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父親と義理の姉

 強制的に着せられたボロボロの服は、ゴミみたいな嫌な匂いがした。

「うっわぁー、臭っさ!」

 声のした方を見ると、二人の女がそこにいた。……灰原はその顔を見て驚いた。

「あなたたちは……那須と鳥瀬? あなたたちもこっちの世界においでになって?」

 一瞬二人はキョトンとしたが、すぐに居丈高に灰原を睨みつけた。

「私はアナスタシアよ! 間違えないで!」

 と言って那須似の方が灰原の右頬をビンタした。

「私はドリゼラ! 名前を間違えるなんて、失礼だわ!」

 と、今度は鳥瀬似の方が灰原の左頬をビンタした。

「痛いですわね……」

 灰原はアナスタシアとドリゼラを睨みつけた。

「何よその目、私たちに歯向かうとどうなるか思い知るがいいわ!」

 アナスタシアとドリゼラ……すなわち〝姉〟たちは、今度は灰原の髪の毛を引っ張ったり、首を絞めたりと、激しい暴力をふるった。

(こんな虐待、令和の日本じゃ考えられなくてよ!)

 そうは思っても、闇雲やみくもに反撃することは得策でないと判断し、〝姉〟たちの虐待にじっと耐えた。

 灰原が会社で権力を振りかざしていられたのは、法律や人脈、そして業績など、さまざまな後ろ盾があったからに他ならない。今の灰原はいわば丸腰で守るものもなければ攻撃手段もない。

(待てば海路の日和あり……見てなさいよ、そのうちあなたたちの頭をこのかかとで踏みつけてみせますわよ! オッホッホッホ)


 灰原がひと仕事終えて後片付けをしていると、「おはよう、シンデレラ」と声をかけられた。振り向いてみると、それは見覚えのある男の顔だった。

「か、川井宗太郎(かわいそうたろう)!」

「カワイ? 何を言ってるんだね、私はおまえの父親じゃないか」

 ……マジですの?

「川井が父親なんて……ムリムリムリムリ! ムリですわ、こんな設定!」

「何をさっきからわけのわからないことを……ところで、私はこれから祭りに出かけて来るんだが、土産は何がいいかなと思って……」

 灰原は考えた。

「でしたら、今着ているものが酷すぎますので、せめてもっとましな服をいただきとうございますわ」

「じゃあ、ドレスなんてどうだい?」

 悪くないわ、と灰原は思った。中世のドレスなんて、一度着てみたいと思ったのだ。ところがまたアナスタシアとドリゼラがやって来て割り込んだ。

「シンデレラ、あなたがドレスなんて100年早いのよ!」

「そうよ、あんたなんか木の枝で充分よ、ねえ?」

 彼女たちは灰原にすり寄って背中をつねった。仕方なく灰原も譲歩する。

「いたた……。お父さま、木の枝を拾って来てくださるかしら?」

「そうか? そんなものでいいのかね? ではアナスタシアとドリゼラは何がいい?」

「あたし、ドレスがいい!」

「あたしは宝石と真珠をいっぱいね!」

 そういって三人は台所から去っていった。その背中を睨みながら灰原はつぶやいた。

「あなたたち……ぶっ殺してやりますわ……!」


 こうして父親は祭りに出かけ、帰り道にハシバミの木の枝が帽子に引っかかったので、それを折ってシンデレラへの土産とした。アナスタシアとドリゼラには最高級のドレスと高価な宝石の散りばめられた装飾品を買い与えた。彼女たちは精一杯媚びまくって礼を述べた。

「「ありがとう、お父さま♡」」

 そして父親はハシバミの木の枝を手に取り、それを灰原に手渡した。

「さあ、これがおまえへのお土産だよ、シンデレラ」

(気が利)(きませ)(んこと)(ここは)(空気を)(読んで)(ドレス)(を買っ)(て下さ)(いな)

 灰原は父親に目を合わせず、うつむいたまま木の枝を受け取った。それは危うく怒りのこぶしで握り潰されそうになった。

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