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Ⅰ prologue 目覚める巫女 01 ルナリア・ルージュ・パール

 これは夢なのか現実なのか。ゆっくりと開く双眸。淡い光は(あお)(くれない)。透明な天井は夜空を投影し、()微睡(まどろみ)の中、上空の丸い月の光を認知する。


朔月の刻(ブラッティムーン)……暁闇(ぎょうあん)かえ」


 余の双眸に映し出されるは(あか)い月。極創星世界(このセカイ)の月は星屑(スターマナ)と魂の行く末を見守る。月齢が巡りて、紅く染まった月は、神秘の姿ともされているが、余の一族はかつてよりこう語り継いで来た。


 失われた魂の血を浄化し、星々へと還元するために創星の月は紅くなる――と。


 純白の床より身を起こすと、濃厚な深紅の髪が黒と朱のドレスにかかる。どうやら捧げられた血により余の魔力は補完されたよう。


「ムーンストーン。おるかえ?」


 御簾(みす)(めく)ると、既に余よりも小柄な童顔の男は、侍女達を連れ余の前に跪いていた。


「ルナリア様。お目覚め、おめでとうございます。我々一同、心よりお待ちしておりました」

「くるしゅうない。そちも変わらず愛くるしい姿のままよのぅ」


 余の言葉に男の左右に位置していた黒髪の侍女二名が左右から熟れた果実で幼い顔を優しく包み込む。


「「ルナリア様。ムーンストーン様はこうして我々が守っておりました」」

「ま、待って……リオ、ラビ。ルナリア様の前だからっ……甘い香りに埋もれるっ……」


 ふ……その愛くるしい姿で彼奴はたくさんの女性を無自覚で(・・・・)堕として来た。見た目はただの少年。いや、雪の結晶を集めたかのような白く(あで)やかな短髪は、少女と誤認してもおかしくない。人間の国を仮に歩いていたとしても、こやつが蟹座(・・)の守護者であり、魔族の皇子(ダークプリンス)であるとは誰も思わないよのぅ。


「リオ、ラビ。皆も下がってよいぞ。余はムーンストーンと話がある故」

「「御意。明刻(みょうこく)祝宴(うたげ)の準備をしておきます」」


 リオ、ラビの合図で侍女達は下がっていく。余の部屋は紅く光る月灯りの下、守護者と加護者のみとなる。


「あれから何年経った?」

「ルナリア様は数百年眠っておりました」


 星戦は、邪神と死神の闘いから始まったんじゃったのぅ。巻き沿いを喰らう前に余は自ら魔力を封印し、暁血(ルージュ)の儀式で永き眠りについた。何年もの間、朔月から与えられる光と捧げられる血が一定量を満たした時、巫女としての力を持った余は復活を果たすのだ。


「さて、ムーンストーン。余へ血を捧げた者はもう極創星世界(こちら)へ来ておるのかえ」

「ええ。勿論。予定通り、死神が契約しました。後は我が姫(・・・)として出迎える(・・・・)のみです」


 守護者の報告に余も眉尻を下げる。


「そうかえ。眠っていても余の(からだ)が覚えておる。あの娘の()は本物じゃ。暁血(ルージュ)族の末裔として、あの娘を余の者にする。これは運命なのじゃ」

「そうですね。我がノクスモルス国の栄華復活にも必要な逸材です。前加護者は血を提供はしたものの、我が国の姫にはならなかった。国の主不在では皆、不安になりますか……んっ!」


 守護者が言い終わる前に余が彼奴の唇を塞ぐ。一瞬目を見開いた守護者の表情がだんだんと蕩けていく。


「んっ……ルナリアぁあ……()けるからぁ」

「ようやく呼び捨て(・・・・)になったのぅ。二人の時は呼び捨てと言っておったろうに。そちの魔力も相変わらず勢力に満ちておる。それでこそ余の守護者じゃ」


 守護者の舌から魔力を吸い上げた(・・・・・)余はゆっくりと口を離す。愉悦を籠めて舌なめずりをした余は、眠っている間に捧げられた血の味を思い起こす。


「しかし、早く逢いたいのぅ……あの甘く、全身を震わせるような快感を引き起こさせる血。トルマリンと契約したのならば、天秤座かえ」

「ええ。メイ・ペリドッド。天秤座の加護です」


 メイ・ペリドッド。そうか……その名。やはりサクラ・ペリドッドの生まれ変わりか。


「そうかぇ。彼女が死神の姫となるか、主の姫となるか。選択が楽しみじゃのぅ、ムーンストーン」

「あんまり女性を口説くのは苦手なんだけどなぁ……」


「本音が漏れておるぞ? ムーンストーン」

「あ、言え。なんでもないですルナリアさ……ルナリア」


 ふと視線を自身の躰へ落とすと、ある異変に気づく。


「そういえば余の衣服が少し大きくなっておるようじゃが……」

「いや、どちらかというとルナリアが小さくなってます」


 守護者はそう告げると、空間より全身鏡のような薄い膜を顕現させ、余の姿を投影する。人間の齢にして二十代後半の姿に見えていた余の姿は、十五、六の少女に見えた。どうりで肩が軽い筈じゃ。果実も(しぼ)んでしまっておる。


「なんとっ。これは若返りすぎではないかっ! どういう事じゃ!」

「メイ・ペリドッドは一年前にこの世界へ転生した。捧げられていた血が満たないまま目覚めの(トキ)を迎えた事が原因でしょう。足りない魔力はぼくが補充しました故」


 それほどメイ・ペリドッドが逸材という事。ムーンストーンは表情から卑屈になっておるようじゃが。


「そちが悪い訳ではない。今もこうして満たされておるじゃろう?」

「はい、そうですね」


 沈む少年姿も可愛いのぅ。数百年振りの覚醒じゃ。星戦後の世界がどうなっておるのか、暁血(ルージュ)族の巫女として確かめる事にするかのぅ。


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