オタコと野球とダンゴムシ
シュッ
シュッ
シュッ
シューン
シュッ
シュッ
シューン
「何をなさっておられるのですか?お嬢様」
大きな姿見の前でポーズを決めて右手をシュッシュッシューンとひたすら振っているエリザベートに、ジェシカ
は尋ねた
「え?ああ。ジェシカね。
見てわからない?
《薙ぎ払う》
練習よ!」
「はあ……。
薙ぎ払う練習ですか?
全然わかりません」
不思議そうな顔でエリザベートを見つめるジェシカ。
ジェシカの髪色は薄いラベンダー。ショートカットの15歳の女の子。髪の毛はズバッと頭と首の境目辺りで大胆にカットされている。横からみれば断面が水平になっている。
瞳は緑で顔にはそばかすがいっぱい。
メリッサと同じくそばかすっ娘だ。
それに大きな丸メガネをかけている。
このジェシカ。何故かあの日以来エリザベートに懐いている。
この目力もあまり効果がない。
突然そうなったので、理由を聞いてみたら
「王太子殿下とご散策の折り、お怒りになられたエリザベート様を覆うように、世にも恐ろしき黒髪のエリザベート様が見えました。
あの時の凄まじく凶悪な目付きに思わず気を失ってしまいましたが……何だか残念なのです。
もう一度しっかり見てあの目で睨んでほしいのです。
もう一度あのゾクゾクとした感覚を味わいたいのです!」
とヤバい事を言う
「エリザベート様!あのクロザベート様を出せるのでございましょう?
是非もう一度お出しになっていただけませんか?なんなら一度ならず二度三度いいえ一生クロザベートでいてくださいまし!
わたくしをまたゾクゾクゾワゾワさせてくださいまし!」
と懇願された。
尚更ヤバい。
それにクロザベートって……
……ノロコの方が可愛い。
「はて?何の事かしら?」
とシラをきってみたものの、その日以来何やらかにやら理由をつけてまとわりついてくる
『お前はボンボンか!』
と突っ込みを入れたくなるほどに!
何でもいつクロザベート様とやらが出現してもいいように、できるだけ近くにいたいそうだ。
どうやらこいつ。
エリザベートではなくクロザベートに仕えたいらしい。
『こいつマゾか?』
ノロコを語り出すと止まらないジェシカ。
あの目がいかに凶悪で凄まじいか?
どれ程ゾクゾクゾワゾワしたのか?
もう少しで失禁しそうになったのに、先に失神してしまった。私もイレーネ姉様やメリッサのように人前で羞恥を晒してみたい。
エリザベート様の目力では満足できない体になってしまった。責任をとってくれと言われた。
アホか!
オクダタエコが出現する以前のエリザベートなら、泣いて喜んで常時側に置くだろうが、真っ平ごめんだ。
ヘンタイはイヤだ!
こんなに可愛いのに!
タエコはいつも一人だったので、一人が心地いいのだ。
ただでさえこの頃従者が目の色変えてまとわりついてくるのだから、せめて一人の時くらい気を遣って一人で居させて欲しいものだ。
今日もこうして人前ではとても恥ずかしくて出来ないポーズの練習をしていたのに!
でも何故か、ジェシカに見られても全然恥ずかしくはない。
「薙ぎ払うって、何を薙ぎ払うのでごさいますか?」
ジェシカが聞いてくる。
従者は主人が声をかけるまであまり言葉を発するなと教育されているはずだが、このジェシカは違う。
興味があるものがあると食らいついてくる。
いままではエリザベートの目力がジェシカの興味を上回っていたが、ノロコを体験して目力耐性がついたらしい。ジェシカの隠していた本性が露になったのだ。
その点、オタコと似ている。
オタコ。高校生の時につけられたアダ名、黒縁オタコをエリザベートはそう呼んでいる。
何やら興味のある物を見つけると、一時的にそればかりを追求する。
一年間歴女であった頃は、ひたすら歴史書を読みまくりDVDも歴史関連の物ばかりを借りた。テレビも歴史関連ばかりを見ていた。
あとワンシーズンだけだが、高校野球にはまった。
あの頃真っ黒イガグリ頭がタエコをときめかした。
今となっては何の役にもたたない知識をひたすら溜め込んだ。
先日もポヨポヨとの別れ際、この異世界にはない野球に関連付けてポヨポヨを褒め称えていた。
だってエリベザートよ!
べとザを入れ替えれば完成じゃない?
野球で例えたら、ボール一個分外れているようなもの。
思わず『もう少しでストライク』なんて叫んでた。
とにかく何やらかにやらのオタク担当がオタコなのだ。
そうそう今はジェシカに食らいつかれていた
「薙ぎ払うのはダンゴムシよ!」
「はあ。ダンゴムシですか?
あやつら払われるとコロコロ転がって行きそうですが……」
おや?この世界にもダンゴムシがいるの?
「ジェシカは知っているの?ダンゴムシ」
「ええ。もちろんでございます。
あっエリザベートお嬢様!少々お待ちください。
先程とびきりのを見かけましたので……」
というや否や、ダッシュで部屋を飛び出していった。
それから五分ほどして息を切らし切らしもどってきて、手に持った得体のしれない物を差し出してきた
グェ!なんじゃこりゃ!デカ!
ジェシカの右手には15㎝ぐらいもあるダンゴムシがこちら側に腹を見せていた。
ワシャワシャと腹側一面の無数の足が蠢いている
「それ、丸くなるのかしら?」
オタコの興味が気持ち悪さに勝利したらしい
「もちろんでございますお嬢様。
丸くなるからダンゴムシでございます」
そして床にひっくり返すと頭?ケツ?どっちかわからないけど、先端の方をての平でぺちぺち叩き出した。
するとぐるっと丸くなった
『この大きさ。まるで野球のボールだわ』
タエコは、オタコがそれを掴んでぶん投げたくなる衝動を必死に耐えるのであった。
タエコは耐える子。




