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03 メイ・ペリドッド 日常②

 人間だった転生前と比べる訳ではないのだけれど、上級魔族になって、ひとつよかったと思う事がある。


 魔族の中でも上級魔族は毒や状態異常に対する耐性が強い。特に私の場合はそこへ解析能力も伴う訳だから、戦闘に於いても特質していると言える。


 しかし、此処で言う〝よかった事〟は戦闘に於いての(それ)ではない。


白雪苺(スノーストロベリー)クレープ! 毎度あり! いつもご贔屓にありがとうね、お嬢ちゃん」

「いただくわ」


 地球の苺を二倍程大きくした白雪苺(スノーストロベリー)と生クリームをふんだんに使ったクレープ。コボルト店主のクレープ技術も上達しており、日々地球の代物(レベル)へと近づいて来ている。それもこれも王宮トップの侍女妖狐が技術を振り撒いているからに違いないわね。


「毎日甘味ヲ食ベテヨク飽キナイナ……」


 肩に乗る黒い生物が、猫目という名のジト目で私を凝視している。


「甘いわねトルマリン。この身体(・・・・)だからこそ為せる業。これを利用しない手はないわ」

「ソウカ……」


 アルシューン公国メインストリートのクレープ屋台でゲットしたクリスマス仕様のクレープを堪能する私。そう、本来甘い物の摂り過ぎは、身体に()なのだ。しかし、体内へと摂り込まれた甘味は、幸せ成分を脳内へと運んだ後、私の体内で全て溶けてなくなってしまうらしい。


 どれだけ食べても脂肪にならない。しかも、普段は星屑(スターマナ)から活動エネルギーを摂取している上級魔族は、特段食事をしなくても最低限の生活は維持出来るのだ。つまり嗜好品として、どれだけ甘味を食べても、この身体ならば毒にならないという事。私がこの事実に気づいた時、どれだけ歓喜した事か。


「そんなに毎日甘い物ばかり食べていると太るよ? メイ?」

「あら……わざわざクリスマス前に死を求めに来たの? クレイ」


 人気のない路地より私へ声をかける青年。蒼髪を女性のように靡かせた彼――クレイ・アクエリアスは、私の持つクレープのクリームを人差し指で掬い、そのまま自身の口腔内へと入れた。


「むしろ、暗殺者を退け無事に帰還した事を歓迎しに来たのさ。それに上級魔族は太らないんだろ? アメジストから聞いているから知ってるさ」

「そう。なら余計に女の子へ〝太る〟という単語(ワード)を口にした事は万死に値するわ。あなたの天秤は今、終焉へと傾いたわ。よかったわね」


 最後のひと口を食べ終えた私が、素早く〝漆黒の杖〟の先端をクレイへ向けるが、ひらりと身を躱すクレイ。トルマリンはこの茶番(やり取り)自体興味無さそうに私の肩から飛び降りる。


「まぁまぁメイ、そう言わないで。本心から喜んでいるんだからさ。今度、うちのラピス教会でクリスマスのミサをやるから来ないかなと思ってさ。子供たちも喜ぶだろうし」

「考えておくわ」


 この男の子供達を利用する狡猾さは相変わらずね。まぁ、クリスマスなんて今のところ特に予定はない。悪くはない誘いだけど、何を考えているか分からない男の誘いは|保留にしておきましょう$クレイの扱い$。


 尚、此処極創星世界(ラピス・ワールド)におけるクリスマスは、恋人たちのクリスマスがメイン……ではなく、〝極星の女神〟降誕祭の意味があるらしい。この女神信仰のお陰で、私もこの時期限定のスイーツに出逢える訳で、|女神様に感謝しないといけないわね$何か間違っている気もする$。 


「で、クレイ。どうしてついてくる訳?」

「何言ってるんだい。僕も冒険者ギルドへ用事があるんだよ」


 実は、この日私は冒険者ギルドからの呼び出しがかかっていたのだ。ギルドから直接の呼び出しは、先日迷宮の異変を調査したあの依頼(クエスト)を攻略した際、感謝状を授与された時以来だったりする。


 金魚のフンのように付いて来る青年は放っておいて、冒険者ギルドへと乗り込んでいく。高い天井のエントランスを抜け、受付へと進む。受付嬢の可愛らしい猫耳の女の子へ声をかけると、立ち上がった女の子が恭しく一礼する。


「メイ・ペリドッド様、クレイ・アクエリアス(・・・・・・・・・・)様。お待ちしておりました! 係の者が案内します。奥の応接室にてお待ち下さい」


「ちょっと待って、どうしてあなたも一緒な訳?」

「だから言ったじゃないか。僕も冒険者ギルドに用事があるって」


 目を細める私の反応が予想通りだったのか、彼は肩を竦め、おどけてみせる。騎士風の男に案内され、私達はギルド奥の応接室へと進んでいく。もちろん黒猫も一緒だ。


「ちなみにシスタージスは一緒じゃない訳?」

「彼女は教会のシスターであって冒険者(・・・)ではないからね。彼女が冒険者ギルドへ呼び出される理由がないだろう?」


 彼女は今頃ミサの準備をしているだろうとの事だった。それにしてもギルドが私とクレイを直接呼び出す理由が分からない。この時点で嫌な予感しかしない訳で……。


「メイさん、クレイさん。お待たせ致しました。本日はお呼び立てしてすいません」


 しばらくすると、茶色の短髪、背の高い眼鏡をかけた男が入室して来た。初対面の相手だ。銀のブレストアーマーに赤いマント。創星魔法による明らかに防護(コーティング)がされている。隠してはいるが、恐らく歴戦の冒険者ね。


「お二人共、初めましてですね。僕はオリオン・ノヴァ・サルバトーレと言います。アルシューン公国、冒険者ギルドのギルドマスター(・・・・・・・)をやっている者です」


「ギルドマスターですって!?」

「え? 呼び出しってギルマスから?」


 アルシューン公国ギルドマスター。多種族の冒険者が在籍するアルシューン公国のギルドを束ね、実力でトップへと昇りつめた男。スピカ警備隊のレオと並んで、この国でその名を知らない者は居ないとされる有名人。しかし、レオと違って普段表に出る事はないため、顔を知っている者は少ないのだ。


「メイ・ペリドッドです。改めまして、よろしくお願い致します」

「僕はクレイ・アクエリアス。僕はそういう敬語みたいなの苦手だから、そのままのテンションでいかせてもらうよ」


 握手を交わすオリオンと私達。侍女らしき者がその間に紅茶とクッキーを持って来る。応接室のソファーへと座り、軽く自己紹介をした後、ギルマスが本題に入る。


「さて、この応接室は僕が許可をした者しか通せない場所で、盗聴なんかもされていないから安心して欲しい」


 オリオンはそう前置きをした後、私とクレイに小声で話し始めた。


「お呼び立てしたのは他でもない。君達に特別依頼(エキストラクエスト)を直々に依頼したくてね」


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