12 ガーネット 南国の夢③
「なんだ。お嬢ちゃん最初だけかよ」
「最初で止めておけばよかったのによぉ~」
「ふふふ……所詮初心者ざますね」
王女様が唸っている。私も唸っている。周囲に出来ていた取り巻きは、パフェのビギナーズラックが終わった事に飽きたのか、少しずつ離れていった。
「ねぇ……パフェ。もう、チップなくなっちゃうよ。やめとこう」
「う~ん。おかしいですね~。あそこに入ると思ったんですが……」
「パフェ、このままでは終われないわよ! 次よ次!」
あの後、連続で弾が入る箇所を当てたパフェの前には、チップの山が出来ていた。あと少しで金貨百枚相当へ到達するかという時に、流れが変わった。突然当たらなくなったのだ。
ディーラーは特に変わった動きをしている訳ではない。むしろこちらがチップの山を作っても動じる事無く淡々と仕事を熟している印象。
「いや、このままだとホテル代払えなくなっちゃうからさ、パフェ」
「大丈夫です、いざという時にはスミス基金がありますから! それにさっきも赤の31へ入ると思ったんですよ」
「パフェ、さっきからそればっかりね。何か根拠があるのかし……」
そこまで言いかけて気づいた。ディーラーである、エルフの耳が赤の31にピクリと反応した気がした。エルフへ聞こえないよう、パフェの耳元へ囁く。
「パフェ……もしかして、わかるの?」
「えっと、私声が聞こえるんです。降りて来るというか……赤の33だよ~~みたいな」
どういう原理かは分からないが、この子、相当ギャンブル向きな反則級の能力を持っているのかもしれないわね。さて……と。それが事実ならば、動く必要があるわね。誰にも分からない程度の香りを振り撒き、私は真実を探る。
回るルーレット。銀の弾が転がる音が響く。パフェは目を閉じ、誰にも聞こえない声に耳を傾ける。やがて眼を見開き、弾が入るであろう場所へチップを投下する。
「黒の7、此処ですわ!」
エルフの瞬き、指の動き、周囲の状況、香りの中に紛れる悪意を探っていく。カジノの会場が見渡せる階段上、バーカウンターに立つ執事の視線。あの執事は私達をルーレットへ誘った男だ。弾は黒の8へと入り、このゲームのチップはディーラーが総取りする。
「へぇー、やっぱり本場のカジノは凄いわね~。パフェ、このままじゃあ負けてしまうわ~、どうしましょう? 次を最後にしましょう。ね、私達も手持ちがないの。いいでしょ、ディーラーさん?」
「ガーネット? 何を?」
首を傾げるハルキ。イケメンエルフは私へ笑いかける。
「夢を賭ける姿。素敵ですね、お姉さん。では、行きます、ベット!」
運命のルーレットが回り始める。パフェが私の様子を疑問に思ったのか、声をかけて来た。
「ガーネットさん?」
「あなたはいつも通り賭けて。残り全部置いていいわよ♡」
パフェが置いた場所は赤の6。回るルーレット。このままディーラーの総取りとなるか? ゲームの行く末を見守っていた者達が息を呑む。
やがて、銀色の弾は弧を描き……見事、〝赤の6〟のポケットへ吸い込まれていった。周囲からどよめきと歓声があがる。
「やった! 当たりだよ、パフェ!」
「やりましたぁ~♡ ハルキ様、お姉さん!」
一時はどうなるかと思ったけれども、これで負け分を取り戻したわね。あら、イケメンエルフの仮面が剥がれているわ。目が笑っていないわよ。
「……どうやったんですか?」
「どうやったも何も、普通に賭けただけよ?」
チラッとバーカウンター上へ視線を向ける私。イケメンエルフはバーカウンター上に立っていた筈の執事がぐっすり眠っている様子を見て、溜息を吐く。そして、ベルを鳴らした。
「お客様、おめでとうございます。チップを金貨へ換金しますので、奥のお部屋へどうぞ」
バニーガールのスタッフへ促され、カジノ奥の部屋へと案内される。誰にも分からないよう、ハルキには意思伝達で状況を伝える。奥の部屋へ入ると、サングラスをかけたSPらしき大男達が数名。中央にはカラフルな長髪に、スーツと蝶ネクタイを身につけた男が椅子に座っていた。
「どうも。このカジノの支配人アームズです」
「そう、私はガーネットよ。さ、勝ち分の金貨、いただくわ」
そう言って、支配人へ近づこうとすると、SPが間に立ち塞がった。
「お嬢ちゃん、皆の夢を壊すような行為をしてもらっちゃあ困るんですよ」
「あら、夢を壊したのはどっちかしら? バーカウンターの男へ命じて、磁力で弾が入る場所を操作したのはそっちでしょう?」
尚、カジノ内ではトラブルを避けるため、武器の持ち込みは禁止されている。ハルキも火星焔槍はホテルへ置いて来ている。
「そうか、あいつを眠らせたのはお嬢さん、あんたって事だね?」
「だったらどうするの?」
「こうするまでですよ!」
次の瞬間、支配人アームズが指を鳴らし、SPが私へ向け拳を振り下ろす。が、その拳をハルキが受け止め、そのまま投げ飛ばす。続け様に襲いかかる大男を蹴り飛ばし、三人目へ足払い。最後四人目の拳を受け止めたところで、ハルキがひと言。
「女に手を出そうとする奴は、俺が許さないぜ」
「きゃーー。ハルキ様~~♡」
パフェの黄色い声が部屋へ木霊する中、拳に炎を籠めた一撃がSPの顔面へ向け放たれる。後方へ吹き飛んだSPは壁へ激突し、そのまま気絶してしまう。
「お前達、それでもSPか! 雇った金、払わないぞ!」
起き上がった一人目のSPが今度はパフェへ襲い掛かろうとする。さすが、手段を選ばない悪党ね。しかし、天井からまるで忍のように白髪執事が降り立ち、掌より巻き起こした風でSP全員の身体を斬り刻みつつ吹き飛ばし、支配人の前へ倒れたSPの山が出来たのだった。まさにスーパーお爺ちゃんね。
「お嬢様。ご無事で」
「ス、スミス? いつから?」
皆、スミスの存在をすっかり忘れていたけれど、どうやら影からパフェをずっと護衛していたらしい。
「フォーーフォッフォッフォ! 某は最初からずっと一緒でしたぞ。それに、チェックメイトですぞ」
「支配人、そこまでだ!」
長い黒髪を後ろで束ね、いつもより軽装の鎧を身につけた男。トルクメニア国で知らない者は居ないとされるトルクメニア騎士団長アルク、その人だった。下唇を噛み、悔しそうな表情の支配人。
「ちょっと、アルクまで一緒だったの?」
「いえ、パテ……嗚呼、今はパフェ様でしたね。私はたまたま余暇を過ごしていたところに、スミス様よりカジノのイカサマ情報が入りまして、余暇を過ごしていた団員達とイカサマに絡んでいたディーラー達を捕まえていたところですよ」
既にホールは騎士団員達で制圧した後らしい。支配人は後ずさりし、壁へと追いやられている。
「くそっ、どうしてこんなところに騎士団が……でもそう簡単には捕まりませんよ!」
「なっ、待て!」
ハルキとスミスが炎と風を支配人へ向けて放つも、支配人が張り付いていた壁が回転し、その場から逃がしてしまう。回転した壁の先には転移魔法陣の跡。どうやら逃げられてしまったらしい。
「くそっ、逃げられたか!」
「ハルキ大丈夫よ、香りはつけた。泳がせておいて問題ないわ」
結果的にこの日搾取されたお金は参加者へと分配されたため、勝ち分の報酬をゲットするには叶わなかったが、エルフの国で女王より貰った依頼料は無事戻って来る事となる。まぁ、パフェの不思議な能力も分かった事だし、一攫千金はまたの機会に狙う事としましょう……ふふふふ。
「ガーネット? 口元緩んでるよ?」
「ん? なんでもないわよ」




