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二人でいたから  作者: 早瀬 薫
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第十九章

 休日の朝、メールが来ていたので誰からなのか確かめると、信之からだった。僕は「今、ちょうど近くの公園をランニングしようと思ってたところだから、公園で待ち合わせしませんか?」と返すと、OKの返事が来たので、公園の外周をひとっ走りした後、ベンチに座って休憩していたら、暫くして信之もランニング姿で現れた。

「すみません! 待ちましたか?」

 走って来たのか、息が上がっている。僕は首を横に振りながら「あれっ? 信之君も走ったりするの?」と訊いた。

「実は、僕、昔、陸上部だったんですよ。でも最近じゃ全然走ってなくて、運動しなくちゃと思ってウェアだけ買ってたんですけど、亮さんのメールを見て、いい機会だから便乗させてもらおうと思いまして……」

「そっか。やっぱり運動したほうが体の調子もいいしね」

「はい」

「信之君も今日は休みなの?」

「そうなんですよ」

「あんまり休みがないんじゃないの?」

「名目上はあるんですけど、ほとんどないも同然ですね」

「だって、毎日発行してるんだものね。新聞だって週に一回くらい休んでもいいと思うんだけど……」

「そうですよね。ラジオだってテレビだってネットだってあるんだし……。でもまぁ、世界はこれだけネット社会になってるのに、紙媒体で今も食っていけてるのは、僕みたいな人間にとっては幸せだと思ってます」

「そうだね……。でも、僕は紙媒体は絶対になくならないと思うよ。だって、手元に置いておけるし、気軽に読めるのがいいんだよ。おやっさんなんか、絶対工房のパソコンを触らないからね。目がチカチカして見れたもんじゃないってさ。だから、毎日、僕がネット注文が来ていないかチェックする羽目になってるよ。そのくせ、ホームページは綺麗なものを作ってくれって、ここはこうしろああしろと一々細かく指示するんだよ」

「はははは、よく由美さんが言ってますよ。おやっさんは只者じゃないって」

「そうだよ、只者じゃないよ。曲者だよ」

 公園のベンチに二人で座って話した。今日も気持ちがいいくらい晴れている。スポーツをするならもってこいの日だった。野良猫たちも気持ちがいいのか、ベンチのすぐ傍で、寝そべっていた。

「ところで、杉下という男のことなんですが……」

「ああ、信之君、面倒なことを頼んで申し訳なかったね」

「いいえ、全然面倒じゃありませんでしたよ」

「そう?」

「ええ。彼は加山さんと奈々子さんの中学の同級生だったんですよね? その線で調べたらすぐに分かりました。今も調布に住んでいるらしくて、中目黒には彼の勤めている会社があるんです。でもブラック会社みたいですが……。それはともかく、杉下の両親は幼い頃に離婚していて、彼は父親と祖父に育てられたらしいです。ですが、中学生のときに、家が火事に遭い、父親、祖父ともにその火事で亡くしています。それ以来、親戚をたらい回しにされたらしいですが、高校卒業とともに元実家近くのアパートで一人暮らしをしています。なんでも父親は資産家だったそうで、そのアパートも父親が所有していたものを受け継いだみたいです。でも、アパートも老朽化してきて、最近じゃ家賃収入だけでは食べていけないらしくて、実家があった土地も手放したみたいだし、それで今、ブラック会社に勤めているらしいです」

「ふーん、そうなんだね……」

「ええ」

「彼、結婚はしてるの?」

「してたみたいですけど、離婚してます」

「……」

「中目黒の会社に勤めているのも、家族に会いたいがためだと思います。杉下には五歳になる息子がいて、元奥さんが引き取って育てています。だけど、あまり会えないらしくて、息子の保育園に無断で会いに行ったりしてるみたいで、この間もそれで一悶着あったみたいです」

「……彼も、淋しい人間なんだね」

「そうかもしれませんね。勤めている会社はブラック会社みたいですが、でも彼が経営しているわけじゃないし、ヤクザがらみの犯罪行為に加担しているわけでもないみたいなので、ちょっと安心しました。もっとも、彼が警察にしょっ引かれる可能性は大いにありますけど……」

「と言うと?」

「近々、会社に警察が入るみたいですから。でも、今、大急ぎで会社ごとずらかろうとしてるみたいです」

「杉下はどうするんだろう?」

「そのまま会社と一緒に移動するか、転職するんじゃないですか?」

「ふーん」

「でも、彼が中目黒から離れるとは思いませんけどね」

「家族がいるから?」

「ええ。そのほうが見張りやすいからいいですけど」

「え?」

「だって、やっぱり少し心配じゃないですか。亮さんが巻き込まれる可能性がゼロじゃないわけだし」

「……」


 なんで信之君はこんなにいい人間なんだろう? 僕は言葉が出なくなって、俯いてしまった。

 その後、公園の外周を二人で走った。そして、この間のように、二人で駅のすぐ傍のカフェで喉を潤してから、彼と別れた。今度の休みも一緒に走ろうと約束して……。


第二十章に続く

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