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【6巻電子書籍&POD化7/25】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@神様のドS!!完結6巻7/25配信
中等部二年

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90/289

90.中等部二年 ひな祭り 1


 今年も氷川くん主催のひな祭りに招待された。

 氷川くんのおばあ様から直々に招待をされたので、さすがの私も断ることはできなかった。

 次期執行部のお披露目もあるそうで、綱も氷川くんから招待を受けている。執行部のお披露目ということは、桝さんも来るのだろう。

 彰仁は新一年生として招待を受けた。まぁそれは前世でもそうだったので想定内だ。


 恒例の氷川財閥系のホテルで昼のガーデンパーティーである。子供だけのパーティーなので、クリスマスに比べれば幾分敷居は低い。

 詩歌ちゃんも明香ちゃんも紫ちゃんもいる。そしてもちろん桝さんもいた。


 桝さんは、私の隣に綱を見つけると満面の笑みで微笑んだ。教室では顔色の悪い彼女も、今日はとても華やいでいる。


 綱と彰仁と連れ立って、氷川くんに挨拶へ向かう。後ろには八坂くんが控えていて、モデルスマイルを光り輝かせている。


「よく来てくれた。白山さんに白山。あと、生駒も」


 氷川くんは営業スマイルである。


「お招きいただきましてありがとうございます」


 三人で挨拶をする。


「……白山さんと白山だと紛らわしいから名前で呼んでも良いか」


 氷川くんは目をそらしたまま言った。


 うん? 私に聞いてるでいいんだよね?

 

 前世では殆ど『きみ』と呼ばれていた。どうしても名前を呼ばなければならないとき、もしくはきつく叱る時にだけ、『姫奈子』と呼んでくれたのだ。だから名前で呼んで欲しくて、わざと怒らせたのも懐かしい。今思えば、ウザさマックスな仮婚約者だったわけだ。


 ……自分のことながら最低である。


「はい。構いません」


 答えれば、氷川くんは嬉しそうに微笑んでこちらを見た。


「そうか! では、彰仁と姫奈」


 言いかけた瞬間、八坂くんと綱が同時に咳ばらいをした。そんな乾燥してる?


「……姫奈子さん、でいいか?」


 前世の声を思い出して、懐かしさで胸がいっぱいになる。「さん」付けのよそよそしさが今の距離としては適切だと思った。


「どうぞ、お好きなようにお呼びください」


 思わずニッコリと微笑めば、氷川くんもつられたように微笑み返した。


「俺のことも名前で構わないぞ」

「それは遠慮いたします」


 即答する。


「ばっ! 姫奈子!」


 彰仁が慌てて私の腕を肘で押した。


「ああ、彰仁、気にしなくてもいい。君の姉は誰にでもこんな感じだ」


 脱力した顔で氷川くんが答えれば、八坂くんが噴出した。

 彰仁が睨んでくる。

 私は素知らぬ顔をした。


「そうだ、生駒は少し残ってくれ。新執行部の紹介をする」

「わかりました」


 綱が答えて氷川くんの後ろに回った。


 彰仁も同級生の元へ行ったので、私は紫ちゃんと二人でパーティーを楽しむことにした。


 今年も偕楽かいらくの手毬寿司を選んでくれたようなので、そちらを手にして席につく。


 新年度の執行役員ベストは、氷川くんの周辺に集まって談笑をしている。時折現れる、OBへの紹介も兼ねているようだった。

 綱が桝さんにばかり話しかけているように見えるのは気のせいだろうか。楽しそうに話す二人を、なんだか少し見たくない。そこへ淡島先輩と葵先輩も合流した。

 新旧ベストの集まるところだけ、スポットライトが当たったように華やいで見えて、とても眩しい。


「……桝さんって、あんなに人見知りでベストが務まるのかしら」 


 思わずこぼせば、紫ちゃんが苦笑いをした。


「そうね。でも、生駒君のおかげで最近は他の方ともお話しするようになってきたと風雅くんから聞きました」

「そう……それは良かったわ」


 良かったわ、なんて口先で言いながらもなぜだか釈然としない。

 良いことなのだ。わかってる。そうやって苦手を克服してすごいと思う。だけど。


 綱じゃなくてもいいじゃない。


 慌てて手毬寿司を口に突っ込み、出そうになった言葉を飲み込んだ。すし酢が喉に沁みる。偕楽のすし酢はこんなに酸っぱかっただろうか。


「姫奈ちゃん、嫉妬してる?」


 紫ちゃんが面白そうに私を見た。

 

 思わず、咽せてしまう。 


「へ、ぁ?」


 嫉妬? 確かに少し嫉妬した。綱は良くて私が駄目だなんて、そんなの狡いと嫉妬した。だけど、今のこの気持ちはそれとは少し違うのだ。なぜか見たくない。知りたくない。


「そんなんじゃ、ないもん」


 口を尖らせれば、紫ちゃんは笑った。

 なんだか見透かされているようで、ため息を吐き出す。


「でもちょっと眩しいなって思ったのよ。ああやって並んでいるのを見ると……なんだか遠い人みたいだわ」

「そうね、それは……良くわかるわ」


 紫ちゃんも眩しそうに葵先輩を見た。


「わかる?」


 紫ちゃんにわかるのだろうか?


 紫ちゃんが私を見て優しく微笑んだ。


「姫奈ちゃんにだけお話するわね。私はいつも姉に対してそう思っていたから」

「葵先輩に?」

「ええ、姉は昔から完璧でいつも風雅くんと光の中心にいるの。同じ幼馴染でも私だけダメな子でそれを一人で遠くから見てたのよ」

「ダメな子なんかじゃないじゃない!」


 私が憤慨すれば、紫ちゃんはありがとう、と笑った。


「でも、私だけ芙蓉に入れなくて、入っても芙蓉会じゃないし、お友達もいなくて……。両親は優しいから、姉妹で同じようにって、服も学校も……こういう席も平等に用意してくれるの。姉も優しくて、私が困らないようにしてくれる。そんな姉も両親も大好きだけど、でも、私にはそれが重くて、どんなに準備してもらったって同じようにはできないし……ね?」


 紫ちゃんは明るく肩をすくめた。


「わかるわ。私もそうよ。彰仁なんかそつなくこなすから。しかも年下の癖に! 誰でも同じようにできるわけじゃないのにね。勘弁して欲しいわ!」


 思わず会場の中で談笑している彰仁を睨んだ。


「きっと一昨年のひな祭りでも氷川くんに大分配慮をいただいたのだと思うの」

「配慮?」

「姉が行くのに私がお留守番なんて可哀そう、親はそう思ったのよ。でも、私はここに呼ばれる基準を満たしていなかったわ」


 紫ちゃんがグルリと会場を見渡す。確かに、前回はあまり観察できなかったが、まじまじ見ればすごいメンバーだ。

 芙蓉会メンバーとそのOBが殆どで内部生はチラホラと見えるくらいだ。大黒さんも二階堂くんも、三峯くんですら呼ばれていない。

 外部生にいたっては、紫ちゃんと私しかいなかった。こうやって見れば厳選されたメンバーなのだと気が付く。


 私は紫ちゃんを見た。私たちはこの中では異質なのだ。分不相応だともいう。


「でも、姫奈ちゃんは彰仁くんが初等部だけど芙蓉会でしょう? 私も姉が芙蓉会ね。兄弟が芙蓉会であれば、外部生でも……となったんでしょうね」


 そうか。お父様の力で何とかなっていたのだと思っていたけれど、そんな裏事情があったのか。政界の重鎮、沼田家のお嬢様への配慮のために、私は利用されたのだ。


「それで、私が呼ばれたのね?」


 最初のきっかけですら、そうだったのだ。呆然とする。


「私にはその配慮がとても重くて嫌だったの。放っておいて欲しかった。姉と比べられるのも嫌だけど、それ以上に姫奈ちゃんにも申し訳なかった。だから教室でも声がかけられなくて……」

「そんなことないのに」

「そうよね」


 紫ちゃんは小さく笑った。


「だからなんとなくだけど、姫奈ちゃんの気持ちが少しわかるわ」

「ありがとう……」


 自分の汚い気持ちが、紫ちゃんの言葉に許された気がした。


「ううん。私、でも、今になればこうやって姫奈ちゃんに知り合えてよかったと思うわ」

「私もよ」


 コンプレックスだらけの私たちは、二人で笑いあった。





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