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29 メイ・ペリドッド 追跡②

 私とトルマリンの予想通り、ガーネットは無事だった。星撃手(マナスナイパー)の弾丸は急所を外れていた。自身の魔力で攻撃を受けた箇所へ魔力を送り、障壁を創る事で大量出血を防ぎ、彼女は自身を守っていた。


 静謐室(せいひつしつ)にてハルキと再会。ガーネットの安否を確認。記憶を辿るべく、彼女の額に手をそっと当て、私はライトグリーンの双眸を光らせる。


「……っ!?」


 刹那、彼女が辿って来た記憶が走馬灯のように私の脳裏へと滑り込んで来る。流れ込む映像から情報を取捨選択。私は彼女の行動を追う事で、問題の場面(シーン)へと辿り着く。


 変装した王女、パフェとガーネットの会話。これは……ハルキを巡る恋の話?


「……ん? 何か分かったのか、メイ!」

「いま集中してるからちょっと黙ってて女っ垂らし!」


 突然私に罵倒されたハルキの顔は鳩に豆鉄砲だ。男によっては罵倒された方が喜ぶって言うし、これ位は許容範囲でしょう? 必要な情報を逃さないよう、再び私は〝彼女の記憶〟へ集中する。


「……は? これは……」


 それは突然だった。今迄何も素振りを見せていなかった王女が突然、ガーネットへ向けて、確かに『死んで下さい♡』と言い放ったのだ。しかも、アルクを殺すよう依頼した犯人がガーネット? そんな筈はない。


 彼女が振り返る視線の先が一瞬煌めいたかと思うと、星撃手による弾丸によって、既に彼女の胸は貫かれた後だった。それでもガーネットは須臾(しゅゆ)の間に自身の身体をずらし、軌道を急所から外している。そのまま膝から(くずお)れる彼女。見上げる視線の先に……。


『わぁーい。お姉さん。綺麗ですねぇ~~』

『……あなた……どうして……』


 彼女は右手を伸ばし、少女の掌へ一瞬触れ、愉悦に満ちた少女の異常な姿を見届けたまま気を失った。


『メイちゃん……香り……あなたへ……託すわ……』

「え?」


 この時確かに私は記憶を追っているだけだった。鼻腔には気持ちを落ち着かせるような優しい花の香り。彼女の声に導かれ、浮かぶ王女様の姿。まさか……彼女は自身が倒れた時、私が解析する(・・・・)事を想定して……。


「流石ね、ガーネット。ありがとう」


 私は彼女の額から手を離す。ふっと身体の力が抜け、その場にあった椅子へ吸い寄せられるかのように座り込んでしまう。ちょっと解析に集中しすぎたわね。


「おいメイ、大丈夫か!? 何か分かったの?」

「ええ。ガーネットのお陰で手掛かりも見つけた。明日、追跡するわよ」


 ガーネットは流石、死線を何度も潜り抜けた守護者だ。自身に何かあったとしても、仲間へと情報を託す。生き残る術を知っている。


「此処は盗聴されていないようね」

「どういう事だよ、メイ」


 突然私が周囲を警戒する様子に動揺するハルキ。


「ソレハ身近ナ処ニ依頼者ガ居ルトイウ事ダナ」

「ええ、恐らくね。依頼者迄は特定出来なかったけれど、王女様が利用されている(・・・・・・・)事は分かったわ」

「え? メイ。それってどういう……」


 私はハルキに大声を出さないでと念押しした後、王女がガーネットへ『死んで下さい♡』と告げた事、更にはガーネットが依頼主だと誰かに吹き込まれている事実を伝える。


「ちょ、ちょっと待ってよメイ、それって……んぐっ」

「だからハルキ、声が大きい」


 口を途中で塞いだ事で、もごもご藻掻く無自覚女っ垂らし君。


 王女様はどういう訳か知らないが、シェイク側についている可能性がある。アルクの仇である暗殺者を眼前にして、笑顔で相対した時点で異常だった。


「分かる? スーパーお爺ちゃんであるスミスすら出し抜かれたのよ? ブレアもレオも居た。その局勢でガーネットを撃つ状況を依頼主と敵は創り出したの。この事実は誰にも知られてはいけない」

「そうか、分かった」


 ハルキが大人しくなった事で、情報を共有する。誰かへ協力を仰いでもいいが、一旦此処は私が単独で動いた方が早そうだ。


「明日、私はシェイクを追跡する。ハルキ。もし同行したいのならば、私は止めないけれど……どうするの?」

「勿論、行くに決まってるだろ! 俺の守護者(パートナー)を殺そうとしたんだ。奴は俺がこの手で止める!」


 彼の拳に正義の焔が宿る。過去を引きずっていた頃と比べると、少しは頼もしくなったじゃない。


「私の足手纏いにならないでよ?」

「俺を誰だと思ってるんだい?」


 ニ、三、視線を交錯させたところで黒猫が私とハルキの間に割って入る。


茶番(イチャイチャ)ハソノ位ニシテ明日ヘ備エルゾ」


「どこがイチャイチャよっ!」

「そ、そんなんじゃないよ」


 黒猫へ文句を言う私。この女っ垂らしは何満更でもない表情してる訳。これだから単純な男は……。まぁ、いいわ。エロ猫が言う通り、明日に備えましょう。


 ガーネットが心配なため、ハルキは、静謐室へ泊るという。私はスミスが予め準備してくれていた王宮内の客室へと案内される。


 天井にはシャンデリア。天蓋付きのふかふかベット。刺繍の入ったテーブルクロスが敷かれた卓上には、室内食まで用意されていた。


「もの凄い歓迎のされ方ね。此処、上級貴族向けの部屋かしら?」

「我はホットミルクがない事が残念でならないがな」


 仕方ないと言わんばかりに煌星牛(ティンクルビーフ)薄切り肉(ローストビーフ)を口へ含みつつ文句を垂れる道化師。


「これだけの高級料理が並んでいるのだから文句は言わない事ね、トルマリン」

「まぁいい。明日はブラックオニキスに用意してもらう事にする」


 死神が温めのホットミルクを用意して貰う姿を想像すると、本当滑稽なコトね。


「で、エロマリンさん。敵を出し抜く何か策はあるの?」

「嗚呼。やりようはある。セラフィは我が惹き付けるさ。お前はハルキとシェイクをやれ」


 射手座の守護者をトルマリンの力で抑え込む事で、シェイクの暗殺を回避し、集中する事が出来る。星撃手との戦闘からセラフィの離脱。これが勝利への絶対条件。


「念のため、私も予防線(・・・)を張っておくわ」

「シェイク単独でも簡単に倒せる相手ではない。深追いはするな、メイ」


 ええ、分かっているわ。でも、この時既に、私の魔族としての血は静かに(たぎ)っていた。明らかな強者を前に、興奮しているのかしら。


「ちょっとシャワーで汗を流して来るわ」

「そうか」


 食事を終えた私は、気持ちを落ち着かせるため、部屋に併設されたバスルームへと向かう。部屋で黙って残ったスープを静かに啜る道化師の視線を感じ、私はひと言。


「覗かないでよ?」

「……嗚呼」


 私が威圧した事で、この日、私の拳がエロ道化師の顎へクリーンヒットする事はなかったわ。

 



 翌朝――――


「メイ、ガーネットが目を覚ましたんだ!」

「何ですって!」


 ハルキから報告を受け、静謐室に入ると、容態を看ていた王宮直属の回復士(ヒーラー)が入れ替わりで部屋を出るところだった。軽く会釈をした後、部屋へと入る私。上半身だけを起こしたガーネットは私の姿を確認し、優しく微笑でくれた。


「メイちゃん。解析してくれたんでしょう? 感謝するわ」

「ガーネットさん。無事でよかったわ。あなたからの〝香り〟、確かに受け取ったわ」


 彼女と握手をする私。まだ完治するには時間がかかるようで、いつもの快活な表情ではなかった。


「メイ。気をつけた方がいい。ガーネットは今、香りの魔法が使えない(・・・・)らしい」

「え? それって?」


 事実を告げるハルキ。ガーネットは黙って絹のローブを(めく)り、痛々しい傷痕を見せる。体内に弾丸は残っておらず、懸命な治癒により孔は塞がっていたのだが。彼女を解析すると、魔力の核に蓋をされたかのように魔力の(ともしび)が視えない。


 そして、彼女は私達へこう告げる。


「私の魔法はどうやら封印(・・)されたみたいね」


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