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二人でいたから  作者: 早瀬 薫
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第十六章

 いつものように公園に行くと、入り口の横に見慣れない段ボール箱が置いてあって、何かなと思って近づくと、中に小さな雑種の茶色い子犬が二匹入っていた。二匹とも私の顔を見て尻尾をおもいっきり振り、私の手をペロペロ舐めた。いつものように私にくっついてきていた保志は、「お姉ちゃん、連れて帰ろうよ」と言った。私も連れて帰りたいと思ったけれど、前にもこんなことがあって、子犬を連れて帰ったら、お母さんに酷く叱られたことがあった。だから保志に「だめよ」と言ったら、保志は泣いた。私だって泣きたいのに!

 そしたら、またしばらくたって、いつものように亮ちゃんが公園に来て、保志に「どうしたの?」と言った。私は半べそをかきながら、子犬を連れて帰れないことを亮ちゃんに説明したら、亮ちゃんは「わかった。じゃあ、三人で秘密の場所で飼おうよ」と言った。私と保志は「ほんとに!?」と同時に言ったのを今でも覚えている。多分、二人ともよほど嬉しかったんだと思う。亮ちゃんによれば、神社の裏手で飼えば、誰にも見つからないだろうから大丈夫ということだった。犬の名前は「ペレ」と「ジーコ」にした。亮ちゃんも保志もサッカーが大好きで、元ブラジル代表のペレとジーコから名前をもらった。ものすごくありきたりな名前のような気もしたけど、他に思いつかなかったんだもん。それに二匹ともオスだったし、ま、いいかと思ってつけた。

 それから毎日私と保志と亮ちゃんは、追いかけてくる近所のいじめっ子たちをどうにかこうにかまいて、神社にペレとジーコの餌を持っていくのが日課になった。ペレとジーコたちは、私たちが会いに行くと、いつもちぎれるかと思うくらい尻尾を振って喜んだ。三人だけの楽しい秘密のはずだった。けれど、ある日、私たちの後をつけて来た子がいて、「お前たち、何をしているんだ!」と大きな声で叫んだ。私たち三人はびっくりして振り返った。もうこれでお終いだと思ったけれど、その男の子は私たちを見て笑っていた。亮ちゃんは「にいちゃん!」と叫んだ。その男の子は隼人という亮ちゃんのお兄ちゃんだった。亮ちゃんは「大丈夫だよ。にいちゃんだから」と言った。隼人君は亮ちゃんより二歳年上で、小学二年生だった。隼人君とはあまり遊んだことがなかったけれど、それがきっかけで、それから毎日四人で遊ぶようになった。隼人君も亮ちゃんと同じで優しかった。隼人君と友達になったおかげで、私はいじめっ子たちにいじめられることがほとんどなくなった。なんだか毎日がとても楽しくなった。ペレとジーコもあっという間にどんどん大きくなったけれど、亮ちゃんちのお母さんは優しくて、家で犬を二匹とも飼っていいことになった。あのとき、亮ちゃんは私と保志に「いつでも家に犬を見に来ていいよ」と言ってくれた。なんだかすごく嬉しかった。

 小学校は亮ちゃんと隼人君と一緒に通えると思っていたのに、それから少しして、私たちは八王子に引っ越した。全然知らないところに引っ越すことになって最初は不安だらけだったけれど、でも案外早く友達ができた。しかも今度は近所に女の子の友達ができて、亮ちゃんや隼人君がいない淋しさはすぐに吹き飛んでしまっていた。あの頃、お母さんも毎日笑顔で、随分楽しそうだったな。引っ越した家はとても広くて新しくて、一階にお父さんが経営するハウスクリーニングの会社の事務所もあって、お母さんだけでなく私も保志も、新しい生活にワクワクしていたんだと思う。小学生になって、自分の部屋ができたし、しかも机もベッドもカーテンも部屋中にある何もかもが真新しくて嬉しかった。

 そう、もはや夢の中でしか見ることのできないあの家は、家族の笑顔と共に今でも私の中で輝いている。


第十七章に続く

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