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二人でいたから  作者: 早瀬 薫
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第二十六章

 あのとき、私はまだ九歳で、自分に選択肢はなく、そのまま近所に住んでいた親戚の家に引き取られた。なんでこんなことが突然自分に起こったのか、暫くの間、理解できなかった。

 寝るときに天井を見つめる。昨日と違う天井。自分の視界の先にあるものは、天井ではなく二段ベッドの床板だった。狭い空間に押し込められて毎日窒息しそうだった。同じ部屋で過ごすことになった三つ年上の従姉は酷く意地悪だった。持ち物が多すぎて自分の机の抽斗に入れられなくなると、私の机の抽斗に勝手に押し込み、「その抽斗は私の物だから使うな」と言ったり、私の物を盗んでも平気な顔をしていた。毎日辛くて夜中に一人でベッドで泣いていると、「うるさい!」と怒鳴られた。だから、私は、その日から辛くても泣けなくなった。泣けないということが、こんなに辛いなんて知らなかった。人はきっと、泣くということで、哀しみを放出しているんだと思う。泣けないとどんどん体の中に悲しみが蓄積していって、やがて悲しみに体を乗っ取られるんじゃないかと思った、まるで病原体に侵されるように……。

 久しぶりに学校に行ってみたら、友達はみんな腫物でも見るかのように私のことを見た。仲の良かった友達が私の顔を見ると、笑顔が消えた。私のことを誰も知らないところへ行きたいと何度思ったことか! だけど、やっぱり子供の私にはそんな選択肢はなく、ただ無意味に毎日を過ごした。毎日どうにか耐えていたら、いつか私は大人になるし、大人になったら自由になれる!そう思って自分を励ましていた。それでもやっぱり毎日辛くて、気が狂いそうだった。

 一人だけどうしても会いたい人がいた。優しかった亮ちゃんだ。家を引越してからも、何度か亮ちゃんから手紙が来ていたし、あんなことが起こってから、亮ちゃんに無性に会いたくなって、電車に乗って元居た町を訪ねた。でも、亮ちゃんの家があったところに家はなく、空き地になっていた。私は呆然とそこに佇んだ。

 でも、どうして死ぬことを考えなかったのだろう? あのときの私は、ただただ、大人になりたかった。家族を失い、ひとりぼっちになって、毎日震えていたのに……。


第二十七章に続く

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