表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/171

Ⅰ prologue 放浪の星撃手 01 シェイク・ケイロン・サジタリアス★

 ――足りない、足りないんだよ。


 (あか)く地面へ広がる溜まり。(えぐ)られた(はらわた)より、煮えたぎる憎しみが止めどなく溢れ、渇いた土を絶望で染め上げていく。自身の相棒(狙撃銃)を抱きかかえたまま、オレは苦虫を噛み潰したように呪詛を吐く。


「ちっ、どうやらオレはここまでのようだな……」


 オレの辞書に信用という言葉はない。明日死んでもおかしくないような世界でオレは生き方を学んで来た。この世界は腐っている。まぁ、この腐った世界で暗殺稼業をやっているオレも同じような人間だったのかもしれないな。


「くっ……!」


 痛みで全身に力が入らねぇ……意識が朦朧として来た。依頼主に裏切られ、こんな形で追い込まれるとは……〝血に飢えた獣(ブラッティウルフ)〟の通り名が形無しだな。


「なぁ、次は誰がオレを満たしてくれるんだ……」


 足りない、足りないんだよ。血が……憎しみが……オレはいつも飢えていた。オレという存在そのものを抹消し、腐った世界は暗転していき……。そして……。





 ―― スター……マスター……!?


「……!?」


 鼻孔を(くすぐ)る夜明けの風の香り。消えた焚火の後。隣に座る銀髪の女が髪と同じ色、銀色の双眸(シルバーアイズ)をまっすぐこちらへ向けている。


「もう朝か」

「おはようございます、マスター」


 どうやら昔の夢を見ていたらしい。嫌な寝覚めだな。


 真っ直ぐオレを見つめる銀色の双眸(シルバーアイズ)。この世界に似つかわしくない灰色とミント色が基調の服。銀色の髪をポニーテールに纏めた一見おかしな少女にしか見えないこいつは、創星の守護者という存在らしい。セラフィは常にオレの傍に付き、星撃手(マナスナイパー)として暗殺稼業をしているオレのサポートをしてくれている。


「オレとした事が眠ってしまうとはな」

「怪しい者は近くには居ない。安心して下さい」


 オレの辞書には信用(・・)という言葉はない。が、こいつは一度死んだ(・・・・・)オレに再び命をくれた恩人だ。この世界は極創星世界(ラピス・ワールド)と言って、星座の加護を与えられし者が存在し、魔法という概念が存在すると教えられた。この女にオレは星座の加護を与えられ、今此処に存在しているという訳だ。嗚呼、信用せずとも感謝はしているさ。


「さぁ、そろそろ時間だな。行こうか、セラフィ」

「はい、マスター」


 そして、オレは背中に相棒(・・)を背負い、パートナーと共に立ち上がる。口に長い楊枝を咥え、茶色のマントを(ひるがえ)し、オレは目的地へと向かう。




 深い森を駆ける。木の枝から枝へと渡り、地を跳ね、風となる。オレの背後を銀髪少女(パートナー)が、近未来の制服のような格好で同じ道筋を辿る。


「マスター、ターゲットはあの先」

「嗚呼、分かってるさ」


 森の出口、小さな街を見渡せる小高い丘、聳え立つ大樹の枝へオレは配置し、背中に背負った相棒を取り出す。()の腕では扱いづらかった相棒も、今となってはこの身体に馴染んでくれた。オレがパートナーである彼女へ依頼し、創らせた狙撃用のライフル。口に先の長く尖った楊枝を(くわ)えたまま、オレは仕事の準備をする。



挿絵(By みてみん)


「さぁ、始めようか。オレの手が、脳髄が、血に……飢えているのさ!」


 女神の名を継ぐこの相棒(ライフル)の名はアルテミシアライフル――AMR154。オレはこいつを含めて三つの相棒(・・・・・)を駆使し、この世界を渡り歩いている。


 オレ自身が持つ加護の力によって創られた特殊な弾丸を籠め、嗅覚、聴覚、全ての感覚を研ぎ澄ませる。遠く、街の中央へ位置する屋敷で食事をしている男へと照準を合わせる。


 やや西からの風。しかし、地球に居た頃ほどの回転速度を想定した軌道計算は必要ない。前の世界(あっち)ではコリオリ力 (=地球が回転することによっておこる見かけの運動力を、回転座標上で移動したときの移動方向と垂直な方向に受ける慣性力の一種を数式で表現したもの) の影響を考慮した軌道予測みたいなもんもやっていたからな。


 オレが受けた加護の力は、極創星世界における慣性の法則を軽く凌駕する。アルテミシアライフルから放たれる弾丸は、遥か遠く、標的(ターゲット)へ向かって飛んでいく。


 屋敷の窓硝子が割れ、闇の行商人として人身売買をしていた男の後頭部が吹き飛ぶ。一瞬訪れる静寂。それもそのはず、ラピスコーンのスープを飲んでいた男が突然頭からスープの皿へと顔を(うず)めた訳だからな。


 穴の空いた後頭部から赤い液体が溢れ、テーブルへと、床へと流れ落ちる玉蜀黍(とうもろこし)色のスープを赤く染めていく。


 止まっていた時計が動き出したかのように、その場へ控えていた数名の侍女達が悲鳴をあげ、助けを呼びに部屋を出る。助けを求めても無駄なコトだ。何故なら男の命は一瞬で尽きているからな。


「行こうか、セラフィ」

「はい、マスター」


 約三キロ先の狙撃成功を見届けたオレは、再び闇へと紛れる。依頼主より報酬を貰ったならば、この地ともおサラバだ。


 世界が変わってもオレがやる事は変わらない。〝血に飢えた獣(ブラッティウルフ)〟の通り名で地球(あっち)を渡り歩いたオレが、まさか一度死んで本当に()へと生まれ変わるなんて、皮肉なもんだぜ。


「セラフィ、どうせお前もオレを笑ってるんだろう?」

「質問の意味が分かりません」


 何年も連れ添っては居るが、本当に感情が読めないやつだな、お前は。


「まぁいいさ。報酬貰ったなら、さっさと次の依頼主のところへ行くぞ」

「はい、マスター」


 こいつが何を思ってオレに加護を与えたのかは分からないが、どうやらオレはこいつに選ばれたらしい。そして、オレは与えられた力で飢えを満たしている。


「次の依頼主の情報は?」

「はい、マスター」


 セラフィから羊皮紙を受け取る。描かれた似顔絵とターゲット。そして、依頼主の情報。

 成程な。次の依頼主はどうやら海を渡った先に居るみたいだ。


「あっちの大陸へ行くのは久し振りだな。もしかしたら、あの星戦(・・)以来じゃないか?」

「そうですね。懐かしいメンバーにも逢えるかもしれません」


 オレは誰と群れる事もない一匹狼。懐かしいメンバーなんてどうでもいいが、飢えを満たしてくれる相手に巡り合えるのなら、それは大歓迎だぜ。


 灰色(アッシュグレー)の瞳へ映るものは怒り、憎しみ、飢え。

 さて、次は誰がオレを満たす?

 オレの名はシェイク・ケイロン・サジタリアス。射手座の加護(・・・・・・)を与えられし、血に飢えた狼さ。



☆☆☆

シェイク・ケイロン・サジタリアス/キャライラスト:あっきコタロウ様


大変お待たせしました!

他サイトで有料連載しておりました第3章、こちらで掲載出来る準備が整いましたので更新を再開致します。隔日更新となるかと思いますが、今後ともよろしくお願い致します。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続きが気になる、いいねと思っていただけましたら今後の励みとなりますので、
巻末にある評価ボタンをポチっといただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

【とんこつ毬藻の新作は新しい生活様式を取り入れ追放聖女の恋愛ファンタジー!?】


『テレワーク聖女~女の嫉妬が原因で国外追放されたので 今後は王子も魔王もEXスキル【遠隔操作《リモート》】で対処します』はこちらです★



小説家になろう 勝手にランキング

ランキング登録しました。クリックのご協力、よろしくお願いします!



ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ