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心の願い

 鳩と別れてから、灰原は非常に不機嫌だった。そこにタイミング悪く継母がやってきた。

「シンデレラ! 食器が全然きれいになってなかったじゃないの! あやうくお客様に出して大恥かくところだったわ!」

 だが灰原は詫びの一つもなく、冷たい視線で継母を見つめた。

「な、何よ!」

「可哀想なひと……そうやってわたくしに辛く当たるのは、きっと愛情に飢えてらっしゃるからなのね……」

「何ですって、もう一度おっしゃい!」

「ええ、何度でも言わせていただきますわ。あなたはお父さまから可愛がってもらえないことでストレスが溜まってるのですわ。……無理もございませんわね。前の奥さん……いえ、わたくしのお母さまは、それはそれはきれいで優しそうな方でしたもの。それにくらべてあなたときたら……底意地悪くてヒステリー、家事は家政婦任せの食っちゃ寝生活で、中年太りのブヨブヨボディー……それで男に愛されようなんて虫が良すぎるんじゃありませんこと!?」

 すると継母のブヨブヨボディーが

怒りでパンパンになり、着ていた服のボタンが弾け飛んだ。

「このクソガキ……もう許さんっ!」

 継母は鬼の形相で灰原に殴りかかってきた。肥満体型の緩慢な動きではあったが、怒りと体重の込められたパンチは重い。灰原はすんでのところでけたが、まともに喰らっていたらただではすまなかっただろう。灰原は相手の動きを封じ込めるために反撃に出ようとしたが……

「何してるんだ、やめなさい!」

 父親が割入ってきて、二人を仲裁しようとした。すると継母の怒りの矛先が父親に向かった。

「あなた、この子にいったいどんな教育を施してきたんですか!? あなたも何か言って!」

 すると父親が灰原を諭すようにいった。

「シンデレラ、お前には色々苦労かけてしまったことはよくわかる。でも、言っていいことと悪いことがあるよ」

 ところが灰原は言い返した。

「お父さまもお父さまですわ。わたくしが虐待されてるのを見て見ぬふりなさって! 手を出さなければイジメに加担してないとでも思って? 何もしないで傍観しているクラスメイトもみな加害者同然ですわよ!」

「……? いったいなんの話をしているのだ?」

 灰原はキョトンと立ちすくむ父親を置いて、その場から立ち去った。


 家を出てハシバミの木のところまでやってくると、灰原は悔し涙を流した。

(偉そうに言ったけど、結局私もあの人たちと同じですわ! 愛情に飢えて、周りに当たり散らしながら『私を認めて! 私を愛して!』っていつも心で叫んでるの!)


 灰原がそうしてさめざめと泣いていると、空からパタパタと白い鳩が舞い降りてきて、木の枝に止まった。

「ポッポー、……おや、そんなに泣いて、何かあったのかね……?」

 すると、灰原は鳩を見上げて言った。

「鳩さん、わたくし……心の願いを叶えて欲しゅうございますわ。お願いできるかしら?」

「よろしい。そなたの心の願いを叶えてしんぜよう!」

 そういって白い鳩は両羽を広げてパタパタと羽ばたかせた。

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