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花が散った、その後に  作者: 魚の涙


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13 生還した男

その花畑から、抜け出せますか?

 薬物の効果から脱した私は、基底体の状況を確認する。

 幸いにも脳に強い影響を及ぼす薬物では無かった。

 他の身体との連携に大きな支障は無いが、基底体の神経に若干の影響が残留していしまっている。

 臓器にも深刻な影響はあったが、そちらは死体屋が残した死体ペーストをを用いて回復済みだ。


 人体を作る中で一番気を使うのは神経系だ。

 ここが上手く機能しなかった場合の調整は困難を極める。

 この集落が生産していたのは光の福音と呼ばれる違法薬物だろう。

 薬物で脳や神経をやられた中毒者が行き着く非常に強力な薬物だ。


 それを摂取したのにも関わらず、短時間でここまで回復した。

 やはりこの身体の完成度は高い。


 多少時間をかければ神経系の不具合も調整可能なのだが、そうも言ってられない。

 私が行動不能になっている間に逃げた死体屋は南の王国に逃げ込んだらしい。

 場所が場所だけに直接の確認は取り様も無いが、教団の連中が寄越した情報で信憑性は高い。

 その情報には別の情報が付随していた。

 南の王国に、古鞄の川流れがいると言うのだ。

 てっきり花畑そのものに用があるのだと思っていたが、花畑側から南の王国に侵入する事が目的だったのだろうか?


 古鞄の川流れが何を意図して南の王国にいるのかが分からない。

 どこかの依頼だとして、どこだ?

 聖国か? 封国か? 帝国か?


 善意の救援活動という事は有り得ない。

 風色の逃げ森の様な奇術師は他にいる筈も無いからだ。

 奇術師は誰もが自分勝手に、或いは依頼を受けて動いている。

 私だって誰かの為に花畑をどうにかしようとしている訳では無い。

 これはただの私怨だ。


 死体屋と古鞄の川流れ。

 合流したのは偶然か、或いは……。


 何にせよ時間が惜しい。

 何らかの行動は起こさなくてはならない。


 私は体内に格納していた苗木を取り出すと、その場に植えた。

 死体屋の加工した死体が散乱するこの場所は、木を植えるにはうってつけの場所だ。


 みしみしと大地に罅が入る。

 苗木が水と養分を求めて根を広げているのだ。

 もしこの場所まで花畑が浸食して来る事が無ければ、十年程でこの木は枯れるだろう。

 もしこの場所まで花畑が浸食して来るのならば、この木は花畑を食い止めるだろう。


 めきめきと若木程まで成長した木を一瞥して、私は尻尾を展開した。

 回転翼が回り風が若葉を激しく揺らす。

 尻尾でバランスを取りながら飛び立った私は全ての目を閉じた。


 花畑は森林を乗り越えてはいないが、高度を上げれば視界に入ってしまう恐れがある。

 植林の進行具合と花畑の浸食具合を確認し……。


 耳が、花畑に近い耳が、一人の男を捉えた。

 荒い息遣いと呟く様な罵倒。

 その声からは虚勢と恐怖が強く滲み出ている。

 他人に聞かせる事を前提としない声だが、私の耳はそれを正確に拾う。


 その声は知っている。

 銀芯の獣追い、取るに足らない奇術師だ。

 そう思っていた。


 それがどうやって花畑から脱出したのだろうか?

 銀芯の獣追いは花畑に抗える程器用な奇術師では無かった筈だ。

 それに漏れ出る罵倒から聞き取れた内容も少々気に掛かる。


 風色の逃げ森とカミノクラ=アズキ。

 化け物と化け物の争い。


 私の知る限りどちらも花畑に踏み入ってはいない筈だ。

 と言うより、どちらも花として散っている筈だ。

 風色の逃げ森については私が直接確認した訳では無いが、聖国と封国の密偵から盗み聞きした内容だ。

 花畑の中では死者すら蘇ると言うのか?

 不死すら実現していないと言うのに、死者の蘇生等……と言い切れ無いのが花畑か。


 ……確認しない訳には行かないか。


 古鞄の川流れと死体屋も気になるが、だからと言って花畑に踏み込む訳にもいかないのだから。

 ならば花畑から出て来た銀芯の獣追いに接触する方が先か。


 私は移動を開始する。

 翼が上限まで回転数を上げ、体幹を傾斜させる。

 補助翼が展開され、回転翼が位置を変える。

 体内で精製した発火性の液体を爆発させ推進力を上乗せする。


 消耗の大きい移動方法だが、銀芯の獣追いの移動速度が思いの外速い。

 当たり前と言えば当たり前だ。

 銀芯の獣追いは地上における移動速度と言う点では非常に優秀だ。

 獣追いでありながら猟犬とすら言われるあの大男は、図体に似合わず非常に素早い。

 悠長に追い駆けていては聖国の中まで逃げ込まれてしまう。


 もしそれが、聖国に花を招き入れる行為となるとしたら大問題だ。


 目を開く。

 景色が濁流の様に後ろへと流れて行き、視界の中に占める森林の比率は増えている。

 二つの王国と聖国に挟まれた森林地帯。

 花畑の浸食が激しく危険な区域だが、これ程の速度で動いていると目を使わざるを得ない。


 銀芯の獣追いの背中は簡単に補足出来た。

 大男である事もそうだが、特段隠れようとしていないのだから当然だ。


 必死に逃げるその様子。果たして逃げているのは花畑からかそれ以外からか。


 銀芯の獣追いが振り返って、空を見た。

 まあ当然だ。私もまた隠れようとはしていない。


 私を見て目を見開く銀芯の獣追いは、二本の腕を持っていた。

 白く細いその腕は、機能面はさておき造形は素晴らしい物だった。


 と言うか、見覚えがあるなあの腕は。

 妖腕の花売りの腕では無いか?

 取るに足らない奇術師だと思っていたが、花畑から妖腕の花売りの死体を持ち帰るとはなかなかどうして。

 今も私を迎え撃つために自慢の銀芯を身体に纏わせている。


 減速する手間が省けたかもしれないな。


 一応補助翼で制動を掛けつつ、そのまま突っ込む。

 覚悟出来ていたのか、銀芯の獣追いは銀芯を湾曲した板にして掲げた。

 勢いを上方向に逸らして受け流す気だろう。


 私は少しだけ軌道を上に逸らして、直後に回転翼を使い急降下を行う。

 急降下と言ってもこの速度だ、横から見れば真っ直ぐ突っ込んで行く様にしか見えないだろう。


 だが、銀芯の獣追いの不意を突く事は容易だった。

 流石に銀芯に知覚能力は無い様だ。

 あったとしてもこの速度に対応出来たとは思えない。


 激しい衝突音が周囲の森林を揺らす。

 銀芯が液体の様に弾け飛び、銀芯の獣追いはすっ飛んで行った。

 私も幾らかの推進力を上向きに逸らされて空へと飛ばされるが、ここまで減速すれば十分に制御可能な状態だ。


 空に向けて弧を描き宙返りする形で銀芯の獣追いの前に着地する。

 銀芯の獣追いの顔が引き攣っていた。


 人体改造者に対してこう言った反応は普通なのだ。やはりあの死体屋は異常だ。


「少しばかり話を聞きたいのだが、いいかな?」


 死体屋の時とは異なり、まだ銀芯の獣追いと争う気は無い。

 なるべく友好的な声を装って手を差し伸べたが、銀芯の獣追は自力で立ち上がって見せた。

 タフだな。


「話を聞こうって感じの突っ込み方じゃ無かったぞ?」


 声から感じ取れるのは虚勢と警戒。

 一応話を聞く態度ではあるな。


「急いでいてね。花畑の先を越さないといけないからね」


 花畑と言う単語に銀芯の獣追いが反応を見せる。

 あの判然としない印象の死体屋に比べるとやり易い相手だ。


「またあの花畑に行けって言うのならお断りだぞ? 一応依頼の最中なんでね」


 死体屋に比べて言葉の数は少ないが、その実必要な情報がぼろぼろと漏れている。

 この様子なら聞きたい事を聞き出すのは容易だろうし、何より利害が一致する可能性は十分に高い。

 偽る必要は……特に無いだろう。


「簡単な事だ。花畑を封じ込めたくてね。内部の情報を聞きたいだけだよ」


 生還するとは思っていなかったからね、銀芯の獣追い。

 嘘偽りの無い賞賛を込めてそう言い加えると、銀芯の獣追いは若干動揺しながらも私の名を問うた。


 私は長らく活動していなかった奇術師だ、名と身体が一致しないのは仕方ないだろう。

 ……名は知っているよな? それなりに有名の筈だが。


「すまないね、名乗るのがまだだった。私は三翼の飛眼球。弟子を呑まれた恨みで花畑を踏み躙る者さ」


 名も知らなかったらどうしようと心配したが、それは杞憂に終わった。

 銀芯の獣追いは見開いた瞳に納得の色を滲ませてから、天を仰いだ。


「何でこう格上の奇術師ばっかり……」


 それは銀芯の獣追いが格下過ぎるからなのでは? と言う言葉は言わずに置いた。

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