二人のレーネ
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とても嬉しく励みになります(^-^)
次回から暫く不定期投稿になります。
ちょっとリアルが忙しくて、なかなか執筆が出来ません。
今は穴を空けないようストックを書いてます。
連載再開までお待ちください。
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[屋根裏の聖女様]はストックがあるので、そのまま連載続けます。宜しかったらそちらを読んで頂けると嬉しいです。
『あの時はどうしようかと思ったわ』
エリザベートはイレーネが突然辞表を提出した事を思い出していた。あれから直ぐにイライザとミザリを呼んで、理由を探らせた。
特別に侍女の控室で飲酒の許可を与え、少し強い酒を飲ませて理由を聞き出して貰った。
どうやらイレーネは、わたくしの傍を離れたから襲撃事件が起きたと、自分を責めて責任を感じていたみたい。
わたくしは彼方の世界でのオクダタエコの交通事故の影響で、此方のわたくしが事件に巻き込まれたのを知っている。もしあの事件が起こらなくても、何らかの形で命に関わる事件や事故に遭っていた可能性が高い。
わたくしとしてはジェシカやメリッサを巻き込んだのが心苦しく、後遺症の残ったわたくしを懸命に介護してくれた五人には感謝しかない。
むしろ、イレーネにはカイル卿との青春の日々を、介護で奪ってしまった負い目もある。
でもイレーネの気持ちも分かる。
目の前にわたくしの介護という人参がぶら下がっていたので懸命に走っていたけど、いざその人参が失くなって立ち止まってみた時に、あの蓋をしたままで心残りだった襲撃の日を思いだしてしまったのだろう。
ポッカリと空いた隙間に膨らんだ罪悪感が、はまってしまった。それに燃え尽き症候群も重なってしまった。
このまま辞めて終えば一時的には罪悪感が収まるかもしれないけど、根本的な解決には成らないと思う
──自分は幸せになってはいけない
そう思い込んだメリッサをそのままにしては置けない。
何せあの五人の侍女達は、わたくしの可愛い娘なのだから!
カイル男爵との婚約解消を決めたメリッサの意志は取り敢えず尊重し、受け入れたフリをした。
わたくしは直ぐにシレーネ母様とカイル男爵と会合を持ち、イレーネの意志を伝えた。
シレーネ母様は呆れ、カイル男爵は意気消沈していた。
そこでわたくしは二人に少しの間、イレーネを無視して放って置いて欲しいと頼んだ。カイルは納得せずらその足でイレーネを説得に向かおうとしたので、引き留めるのにちょっと苦労した。
姉のシレーネの説得で、カイルは折れて暫くイレーネとは接触しないと約束してくれた。
でもカイルは
「ボクはイレーネに一目惚れして、愛しい想いは強くなる事はあっても失くす事は出来ません。
ボクはイレーネ以外とは誰とも添い遂げるつもりはありません!」
わたくしに言い切った。
わたくしにも異存はない。相思相愛は明らかなのだから……。
わたくしは与えられた時間を有効活用すべく、父に直談判しに行った
「わたくしはイレーネを失いたくありません。
これから代を重ねても、イレーネやその子達と共に歩んで行きたいのです。
付きましては、カイル様に伯爵位をお与え下さいませんか?」
テイラム公爵は、細面の顔をしかめて
「それは出来ぬ。まだ何の功績を持たぬカイル卿に子爵の地位を与えるのにも気を使ったのだ。それを伯爵になど出来ぬ」
「ではわたくしが伯爵位を買い取るのは如何でしょう?領地など、余計な物はいりません。ただの名義……地位が欲しいのです。買ったわたくしが誰に与えようと非難される謂れは無いでしょう?」
テイラム公爵は顎に手を当て、考える
「良かろう。爵位など腐る程あるからな。
だが高いぞ。
そうだな。10億エル。これだけ払えれば皆も納得しよう。但し。只の伯爵位だけだ。
領地収入も何も見込めんぞ」
「良いでしょう。其くらいなら蓄えがあります。
買いました!」
10億エル。日本円でまんま10億円。
わたくしの資産の1/3だけど、背に腹は代えられない。
伯爵位の維持費は、わたくしの事業をスタッフを付けてイレーネに任せるつもりだから何とかなるでしょう。
伯爵位の10億エルは回収するつもりはない。
これはわたくしの感謝の気持ちだから。
ということで、強制的な手土産を持参で、首都の公爵邸内、シレーネ義母様のサロンでカイル卿を秘密裏に呼び寄せ会談。
二人とも、いきなりカイル男爵に伯爵位が降って来て困惑を隠せていない。しかもわたくしの個人資産から10億エルも出して購入したと暴露したから、二重の驚きね
「エリザベート様!とてもボクには伯爵など務まりません。子爵の話でも驚きなのに!」
「誤解しないで。誰も貴方を出世させようとか、期待しているとか、有りませんから。
これはわたくしのイレーネへの恩返しです。
カイルさん。貴方。男だったら、つべこべ云わずに受け取ってイレーネを物にしなさい。
そして名に恥じない立派な男と成り、イレーネを支えてあげなさい!
貴方。全身全霊を賭けて口説き落とすよ。そのための投資と思えば安いものよ!」
カイルは俯いて何やらブツブツ言っている。
「勇気」だとか「あたって砕けろ」とか「砕けちゃダメだろ」とか言っている。
シーレネ様。立ち上がると弟の背中をポンと叩いた
「愛しているのでしょう?
一目惚れから本気で惚れて、愛に至ったのでしょう?
わたしもただの伯爵令嬢から、側室とはいえ公爵婦人になったのよ。貴方なんて、伯爵家の次男坊から只の伯爵になるだけじゃない。
暮らしぶりも慣れているから、何とか成るでしょう。
以前のイレーネなら危なっかしいお嬢さんだったけど、今の彼女なら大丈夫。
しっかりささえてあげるのよ」
「分かりました姉さん。
ボクは何が何でもイレーネを妻にします!
何度断られても諦めません!」
わたくしはカイルの決意に目を細めて……
「その意気ですわ!
良いですか?わたくし、一度与えた爵位を返せなどとみみっちい事は致しません。
が……イレーネが伯爵婦人に成らねば、貴方の存在はヘタレと認識されるでしょうね。
王国騎士がヘタレでは、いけませんことよ!」
☆
それから二週間後。
国王の承認を経てバレンシア伯爵と成ったカイルは、温泉街の高級ホテルでイレーネに改めてプロポーズをして、また婚約者に返り咲いたわ!
その後の……わたくしは衣料品のブランド事業をシレーネ様とイレーネに譲り、二人は共同で[二人のレーネ]というブランドを立ち上げたわ。
それは軌道に乗り、わたくしが買ってレンタルした伯爵邸の維持費を賄って余り有るほどの財産を築き、伯爵邸もわたくしから買い上げたわ。
まあ……それは……随分と後の話ですが……ね。