ボイコット
「では、いよいよ王子さまの婚活パーティーですわね! さあ、きれいなドレスにガラスの靴、そしてカボチャの馬車をチャーターしてくださいまし!」
すると鳩はやれやれと肩をすくめた。
「ポッポッポ、カボチャの馬車が出てくるのはペロー版シンデレラで、グリム版には出てこんのじゃ」
「そんな……それじゃあ、このわたくしに城まで歩けとおっしゃるの?」
「もちろんじゃ。そもそも、ちょっと歩くのも面倒がるようなズボラさでは、とても王子の嫁など務まらん。そなたにはプリンセスとして相応しい気品とたおやかさを身につけてもらうぞ」
「あら、品の良さなら自信がありましてよ。社長令嬢として厳しく躾けられてきましたから」
すると鳩がかぶりを振った。
「ポッポッポ、そんな見掛け倒しじゃ何の役にもたたんわい。本物のプリンセスになるには修行が必要じゃ」
「修行? まあ、わたくしに何をさせるおつもりかしら?」
「継母は、なんだかんだと、これまでそなたに最低限の食べ物は与えてきた。じゃが、先ほどの喧嘩で機嫌を損ねた継母は今後そなたに何も与えないであろう」
「そんな……では、わたくしに断食しろとおっしゃるの?」
「安心するがよい。空じゅうの鳥たちがそなたのために食べるものを集めて持ってきてくれるのじゃ。しかし、もしそなたが鳥たちに感謝もせず、理不尽なことを言い出すものなら……やがて鳥たちはそなたのために何もしなくなるじゃろう」
「わかったわ。礼節をわきまえることくらい、子供の頃から厳しく躾けられてましてよ」
灰原がそういうと、鳩は飛び去って行った。
果たして鳩の言った通り、継母は「もうおまえには食べるものはやらない」と言い出した。やがて灰原は空腹を覚えたので、外に出て空に向かって叫んだ。
「鳥さんたち、わたくしに何か食べるものを持ってきてくださいな!」
すると瞬く間に空から大勢の鳥たちが飛んで来て、灰原の目の前にたくさんの木の実を置いて言った。空腹だった灰原は夢中でその木の実を掴んで口に入れた。ところが……
「ぶぇぇ……」
あまりの渋さに吐き出してしまった。鳥たちの集めたものはあくまで鳥的に食べられるものであって、人間にとって食用であるかどうかは全く考慮されていなかった。
「鳥さんたち、せっかくだけどわたくしは食べられないわ。お願い、わたくしに食べられそうなものを持ってきてくださる?」
そこで鳥たちは行って、もう一度集め直してきた。しかしまたしても灰原が食べられるものは少なかった。鳥たちのまとめ役と思われるキジバトが言った。
「申し訳ありませんが、我々には人間の味覚がわからないのです。貴女様ご自身で試食し、食べられそうなものを選別して下さい。次からはそれを集めてくるようにいたします」
キジバトの提案通り、灰原は全ての種類の木の実を一つずつ試食した。そのほとんどはひどい味で、灰原にとっては非常に苦痛を伴う作業となった。結局、灰原が問題なく食べられるものは全体の一割にも満たなかった。
「ぐえええ、こ、このわたくしが選んだ木の実を集めて持ってきてくださいまし」
キジバトはそれを見ると、鳥たちに指示を出した。そして再び鳥たちは木の実を集めて灰原の前に置いた。さすがに今度は食べられるものばかりで、ようやく灰原の空腹も満たされた。
しかし、毎日毎日木の実ばかりではさすがに飽きる。灰原はキジバトに苛立ちを露わにしていった。
「わたくしは人間ですのよ。毎日木の実ばかりでは体を壊してしまいますわ。パンやお肉も持ってきて下さいな」
「……それは難しい注文ですが、何とかしましょう」
しばらくすると鳥たちは戻ってきたが……
集められたのは、干からびて石のように固くなったパンや、得体の知れない動物の死骸だった。すさまじい腐臭に、灰原は気を失いそうになった。
「早く、これを捨ててきてくださいまし! こんなの食べられるわけなくてよ!」
灰原のあまりの剣幕に驚いた鳥たちは、慌てて動物の死骸を持ち去って行った。灰原は残されたパンを何とか頑張って口に入れたが、ひとかたまり食べ切るのがやっとだった。
次の日、空腹を覚えた灰原は外に出て鳥たちに呼びかけたが、何の返答もなかった。昼になり、夕方になってもうんともすんとも言わない。激昂した灰原は空に向かって叫んだ。
「早く、わたくしのもとに食べるものを持って来なさいよ! お仕事を怠ける何でどういうおつもり!?」
すると、一羽のスズメが弱々しく飛んで来て、すまなそうに告げた。
「申し訳ございません。わたくしどもは、貴女様にはもうお仕えすることが出来ません」
「出来ないってどういうことですの!? まさかわたくしをボイコット!?」
スズメはただペコペコとひたすら頭を下げて、逃げるように去って行った。
(一番下っ端のスズメに言わせるなんて……ずいぶんなめられたものですわね!)
言いにくい伝言を下っ端に言わせるのは鳥の世界も同じようだ。しかし、これによって灰原は生きるか死ぬかの深刻な状況に追い込まれたことになる。




