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34 ハルキ・アーレス 直接対決②

「ダークエルフ……魔族の国でもないのにどうして……」


 邪素(ダークマナ)を大量に纏い、悪意に染まったエルフ。眼前のエルフは明らかに魔物化していた。軽鎧を着たエルフが手に持つ槍を振るうと、風の刃が俺の体躯を引き裂こうと迫り、俺は思い切り高く飛び上がり、槍先から炎の閃光を放つ。


「少しは戦場で踊ってくれよ! ――火星焔槍(マーズスピア)!」


 紅く燃える炎がダークエルフへ届く直前、彼の振るった槍が放つ風により火焔流が巻き上がる! しかし、巻き上がる紅蓮(あか)をそのままにダークエルフの体躯へ向け槍先を突き出す。刃が体躯を貫く直前、エルフの槍が俺の刃を打ち払う。ぶつかり合う炎と風が周囲へ放射状へ広がり、俺とエルフは一旦距離を置く。


「俺ノ風ヲぉおお、受けよぉーーー」


 狂ったエルフが槍を振るい、真空の刃を纏った風を巻き起こす。槍を回転させつつ俺はそのまま炎を巻き起こし、火焔流で風塵を強引に消し飛ばす!


「――焔舞旋回槍(マーズスクランブル)!」

 

 相殺された風を掻い潜り、前傾姿勢よりエルフへと迫った俺は、軽鎧ごと焼き払う。エルフは血走った眼をそのままに膝から頽れる。


「俺の予想が当たっていなければいいんだけど……急ごう」


 倒れたダークエルフをそのままに、先を急ぐ俺。大樹の中腹、透明な水晶で出来た螺旋階段を駆け上がる。空が燃え、大地が鳴動し、大樹が泣いている。さっきのダークエルフも恐らくきっと元はエルフだったのではないか? 邪素に中てられたか、それとも……。頭にそんな考えが過った事により、彼へ止めは刺さなかった。


 螺旋階段を上り切る直前、その異常さに気づく。全身が何かに押し潰されそうになり、思わず足が止まったのだ。女王が居た謁見の間を覆う邪素(ダークマナ)の塊。先程までエレメンティーナへ迫っていた邪素の比ではない。邪素の侵入を今迄食い止めていた筈。どういう事だ。


「無事ですか女王様!」


 階段を駆け上がり、水晶の舞台へと飛び込む。女王の前へ誰かが立っている。それは、邪素の根源とは思えない、日傘を差した貴婦人とドレスを纏った幼女だった。エルフの女王は舞台へ降り立った俺の姿をみとめ、優しく微笑んだ。


「ハルキ・アーレス。私は無事ですよ」

「この状況下でいつまで余裕の表情で居られるのかしらね」


 貴婦人姿の女性がそう吐き捨てると、貴婦人の隣に佇む幼女がこちらへ振り返り、無邪気な笑顔で手を振った。


「お、こんなところで逢えるなんてね! 初めまして~~ハルキ君(・・・・)。逢いたかったよ~~」

「お前等……何者だ……エルフの国をどうする気だ!」


 槍を構え、近づこうとする幼女を止める。一瞬不思議そうな表情をする幼女。


「どうもしないよぉ~~? ちょっと挨拶に来ただけさ」

「ハルキ・アーレス。心配要りません。この程度で私は滅びません故」


 この状況下で女王は微笑んでいる。眼下ではエルフの集落が燃えているのだ。大丈夫な訳がない。余裕の表情が気に入らないのか、貴婦人姿の女性が日傘を閉じ、女王メーテリアへと向ける。刹那、傘の先より鋭い氷の刃が飛び出すが、女王の前で透明な壁に阻まれ砕け散った。


「焦っても何も始まらないよ、ルルーシュ。ちょっと落ち着こうよ」

「オパール。この女王の態度が気に入らないのですわ」


 ルルーシュにオパール……何故かその名前に既視感を覚える。そして、俺は一つの結論へ辿り着く。


「あんた達……アルシューン公国を襲っていた上級魔族、ジュークの裏で糸を引いていた奴か」


「あれー? 僕達って意外と有名人?」

「あら、あなた中々見る目がありますのね」


 そう言うと貴婦人姿の女性は優雅に微笑む。しかし、その微笑みは冷たく、俺は背筋まで凍りそうになる。幼女はそんな俺の様子にクスリと笑い、金髪(ブロンドヘアー)を揺らしつつ虹色ドレスの裾を掴み、回転しつつお辞儀をする。


「君も加護者なんでしょう? 僕は蠍座の守護者、オパール。そして……」

「ワタクシはルルーシュ・プルート。蠍座の加護を与えられし上級魔族ですわ」


「な、なんだって……」


 (今まで確かに創星の加護者とは何名か出逢って来た。だけど、こいつらは何だ? 人を人と思っていないような、何か冷たい、肌にこびりつくような悪意を感じる……)


 全身が危険信号を発している。こいつらはヤバイ。今立っていられるのが不思議なくらいだ。


「あ、そっかぁ。僕の邪素によく耐えられるなぁ~って思ったら、守護者(パートナー)香り(・・)に護られているからかぁ~~」

「確か、あなたの守護者は……ガーネット(・・・・・)だったわね」

 

 どうやらこっちの情報は筒抜けらしい。それにしても香り……どうやらガーネットが俺につけたタイムオドルの効果により、俺の身体は邪素から護られているらしい。タイムの花言葉は確か勇気(・・)だと彼女に聞いた事があった。彼女がくれた勇気によって、こうして俺は最狂の相手を前に立って居られるという訳だ。


「どうやらあんた達は俺の事も知ってるみたいだな。で、どうする気だ。俺と殺る気か!?」


 槍先に炎を宿し、二人を牽制する。すると、(あか)(あお)の丸いオッドアイをぱちくりさせたオパールが、腹を抱えて笑い始める。


「ハハハハハハ……! 君面白い事言うねぇ~~。僕達と殺るって……!? その勇気だけは褒めてあげるよ!」

「確かに滑稽ですわね。たかが加護を貰った程度の人間風情で、ワタクシ達に挑もうなど、千年早いですわね」


 どうやらこいつら、俺と戦う気はないらしい。むしろ完全に子供扱いだ。飛び掛かりたくなる衝動を抑え、俺は二人へ尋ねる。


「分かったよ。じゃああんた達の目的は何だ? 目的によってはあんた達に戦う意思がなくとも、俺はあんた達を止めるぜ?」

「ふ~~ん。まぁ、いいや。勝手にすれば。僕の要求はね、たったひとつだよ」


 オパールとルルーシュは、豊穣の女神、エルフの女王メーテリアへ向き直り、こう告げた。


「僕達にこの国をくれない? 悪いようにはしないからさ?」


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