たまたまトイレで命を救われたというのもなんですね
「そもそも、あなたが悪いんだからね。フェルライン」
まだ8歳ぐらいの幼子が私を呼び捨てにしてきます。
龍姫様、殺していいですか?
「一体何人死んだのだか。いい。私はね、無から有は生み出せないの。死んじゃったら、無になったら、復活は無理なのよ?どうしてくれるのよ、せっかくあんなに集めたのに」
「ジュブとヒルちゃんは無事みたいですよ」
「ああ、それは良かった。なら軍関連はなんとかなるわね。あとは宰相か……」
「悩んでないで、ジュブグランのところに連れていきますよ。転移妨害あるから、担ぐしかないでしょうからね。言っておきますが早いですよ、私」
「ええ、それで龍姫に頼んだのだから。司祭が生きていれば、ちゃんと迎えの儀式やって、豪華な馬車で迎えに来るのよ?こんな状況じゃ待ってられないし、転移妨害も解除できないし」
ぶつぶつ言いながら、聖女の転生体は背中に乗る。
「めっちゃ怒ってましたよ」
「あなたのせいなんだから責任取りなさないな」
「記憶操作が甘かったのでは?」
「難しいのね、やっぱりあれ」
他人事のように言う聖女。
「とにかく、最速でね」
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「落ち着け!!!聖女様は死なない!!!まずは都の転生体候補生を集めろ!!!」
ジュブグランが必死に混乱する官僚たちに呼びかける。
「そうです!こと、こうなれば、我々が聖女様をお迎えするしかありません!とにかく、為すべきことをやりなさい!」
ヒルハレイズも動くが
「ヒルハレイズさん、見た感じ文官がまともに機能していません。ヒルハレイズさんが率いるべきでは?」
「……そうね、ジュブのフォローはあなたがやって」
「分かりました」
ジュブグラン、ヒルハレイズ、カリスナダ。この三人が中核で、宮殿の混乱を収めていた。
「他のみんなは?」ヒルハレイズが聞くが
「……みな聖女の側にいたと思います。私はかなり離れていましたし、龍族ですから下半身吹き飛ばされても生きていますが、他のみなさんは…」
半年間、それなりに仲良くやってきたつもりだったカリスナダはショックを受けている。
「カリスナダ!私は転生体候補生を集め、聖女様を探す!お前は宮殿の前に行き、不審者を止めろ!」
「わかったよ!ジュブ」
ジュブグランとヒルハレイズはカリスナダを信頼していた。
この半年で、彼女は無垢な人々は傷つけられない特性を知っていたのだ。
「都にいればいい。でも地方にいるとなると……」
ヒルハレイズが心配そうに言う。
「地方?転生体候補生は地方にもいるのですか?」
「候補生は何百人もいるのよ。都に集めて一網打尽にされたら困るでしょう?もっとも、大抵は都の娘よ」
「なるほど」
さすが聖女、慎重だな、と思っていると。
「カリスナダ!いったいこれは、なにが」
「ダ、ダリスグレア!?」
暗殺部隊の一人、ダリスグレアが来たのだ。
「な、なんですって!?ダリスグレア!?」
ヒルハレイズが驚いて駆けつける。
「あ、あなた!生きてたの!?」
「い、生きてる?す、すみません、なにがなんだか。不浄をしに行ったら、その途中で吹き飛ばされたみたいで。なんか気絶していたようです」
「よ、よかった…ちなみに、他の5人は、聖女様のおそばに?」
「は、はい。ジュブグランさんと、ヒルハレイズさんとカリスナダさん以外はみなお側にいました。
カリスナダは遠距離会話装置を取り出し
「ジュブグラン、ダリスグレアが生きていた」
『なんだと!それは僥倖だ!他のみんなは!?』
「ダリスグレアだけが席をたまたま外していたそうよ」
『……そうか。だが、良かった』
ジュブグランは嬉しそうに言った。
ザディア謀反という最悪の形になった文官の混乱もひどかったが、もっとも大変なのは司祭を失った神官だった。
うずくまり微動だにしない。
指示など聞かない。
本来は転生体候補生をとりまとめ、聖女を探し当てるのは神官たちの役目だが、これではなんともできない。ジュブグランは急いで、転生体が集う学園に向かう。
そして
「聖女様!聖女様はおられませんか!?」
聖女様は記憶の継承がなされる。
本来ならば、司祭が立ち合い、神官たちの元で、継承の儀が行われるが、この状態ではなにも出来ない。
ジュブグランは、とにかく聖女を探し当て、相談しようと思ったのだが
「…せ、せいじょ、さまですか?学園にはこられませんよ?ジュブグラン様?」
不安そうに、学園の教師が言う。
まだ聖女が死んだことは宮殿の外には流れていない。
だが、宮殿の一部が転生エネルギーで吹き飛んだのだ。
嫌でも、宮殿でなにかが起こったとわかる。
そして、本来は暗殺部隊であり、表にはあまり出ないジュブグランの慌てよう。
答えはひとつ。
聖女になにかあった。
学園の娘たちは、その結論に気付き、みなすくみ立った。
だが、だれも名乗り出ない
「まさか、地方か」青ざめるジュブグラン。
この大陸のほとんどは転移妨害の結界がはられている。
その妨害の切り替えは、都からしかできない。
そうなると、地方から都に来るのにどれぐらいかかるのか。
「……!!!そうだ!寝てる娘はいないか!?起こしてくれ!」
転生はすさまじい衝撃のはずだ。
まだ起き上がれない可能性もある。
ジュブグランは必至の形相で叫び指示していた。
「ジュブグランから、おそらく学園には転生体はいないと」
「最悪ね……どうしましょう」
ヒルハレイズは頭を抱える。
「遠距離会話で呼びかけてみればいかがですか?」
「聖女様いらっしゃいませんかー?って?そんなことしたら大混乱になるわよ。最悪誰が殺したんだってつるし上げが始まって内乱よ」
前例がある。初代の聖女が死んだときに、殺した相手はとある国の王族だった。
結果、責任を問われ各国から一斉に攻められて滅んだのだ。
聖女の転生体が、実権を握るまでのわずかな期間で膨大な血が流れた。
絶対にこのことを口外してはいけない。
すると
「ふぇ、フェルさん!?」
カリスナダが突然背筋を伸ばす。
「ど、どうした!?」
「ふぇ、フェルさんが、フェルラインさんが、聖女の転生体を担いで、こっちに向かってるって、念波が」
「な、なんでフェルラインが!?」
「龍姫様にお願いしたみたいです。『お前のせいなんだから責任取れ』だそうで」
「……そ、そうか。で、どれぐらいで着くの?」
「まってください。ええっと…あと三時間だそうです」
「よし!ジュブグランに連絡して!転生体候補生全員集めて宮殿へ!ダリスグレア!宮殿内に呼びかけなさい!聖女様は転生された!転生体はもうじきこられる!急いで儀式の形を取りなさいと!」
「もう着きますよー」
「もっとやさしく走れないの?私は8歳なのよ」
「無理言わないでください。20日かかる道を半日で踏破しているんですよ?」
龍族の限界を使い走りぬいたのだ。さすがにフェルラインもへばっている。
「ああ、見えたわ。都だ。ふむ、まだ街は平穏ね」
「宮殿は凄いらしいですよ。神官が動かないそうで」
「それは仕方ないわ。そういうものだもの」
「さあ、最後の一走り、よろしく」
その場にいる誰しもが確信した。
目の前の少女は聖女であると。
わずか8歳。
だがその立ち振る舞いと、その知性みなぎる瞳、そしてその膨大な魔力。
みなが跪いた。
「心配かけたわ。みな。見ての通り転生して私は生きている」
『聖女様!!!』
一斉に声をかける家臣たち。
「今回の転生はイレギュラーよ。多くの優秀な家臣を失った。立て直すのは時間がかかるわ」
聖女は周辺を見渡すと
「ですが、まずは禊をしなければなりません」
禊、その言葉にざわつく家臣たち。
ジュブグランと、ヒルハレイズは凍り付く。
犯人はザディア。
まさかザディアの親族を殺すのか?と思っていると
「今回の暗殺劇は龍族、フェルラインの仕業」
思わず顔を上げるヒルハレイズ、ジュブグラン、そしてカリスナダ。
そして聖女は凛とした声で宣言した。
「私を信仰しているすべての国々に告げます」
「龍姫率いる、アルネシア公国に、宣戦布告!!!」
その宣言を、末席でフェルラインが不敵な笑顔で見守っていた。




