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10 栗林芽衣② 月下の来訪者

「……やはり呆気なかったわね」

「奴ノ行イヲ考エルト、相応ノ末路ダッタ」


 アルシューン公国の闇市場を渡り歩いていた行商人ゲルシュア。

 隣国トルクメニアの闇市を牛耳る行商人アカバンを通じ、この世界で禁じられている麻薬となりうる商品を売り捌いていたらしい。しかもどうやらこの行商人達、魔族と繋がっているという噂まで流れていたようだ。


「残念ながら私の天秤には、魔族の姿迄は映らなかったわね。死神の情報網(ネットワーク)で魔族が誰か分からないの?」

「人間社会ニ溶ケ込ミ悪サヲスル魔族ハ沢山居ル。ソウイウ輩ハ心配シナクテモソノ内炙リ出サレル」


 まだ国家が転覆するような一大事になっていないため、トルマリンは静観しているようだ。まぁ、この黒猫は、自身が喰らう食事()にさえ有り付けば問題はないらしい。


「そう、まぁいいわ。どうやら隣国のアカバンという行商人も騎士団に拘束されたようだし、この件は一件落着ね」

「ソウダナ。欲望ニ塗レタ人間ノ末路ハイツノ時代モ哀レナモノダ」


 さも興味無さそうに黒猫はかく語りき。執行の後、家路を辿る魔女と黒猫。月光のみが真実を語る夜。

 そんな月下に煌めく何かが視界の隅に入る。私は素早く地面を弾き、後方へと飛び退いた。

 黒猫は周囲を警戒し、先程まで歩いていた地面へ蒸気と共に数箇所の()()いている。


「誰?」


 ライトグリーンの双眸を光らせ、漆黒の鎌を顕現させる。創星の加護による願星(ギフト)の一つ。私は常人が感知出来ない星屑(スターマナ)の動きを双眸で可視化(・・・)する。星屑の粒子が集積する地点――即ちそこは闇に潜む者が存在する場所。


 再び上空より飛来する無数の弾丸を漆黒の鎌で薙ぎ払う。そして、感性を研ぎ澄ませる。正面の住宅街より、後方の大木。高速で移動する来訪者の影を追い、私は守護者の名を呼ぶ!


「トルマリン!」


 再び弾丸を放たんとしていた影の眼前に、それまで常闇に溶け込んでいた黒猫が、魔術(マジック)を披露した道化師のように変化し、掌から反撃の咆哮をあげる!


「創星魔法、電解力・サンダートリノ!」

「ちっ!」


 影に向かって放たれた雷撃が直撃し、遂に来訪者が私の前へと姿を現す。地面へ両手を着いた襲撃者は、一、二度両手を叩き、あどけない笑みを私へ向けた。


「電解力の中級創星魔法。さすが魔女の守護者だね。僕の腕がまだ痺れてるよ!」

「貴方……何者? 挨拶にしては(いささ)か無礼なんじゃない?」


 顔は童顔にも見えるが、私より年上? 声からして男だろうが、肩までかかる蒼い髪は女性のように美しい。キリっとした細く水色(アクアブルー)の瞳で私を見つめ、来訪者は笑っていた。


「もっと痺れさせてやろうか?」

「それは真っ平御免だね」


 青年姿となり、流暢な口調となったトルマリンが来訪者に手刀を向ける。高速で放たれる手刀は電解力、つまり雷属性の魔力を纏っている。紙一重で避ける来訪者の蒼い髪が数本はらりと落ちる。


 しかし、来訪者が右手の人差し指と中指を死神(トルマリン)の身体へ突き立てた瞬間、彼は地を弾き、高く飛び上がる! 透明な粒子のようなものが確かに集積し、来訪者の指先から放たれたのだ! 粒子は大気を一直線上へ飛行し、街の外壁へと穴を孔ける。


「……水?」

「御名答!」


 私の双眸が可視化した星屑が水の粒子へと変化する瞬間を見逃す筈がなかった。そして、魔法の詠唱なしで放たれた彼の水弾に、私は違和感を覚える。


「絡繰りが分かってしまえばどうって事はない」

「速いね。全身に電解力を纏っているのかな?」


 来訪者の指先から放たれる水弾を左右に身体を揺さぶりつつ交わし、高速で距離を詰めるトルマリン。手刀ではなく、掌を来訪者の腸へ当てた瞬間、彼の身体は後方へと吹き飛んだ。


「貴方、何のつもり? その程度じゃあ私達には勝てないわよ?」

「なるほどね。確かに僕一人(・・)では分が悪いようだ。そこの守護者(・・・)と僕とでは相性も悪い」

 

 その言葉に興味を持ったのは誰であろう死神(トルマリン)だった。


「待て。お前……何故我を守護者と知っている」

「さぁ、何でだろうね? こうすれば分かるんじゃないかな? ――アメジスト!」


 事は突然起きる。トルマリンと来訪者との間に水溜まりが出来、だんだんと水が盛り上がっていく。水は次第に人の形を成し、やがて全身を濡らしたまま修道服姿の女性が顕現した。


「水溜まりから女性が……」


 眼前で起きた光景に思わず声を漏らす私。女性の姿を見た瞬間、トルマリンは嘆息を漏らす。


「……成程。お前の仕業か。水瓶座の守護者(・・・・・・・)、アメジスト!」

「水瓶座の守護者ですって!」


 トルマリンが言い放った言葉に思わず私も反応する。全身ずぶ濡れの女性はおっとりとした笑みを浮かべ、トルマリンへ手を振る。


「御機嫌よう、トルマリンちゃん(・・・)。遊びに来たわよぉ~~?」

「その呼び方は止めろ。どういうつもりだ?」


 水も滴る修道女を睨みつけるトルマリン。


「天秤座の守護者――トルマリンと、漆黒の魔女――メイ・ペリドッド。ちょっとご挨拶しておきたかったんだよ。僕の名前はクレイ・アクエリアス。以後、お見知りおきを!」


 そう言い終わるや否や、来訪者、クレイ・アクエリアスは掌に水塊を創り出し、私へ向けて放つのだった。

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