龍姫様の敵ならば、満面の笑みを浮かべて皆殺しにしましょう
その日の教育。マディアは荒れに荒れた。
「無理に押さえつけるな!龍族の闘争心のコントロールは押さえつけてどうにかなるものじゃない!!!」
激高
遠慮なくぶん殴ってる。
龍姫様に怒られたのがショックだったんだろうなぁ。
そして
「そう!その目で立ち向かいなさい!闘争心から逃げるな!!!」
今度は浴びせ蹴り。あれ痛いだろーなー。
「カリスナダ、龍姫様から御命令。明日戦場に行くわ」
「せ、戦場」カリスは驚いたように言う。
「人が住んでいる街。皆殺しにしてきなさい」
「は?はあああ!!!???」
愕然とした顔のカリス。
私が人族の殺しを忌避していることも知っている。それを踏まえての驚きなのだろう。
だが
「はあ!?じゃねえよ!覚悟決めて殺してこい!!!」
回し蹴りをするマディア。
荒れすぎです。マディアさん。
「ちゃんと説明するわね。その街は神教と帝国の敵。この大陸でありながら、聖女の豚に媚びているクソ国家の街よ」
この大陸には多くの国がある。
帝国が半分以上の領土を占めているが、それ以外の国も多い。
ソレイユ様の嫁いだ貴族と対立している国も聖女に帰依した国だ。
その恩恵がなければ、あの殺人鬼が大暴れしていながら耐えきるというのも難しい。
それでも最近はかなりソレイユ様側が優勢らしいが。
「聖女に帰依しているという事は龍姫様の敵。その敵はいつ龍姫様に牙を剥くか分からない。そんな敵に、殺すのはちょっと、とか言うわけは無いわよね」
「い、いえ。そう言うことでしたら、お受けします…」
少し不満そうな答え。なので
「間抜け」
「え?」
私の答えに呆然とするカリス
そして
「い!いだい!!!!」
カリスの脚にナイフを思いっ切り刺したのだ
「龍姫様の敵だぞ!!!普段は人族に対する慈愛もいい!!!人殺しするのに躊躇うのも構わない!!!だが!!!龍姫様の敵ならば!!!満面の笑みを浮かべて皆殺しにしろ!!!!!」
絶叫。
「闘争心を押さえるのは構わない!!!だが!出すときには出せ!!!龍姫様の敵に闘争心を見せないで、いつ出すんだ!!!間抜け!!!!!」
ナイフでカリスをメッタ刺しにする。
「い!イダイ!!!!イダイイダイ!!!!!!!」
痛みのあまり叫ぶカリス。いくら痛みがすぐ癒えるとは言え、連続攻撃されると辛いのだ。
「龍姫様の敵ならば!!!慈愛を見せるな!!!人と思うな!!!龍族の本能に従い!豚だと思って解体しろ!!!分かったか!!!」
後ろで呆然とするマディア。
血塗れで気絶しているカリス。
「…まあ、そういうことだがら」
「いやいや。マディア、ゴメンよ。最初の私の教育が悪いんだよ。迷惑かけてゴメンね」
アリスウルが部屋に入ってくる。
「わたしがフェルの1/3でも厳しく躾ていれば、マディアにも迷惑かからなかったのに、ゴメンね」
待って、それだと私がウルの三倍酷いみたいじゃない。
「ウル~。ちがうよ~。わたしも根性足りなかったんだよ~。わたしもフェル見習ってがんばる~」
「うんうん。頑張ろうね」
抱き合う二人。
「待って、なんで私が二人よりヤバい扱いなの」
とりあえずカリスの治癒とかはマディアとウルかやることになった。
私は部屋を追い出されるが、部屋の前
「素晴らしい。さすがフェルだ」
満面の笑みのカレン。
「明日戦場に行くから」
「あの叫びは、私の叫びでもある。肝心の敵に躊躇うようでは困るからな」
カレンバレーは龍族の性質に忠実でありながら、しっかり正論を言う。
その想いを汲み取っただけだが
「まあ、明日教育するから」
翌日、龍姫様の命じられた通り街に着いた。
私と、カリスと、マディアの3人。
「いい、カリス。ここでの失態はマディアの評価に繋がるわ。あなたが攻撃を躊躇うようならは、わたしは親友のマディアの為にあなたの処罰を躊躇わないわよ」
「わ、わかりました」
かなり怯えている。昨日やりすぎたらしい。
しかし平和な街だ。
賑わいが凄い。子供達も血色が良い。幸せそうにはしゃいでいる。
ここを戦場にする。
私にも躊躇いの心は滲んでいる。
だからこそ厳しい言葉をかけた。
「フェル、カリス一人でやらせるの?」
「いいえ。逃げられては復興されるわ。聖女の力を舐めないで。二度とこんな場所に街なんか作れないと思うほど、血の海に…」
突然、頭に警告が走った
「マディア!カリス!速やかに作戦を実行!私は豚の手先を止める!!!」
「豚の手先!?」
「ジュブだ!ジュブグランが構えている!!!」
読まれていたか。あいつに邪魔されるとマズい。
足止めされている間に逃げられる。
しかしだ。街はそのままだった。
事前に避難した形跡はない。
つまり
「ジュブは緊急で来ただけだ!今なら殺せる!暴れてきなさい!!!」
私がジュブグランの相手をすれば存分に殺せる。
一気にジュブグランとの距離を詰めるが
「警告する!あの街を襲うのを止めろ!!!」
ジュブグランは動かず待ち構えていた。
「間抜け。龍姫様以外の指令など聞くか」
嘲笑うが
「龍姫に繋げ!あの街には問題があるのだ!交渉したいと!」
「龍姫様と対等に話せるのは…」
『いいわ、フェルライン、聞きなさい』
遠距離会話。
龍姫様が見守られていたらしい。
「いいだろう。今龍姫様はこの会話を聞かれている。話せ」
「まずは虐殺を止めてくれ」
振り向くと、既にカリスとマディアは動いていた。特にマディアは凄まじい。失点を挽回しようと必死なのだろう。
『話が先よ』
「話次第で止めよう」
するとジュブグランは早口で
「あの街には死の封印がされているのだ」
すると
『!!!ああ!!!そう!そうだ!ここはドラゴンゾンビのいたところね!』
驚いたような龍姫様。
「ドラゴンゾンビか」
「話が早い。聖女様はドラゴンゾンビのいた場所を清め街を作られた。そのエネルギーはドラゴンゾンビの、死してなお存在するエネルギーを利用されたのだ。だが、そこに大量の死を与えられればドラゴンゾンビが蘇る」
『蘇って構わないわよ。また殺せば良いだけじゃない』
「別に構わないそうだ」
唖然とするジュブグラン。
「ま、まて、ドラゴンゾンビだぞ!この街だけではない!帝国にも侵入するぞ!」
『ドラゴンゾンビは遠出しないわ。倒した私が言うんだから間違いない』
「龍姫様はドラゴンゾンビを倒された。その判断から問題ないとの事だ」
しかし
『…まあ、とは言え、ゴールドドラゴンあたりからは怒られそうね。いいわ。フェルライン。ジュブグランと交渉して、適当に引きなさい』
「しかしだ、ジュブグラン。龍姫様にも慈悲はある。交渉次第では引き上げる。なにを我々に与える?」
「なにが慈悲だ!一方的に攻撃しておいて!」
まあそれはそうですね。
「とにかく、止めてくれれば…」
そこまで言って言葉を止める。
多分なんにも考えて無いんだろうな。
ジュブグランは強力な人族だが、頭は悪い。
だからリーダーになれないのだが。
「あ!そうだ!今交戦中の軍隊を引くというのはどうだ!」
『はあ?』
龍姫様が驚きの声をあげる。
私も吹き出しそうになった。
本気で言っているのか。
「交戦中って、帝国とアラニアの事でしょう?兵を引くの?」
今ソレイユ様が絶賛大暴れしているところだ。
あそこ以外では聖女の国と戦いはない。
「ああ!お願いしてくる」
『フェル!良い条件だわ!受けなさい!』
「分かったわ!ジュブグラン!これで条件受託!虐殺すぐに止めるね!」
転移
「カリス!マディア!そこまで!館に戻って!」
「はあ?待って、まだこれから」
「ジュブグランと交渉が纏まったわ!龍姫様の御命令。殺しの場所はまた与える!引き上げなさい!」
「分かりました!」
「仕方ないな」
二人は引き上げた。
そしてまた戻る。
「虐殺は終わらせた!約束通り…」
そこには青い顔をして突っ立っているジュブグラン。
多分
「ああ、聖女に怒られた?」
「うん」
だろうね。凄い条件だもん、それ。
ソレイユ様が大暴れしてもなんとか持ちこたえているのは、最前線に潤沢な兵士を配置しているから。
それを引き上げれば、あの殺人鬼は気ままに街を虐殺して回る。
双方兵を引き上げると言っても、ソレイユ様は一人で自在に動けるのだ。
意味がない。
一方的にアラニアが損する提案である。
「…条件変更聞かない?」
「聞くわけ無いでしょ?バカなの?」
聖女も頭抱えてる頃だろうな。
ガジャロブやヒルハレイズならこんな事にはならないだろう。
あの二人を私の前に出せなくしたのが勝因である。えっへん。
「あううう…どうしよう」
ジュブグランは頭を抱える
『…あまり追い詰めて、聖女が策を考えるのも辛くなるわ。妥協しましょう。前線を1000林引くのはどう?』
「ジュブグラン、龍姫様からの提案だ、1000林前線下げるので妥協するそうだ」
2つほど砦を明け渡すことになるが、まだ街の間に砦はある。
兵の守りは変わらない。
しかし、川の境で攻防していたので、帝国に砦を明け渡した結果、一気に攻め込まれるリスクはある。
だが
「…!は、はい!分かりました!」
聖女と遠距離会話をしたらしいジュブグラン。
「500林にまけろとの事なんだが」
『調子に乗るなよ、豚』
吐き捨てるような龍姫様。
しかし
『ソレイユにとっては一緒よ。応じなさい』
「ジュブグラン、了解した。約束の履行をお願いする」
「そ、そうか。分かった。ではさらばだ」
転移でジュブグランは消えた。




