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消えゆく世界


それはまるで嵐だった。


吹き荒れる暴風!


わたしはセイラは嵐に漂う一隻の小舟のように、ただ荒れ狂う波に身を委ねるしか無かった。


セイラの初めての相手は、セイラの事なんて認識していなかった。ただ不安や恐れや、心の中に押し込めていた諸々の感情を一気に履きだしたに過ぎなかった。


セイラは、泣きながら荒れ狂うジンを必死に掴んで抱き締めて、受け入れていた。


気が付いたら……すべてが終わっていた。


痛みも快楽もなかった。


ジンは糸の切れた凧のように急に失速して、わたしに覆い被さった。ジンの分身を受け入れたわたしは、ただ彼の背中を撫でていた。


そしてジンは上体を少し起こして、わたしを見た。

まだ涙に暮れていた。

きっとジンはわたしに何をしたのかも分かっていないのだろう。


虚ろな目でわたしを見つめている


「ジン。わたしはセイラよ。

ここにいるわ」

「……セイラ?」


「何も心配しないで……今はただ……わたしだけを見て……そして……」


わたしはジンにキスをした。


あの夢の世界でセーラがエアリスにしてあげたように、セイラもジンをまた受け入れた。


ここも夢の世界。


刹那で消えゆく世界。


わたしはセイラでセーラ。


ジンはジンでエアリス。


あのもう一つの世界で日々愛し合ったように……。


わたしもこの世界でジンと愛し合う。


ううん。


愛し合ってなどいない。


ただのわたしの一方通行。


それでもいい。


ただ今夜だけ……。


この刹那の夜だけが……。


わたしがジンと二人きりで過ごせる最後の夜。


セーラとエアリスが愛し合ったように……


わたしもジンへ愛を捧げる


わたしはセーラとなり


ジンはエアリスのように


わたし達はあの世界で当たり前だったように


求め受け入れ交じり合った……。


何度も……。


何度も……。


そして夜が明けた。


わたしは起き上がってカーテンを明ける。


あれだけの嵐が嘘のように……。


世界は光に包まれている。


ベッドの上ではジンが死んだように眠っている。


わたしはジンの頬に触れ、唇にキスをする



「さよなら。ジン。わたしの愛する人」




☆★☆




甘ずっぱい香りがする。


この香りは忘れない。


幼馴染の、姉のような……家族のような……。


遠くにいてもいつも繋がっている人


セイラ……。


──セイラ?!


ジンはズキズキする頭を押さえて上体を起こし、辺りを見回す。自分はベッドの上で寝ていて、体が異常にダルい。


何故か腰も痛い。


それにこの部屋……。


間違いない。セイラのお店の部屋だ。


セイラは雑貨屋であんなに可愛い商品を扱っているのに、何故かこの部屋もセイラの実家の彼女の部屋も、女の子らしくない飾り気のない部屋だ


「何でここに寝ているんだ?」


何となく原因は分かる。

飲み過ぎたのだ。


目覚めぬタエコさんにやるせなく、そのことで相談に乗って貰おうとセイラの住む街まで足を運んだ。

でもそこで最近妙にセイラに避けられているのを思いだし、二の足を踏んだ。


雨足が強くなったので、雨宿りも兼ねて飲み屋に入ったのは憶えている。


そこからの記憶がない……


──馬鹿をやらかしたな……


その記憶のない中……うん?……何となくコンビニで傘を買い、家で飲もうと酒をしこたま買ったのは思い出した。

そして……


──セイラの店へ向かったのか?


当初からの目的だったから、無意識に足をむけたのか?

セイラは自身の休日以外は店に寝泊まりしているのは知っている。


ここの組立式の家具もテレビも、設置したのはぼくだ。

だからこの部屋にも何度も来たことはある。

泊まった時もあった。


──その時はソファーに寝たな……


でも今はベッドを占拠している。

見覚えのある犬の柄のTシャツは、セイラのだ。

布団をめくると半ズボンが見える。下着は履いていないようだ。


ジンの服……シャツとボクサーパンツはサイドテーブルに畳んで置かれて、スーツとYシャツはセットでハンガーで吊るされている


──雨に濡れたのか?


嵐が来るのは知っていた。

ただジンが飲み屋に入った時は、まだそんなに雨足は強く無かった。でもコンビニで傘を買ったとなると……その頃には雨が強くなっていたのだろう。

傘と酒を買った記憶があるのに、その前後がサッパリと抜け落ちている


──また頼ってしまった


以前もセイラの前で飲み過ぎて介抱されたことがある。

一度や二度で無い筈だ。

それにしても……


「腰痛てぇ」


倦怠感も凄いし、何をどうしたらこんなになるのだろう?


ようやく起き上がって居間へ向かう。

流石にノーパンはどうかと思うから、パンツを履いてからまた半ズボンに足を通した。


居間にはソファーで、毛布にくるまっているセイラがいた


「お早うセイラ」

「ああ……やっと起きたわね。今何時?」


「うぇ。もう11時近いよ。セイラ店は大丈夫?」

「ええ。今日は臨時休業にしているから、大丈夫よ」


セイラは毛布を被って顔も向けてくれない


「あの……セイラ。俺。昨日のことサッパリ憶えていないけど、何かやらかした?」


「はぁ~」


毛布の中から大きなため息が聞こえる


「やらかしたわよジン。

お陰で腰を痛めたわ。

体もダルいし、全身筋肉痛で動けない……特に股が……」


最後の方はゴニョゴニョと言い淀んで良く聞きとれなかった。


ただジンは自分が何かやらかしたのは分かった。







ミナトセイラパート


書き始めの時、R15案件になるとは思っていなかった。


初めはミナコが見た夢のように、セーラが君臨するものだと思ってた。


一寸先は闇状態で描いてるから、思いもよらない事が起きる。


でもこんなセイラもセーラも人間臭くて嫌いじゃないかも……。

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