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二人でいたから  作者: 早瀬 薫
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第二十七章

 僕はメモを頼りに、再び京王線に乗り込んでいた。最後に奈々子の不審な行動を追ってから、二週間が経っていた。休みごとに繰り返していることなのかと思ったら、どうやらその行動もおさまったようだった。

 僕はメモ帳に書かれた五人の名前を見つめた。東府中の柏木三郎は、仕事をすでに引退しているらしく、普段はほとんどを妻と二人で自宅で過ごしているようだった。マンションなので付き合いがあまりないのか、周辺の住民に聞いてもそのくらいの情報しか得られなかった。黒川祥太郎は、二十年も前に亡くなっていて、彼が残した飲食店を息子が継いでいた。水森英俊は、最近、心臓を患い、入院している。吉田勝隆は三年前に仕事を引退して田舎に引きこもり、青野竜彦もまた特別養護老人ホームに入所しているらしかった。この五人に共通していることは、一体何なのだろう?

 僕は、仙川でいったん降り、聞き込みをしてから、再び京王線に乗り、調布で降りた。北へ向かい布田でも聞き込みをした。そして最後に、国領まで足を延ばした。国領で黒川祥太郎の息子が営んでいる飲食店に向かうつもりだった。国領の駅前にはマンションが立ち並び、若い世代のファミリーが多く住んでいるようだった。立地条件の良い駅前の店は、どこもそれなりに繁盛していそうではある。しかし、少し歩けば大型量販店があったし、テナントとしてその量販店に入るならともかく、裏通りの目立たないところにある飲食店では、そこまで繁盛しているとは思えなかった。訪れた黒川祥太郎の息子の店も、看板のペンキが剥げかかった随分寂れた感じのするラーメン屋だった。暖簾をくぐってみると、昼時を少し過ぎたその店には、客が二人いるだけだった。僕は、ただ、「ラーメン一つ」とだけ店主に告げた。出てきたラーメンは醤油ベースのスープの平凡な味のラーメンだった。僕から少し離れたところに座って新聞を読んでいた年配の男性が、僕に声を掛けてきた。

「お兄さん、見かけない顔だね」

「あ、はい。近くに友人がいて、久しぶりに訪ねたもんで……」

 僕は見知らぬ彼に嘘を吐いた。

「ふーん、この店は常連ばっかりで、新しい人は滅多に来ないんだよ」

「そうなんですか。確かに、奥まったところにあるし……」

「どこに住んでるんだい?」

「中目黒です」

「これまた、遠いところから来たね」

「ええ、友人が最近この近くに引っ越したもんですから。前は仙川の駅前に住んでたんですけど、マンションを買ったらしいです」

「そこのかい?」

「はい」

「ちょっと行ったところに、でっかい店があるだろ? あれのせいで人口は増えたね」

「便利ですよね。ああいう店が近くにあると……」

「それはそうなんだけどね、前からここら辺で店をやってるところは悲鳴を上げてるよ。な、健司さんよ」

 その男性は、カウンターの向こうの店主にそう声を掛けた。

「そうですね……」

 そう常連客に答えながら、今度は僕に向かって、店主が訊ねてきた。

「お友達は前に仙川に住んでたんだよね?」

「ええ。駅前の郵便局の近くに住んでたんですよ」

「あそこも便利だよね。親父の知り合いがあの近くに住んでてね、小さなお好み焼き屋をやってたんだけど、歳を取ったからってんで、店を閉めて奥さんと二人で老人ホームに入ってしまったよ。今は息子が、カフェをやってるよ」

「あ、もしかして、チェーン店の?」

「あ、それそれ。その息子がたまたま俺と同級で、同じ高校だったもんだから、今も仲良くさせて貰ってるんだよ」

「そうなんですか……」

「仙川に行くことがあったら、寄ってやってね」

「はい、ぜひ」

「お前もラーメン屋なんかやめて、カフェをやったほうが儲かるんじゃないの?」

「またぁ、ご冗談を。広い道に面してるならともかく、奥まってるから無理ですよ。うちは半分以上、出前で儲けてるんですから」

「そうか。親父のラーメンは美味かったけどな。お前のはイマイチだな」

「はっきり言うなぁ」

「な、そうだよな」

 そう言って、その客は僕に同意を求めてきたが、僕は返事に窮し、苦笑いしか出来なかった。

「親父の代は、まだ繁盛してたらしいんですけどね。俺が親父に作り方をちゃんと教わる前に亡くなったから」

「そうだったな。健司はあのとき、まだ高校を卒業したばっかりだったよな」

「ええ」

「お前、ほんとによくやって来たと思うよ。親父もさぞ天国で喜んでいるだろうよ」

「お父さん、病気か何かで亡くなられたんですか?」

「いえ、火事で亡くなったんですよ」

「火事で!?」

「ええ」

「あのときは本当に大変だった。思い出すと涙が止まらないよ」

 客はそう言って、「じゃあ、またな」と言って、カウンターの上に代金を置いて店を出て行ってしまった。

 僕は呆然としていた。何故ならば、ここより先に調べていた仙川の青野竜彦のお好み焼き屋も、甲州街道沿いの布田の水森英俊のコンビニ店も、二十年前に店が火事で焼けたことがあると聞いていたからである。この偶然の一致は何だろう? 調べがついていない東府中や多摩川にも、もう一度早急に聞き込みに行かなければならない、そう思った。


第二十八章に続く

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