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29 ハルキ・アーレス 邪神の罠②

「やはりお前は外れだったみたいだナァ~!」

「いや、まだだ! ――爆星直突(イオストライク)!」


「無駄だナァ!」

「ぐはっ!?」


 奴の腕に脇腹を抉られ、そのままの勢いで岩盤へと激突する俺の身体。炎による爆発を受けても奴の身体には傷ひとつついていない。代わりに俺は今の衝撃で内臓を痛めたのか、口から赤い鮮血を噴き出してしまう。


 戦闘開始直後から俺は、奴に攻撃の隙を作らせないよう、高速で槍を突き出し、時に炎を放出し、距離を取りつつ奴の出方を窺っていた。しかし、グリードは、俺が放つ攻撃全てを腕で弾き、受け止めていったのだ。


 分厚い剛毛に覆われているせいか、奴の腕に刃が通らない。それどころか、俺が放つ強力な炎も、爆発を正面から喰らっても、奴はそれを嘲笑うかのように、無傷の体躯を見せつけて来る。こいつの分厚い防御を破らなければ、俺にどうやら勝機はない。どうする……。


「剛腕・地爆掌(ちばくしょう)!」


 俺の立っている場の地面が爆発を起こし、俺ごと吹き飛ばす。上空へと吹き飛んだ岩盤は、地面へと落ち、大地に衝撃が奔る。グリードが地に伏している俺の姿を確認し、ゆっくり歩を進める。


「なんダァ? もう終わりか? やはり外れだったみたいだナ……」

火山爆焔舞(オリンポス)!」


 倒れたフリ(・・)をしていた俺は、奴との距離が直前まで近づくのを待っていた。そして、奴の体躯目掛けて槍先を向け、圧縮させた炎を一気に爆発させる! 奴の身体は後方へと吹き飛び、グリードはそれまで使っていなかった翼を広げ、自らの地面への落下を回避する。


「ちぃ、よくもやってくれたナァ!」

火星焔槍(マーズスピア)――火焔流(マーズストーム)!」


 俺は地面へと槍先を向け、炎の渦を創り出す。地面から巻き上がる炎の勢いで、空中へ浮かんでいる奴よりも高く飛び上がり、空中で槍先を回転させ――



「――焔舞旋回槍(マーズスクランブル)焔弾(フレアバレット)!」

「剛腕・獣風陣(じゅうふうじん)!」


 高速回転させた槍からグリードへ向けて降り注ぐ火炎弾。奴は宙へ浮かんだまま両腕を振るい、強力な風を巻き起こす。しかし、俺の放った無数の火焔弾は風に吹き飛ばされることなく、奴の翼へと被弾し、奴は地面へと落ちていく。奴が自ら巻き起こす風で俺の炎を消化したところへ、俺は奴の顔面目掛けて槍先を突き出す!


「――火山爆焔舞(オリンポス)!」


 爆発の勢いで両者後方へと吹き飛ぶ。その様子を見て俺は確信する。俺の攻撃全てが通らない訳ではない。燃える翼。そして、爆発の煙に紛れて視えた奴の額。額には確かに刃が入った後があり、紫色の液体が一筋、奴の鼻先へと垂れていた。残念ながら顔に火傷の痕は見られないが、俺にとっては充分な収穫だった。


「よくも……俺様に傷をつけたナァ!」

「安心したよ。燃えた翼に額の傷。どうやら脆い場所もあるみたいだな?」


 腕と脚。あの剛毛に包まれた体躯へは中々刃が通らない。だが、翼と顔には僅かに攻撃が通じた。ならば、奴の弱点を探り、少しずつ攻撃を通していくのみだ。


「俺様を本気(・・)にさせた事、後悔するがいい! 剛脚・瞬爪(しゅんそう)!」

「くっ!」


 奴がその巨大な鉤爪で地面を蹴った瞬間、奴と俺の距離は一瞬にして零距離となり、俺は両手に持った槍で巨大な鉤爪を防いでいた。そのまま勢いで後方へ飛ばされ、防ぎきれなかった爪先が頬にあたり、鮮血が飛ぶ。俺が壁に激突した事を確認し、背中の翼で飛び上がった奴はそのまま翼を羽搏かせ、飛行した状態で叫ぶ!


「剛翼・真滑空!」


 真空の刃が混じった風がまるで獲物を狙う大鷲のように急降下して迫る。俺は槍を回転させ、炎を巻き起こし、防御する。そのまま焔弾(フレアバレット)を放とうとするも、宙へ浮かんでいた筈の奴は消えており……。


「剛腕・重腕斧(じゅうわんふ)!」


 背中へ受けた衝撃で俺の身体が前方へと吹き飛ぶ。既に俺の背後へと廻り込んでいた奴は、自身の剛腕を斧のように振るったらしい。背中が焼けるように熱い……。どうやら俺は背中へ大きな傷を負ったようだ。


「終わりか? 外れ少年?」

「俺は……外れなんかじゃない」


 背中から倒れ、地に伏していた俺を奴の巨大な鉤爪が立ち上がれないよう塞いでいる。奴の全身から放たれる妖気(オーラ)が重く俺の身体を押し潰さんと圧し掛かる。


 よかった……シーアとの訓練とガーネットから託された香りが無ければ、俺の身体は此処であっけなく押し潰されていたかもしれない。



★★★


『――加護の力はね、きっかけがあればすぐに潜在能力を開放出来るんだよ? ハルキっちは、もう知っている筈だよね?』


 嗚呼、知っているよ。まぁ、知ってしまったんだけどさ。射手座の加護――シェイクと闘う前もそうだった。俺の加護の力は受け継がれた力。軍神アーレスという、邪神や死神と同じ創星の時代に存在した神のひとりから。


 そして、その力を呼び起こすには、俺自身の加護者としての覚悟、トリガーとなる星鍵(ラピスキー)、守護者からの一時的な力の譲渡である接吻(ユニゾン)、この三つが必要になるのだと。だから俺は予め、この日の為にシーアと戦闘訓練を(こな)し、そして、旅立つ当日、守護者であるガーネットと……。


『行ってらっしゃい、ハルキ。負けるんじゃないぞ』

『なぁ、ガーネット』


『ん? どうしたの?』

『あれを……頼む』


 その時のガーネットは一瞬嬉しそうな、物憂げな表情を作り、そして、ひと言。


『夜には誘ってくれないのに、もう、なんか寂しいなぁ~。でも、そんなハルキのこと、お姉さん、嫌いじゃないぞ♡』

『んっ!?』


 彼女の少し大人びた、甘く優しい香りが俺を包み込んでいく。口腔から脳髄へ、全身へ駆け巡る熱。温かい情熱の香り。柔らかく温かい彼女の一部に触れたあと、俺は身体から溢れる熱を確かめるように、拳を握り締める。


『ガーネットは希望であり、愛の象徴。あなたがその情熱と希望を捨てない限り、私は常にあなたと共にある。忘れないで』

『ありがとう、ガーネット。行って来るよ』


★★★



覚醒力(スーパーノヴァ)――陽火星衣(マーズコロナ)!」

「ナァ!?」


 俺の全身から灼熱の炎が巻き起こり、俺の背に鉤爪を乗せていた奴の身体へ炎が燃え移る!

 後方へと飛び去り、グリードが風を巻き起こし炎を吹き飛ばそうとするも、灼熱の火炎は魔獣を捉えて離さない。


「なんダァ!? なんなんだ! この炎は!? 嘗めるナァ!」


 自らの妖気(オーラ)を全身から放出し、無理矢理炎を引き剥がす魔獣。今まで傷がついていなかった腕と肉体を覆っていた魔獣の剛毛が焼け、皮膚の一部が剥き出しになっていた。


「お前は殺す……! 剛腕・獣躙爆殺掌じゅうりんばくさつしょう!」

「無駄だよ。戦場で踊れ! ――火星紅焔渦(マーズプロミネンス)!」


 凝縮した妖気(オーラ)を両腕に溜め、真空の刃と共に放たれた魔獣の砲弾。

 俺の槍先から放たれた灼熱の豪火による火焔流。  


 二つの力の奔流が、魔国の戦場でぶつかり合う――


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