第二十三章
久しぶりに、奈々子と二人でレイトショーで映画を見た。「ミリオンダラーベイビー」。裏通りの寂れた単館の映画館だった。アカデミー賞を取ったとはいえ、もうずいぶん前の作品だから、DVDをレンタルして家で見れば良かったのだが、外食した後、たまたま通りがかったその映画館がアカデミー賞特集をやっていて、二人とも見逃していた作品だったから、吸い寄せられるように映画館に入ってしまったのだった。
僕は最初、ロッキーみたいだなと思ってストーリーの展開にワクワクしながら見ていたのだが、中盤から話がとんでもない方向へ進んだ。結局、この映画は尊厳死を扱ったもので、賛否両論を生む結果になったものらしいが、僕がフランキーなら一体どうしただろうと思う。
「奈々がマギーだったらどうしたい?」
二十四時間営業のファミレスで、カフェラテを飲みながら奈々子に訊いた。
「うーん、分かんないなぁ、スポーツマンに生まれたことがないから。でも彼女の絶望感は理解できるよ。きっと私が両腕を失くしてケーキやクッキーが作れなくなって、食べることもできなくなったら、彼女と同じことを思うかもしれない」
「そうだよね、そのくらいのダメージだよね」
「うん」
「でも僕はマギーが奈々だったら、生きていて欲しいと思うんだろうな、きっと」
「私もそうかもしれない。でもそれってエゴだよね」
「うん」
「あのね、この間、テレビを見てたらね、まだ若くして寝たきりになった人が出ててね、介護してもらわなきゃ生きていけないんだけど、『死にたいと思っても、死ぬという選択さえできない』と言ってた」
僕はため息を吐きながら、「絶望しかないね……」と言った。
「うん。でもね、その人、そのことをとっても明るく言ってたの。しかも、寝たきりでもコーヒーもお酒も飲むって言ってた。障害者だからって、みんな一律じゃないし、普通にそれぞれ嗜好は違うし、自分なりの人生を楽しみたいって」
「ふーん、すごい人だなぁ。でも、当たり前のことなのに、その人にそんなことを特別のことのように言わせる状況が、なんか悲しい」
「そうだね」
「うん。でもね、そんな風に明るく言えるなんて、やっぱりすごいよ。一人でなんでもできる私のほうが、その人から元気を貰ったんだから」
「本当にそうだよね。僕もその人のことを尊敬するよ」
「うん、私もそう思う。それで、亮ちゃんならどうするの? 私を殺すの?」
「奈々が本当に死にたがってたら、そうするかもしれない」
「そうだよね。長い間悩んで苦しんでそれで死にたいと思ってるのなら、そうしてあげたいって思うよね」
「うん」
「愛する人が苦しむのを終わらせてあげたいと、きっと思うんだろうね」
「うん」
「でも、結局殺すことなんかできないんだよ」
第二十四章に続く




