がいた


「エアリス殿下。このエリザベート。

今この時を……全てを……あなた様に委ねます。

わたくしはただ堂々と胸を張り、キリッと殿下を見つめ、殿下の導かれるままにこの身を任せます。

どうぞ殿下も全身全霊をかけてわたくしを!このエリザベートを!この素晴らしき世界に(いざな)ってくださいませ!」


殿下はちょっと驚いた顔をしたが、すぐにその表情は引き締まり力強く頷く


「我が生涯をかけて、エリザベートを導き(いざな)おう!」


はじめてつっかえることなく淀みなくこぼれた言葉は、生涯エリザベートの胸中を明るく照す太陽となる。



そして小さな恋人たちは



ふたりそろえて



大いなる一歩となる



ステップをふんだ














我が生涯をかけて、エリザベートを導き誘おう!


なぜかこの言葉。

読み返すたび、胸がキュンとして泣きたくなる。

言ったことも言われた事もないのにね……。


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