86.選挙が終わる
こうして、立会演説会が無事というのかなんというのか、とりあえず終わった。投開票を終え、無事に芙蓉会派は全員当選した。三峯くんはそれでも三分の一ほど票を得ていたので、結構危なかったのではないだろうか。
それって、私のせい? でも私が応援してたのって明香ちゃんだし……。やっぱり私のせい?
そして、開票後、私たちは、問題の芙蓉館のカフェに来ていた。選挙後の打ち上げである。
淡島先輩はご機嫌である。それが逆に怖い。
「いや、白山さんの応援演説、意外だったね」
「申し訳ございませんでした」
私は深々と頭を下げた。あの失態の責任を問われるのだろうか。
「いやいや、葵も教えてくれなかったから。うん、白山さんが意外というか、これを許した葵が意外というか」
葵先輩の指導の下、私が書いた応援演説は、実のところ浮いていた。
「葛城さんの演説なのに、小麦粉の有用性を語りだした時には、なんの時間かわからなくなったからね」
八坂くんも笑った。
「インパクトあったでしょう?」
葵先輩が自慢げに答えれば、氷川くんも頷く。
「俺は芙蓉館の件が意外だったな」
ぎくりと体をこわばらせた。やっぱり私のせいで得票率が悪かったのだろうか?
「ああ、僕らが言いにくいことをサラッと言ってのけたからね」
「言いにくい?」
思わず問えば、淡島先輩が意地悪く笑った
「芙蓉会のブランドで一般生に箔をつけてるんだ、なんて口が裂けても言えないよね。外部生の白山さんが言ってくれて助かったよ」
「そんなつもりで言ってませんし、そんなふうに言ってません!!」
慌てて否定をする。解釈違いだから!! 絶対そんな意味で言ってないから!!
「『お金には困ってないの!』のくだりにはウケたよね。あの大黒商事にそれを言えるのはさすがの白山フードサービス」
八坂晏司、思い出し笑いは勝手だけど、セリフの復唱はやめてください。
「姫奈ちゃんて思ったより、色々考えてるのね」
褒めているのか馬鹿にしているのか、明香ちゃんクスクス笑うな。
「でもあのおかげで、三峯票になりそうだった票をこちらに引き寄せてもらった。あの時あの流れのままだったら、実現不可の公約でも票の流れは大きかったと思う。有権者が冷静になれた」
氷川くんがそう言って安心した。怒られるんじゃないかと思っていたからだ。
「で、和。新執行部はどういう人事にするつもり?」
淡島先輩が言うから、私はそそくさと席を立とうとした。
「白山さん、どうしたの?」
葵先輩に問われる。
「あの、外部生の私が聞くのは良くないと思うので……」
「今更じゃない」
明香ちゃんが言った。
「俺は、書記に浅間さん、会計に桝さん、庶務に五木を入れようと思う」
氷川くんが勝手に話し始めた。さすが俺様だな?
五木くんとは一つ下の学年の芙蓉会リーダー的存在の子だ。
「まぁ、順当だね」
淡島先輩が答える。
「桝さん……執行部なんて引き受けてくれるかしら?」
私は思わず不安を口にした。
大人しくてクラス委員も苦手そうなのに、生徒会なんて嫌がる気がしたのだ。
「了解は得ていますよ」
綱が答えた。
「え? いつの間に?」
思わず聞き返す。
「選挙期間中にお願いしました。私が当選したら会計を引き受けてくれるとのことでした」
綱の答えに、胸がなぜかチクリとした。
「……そう、それは良かったわね」
口に出して、なんだか唇が冷たくなった気がした。
「生駒意外に口説き上手だね」
八坂くんが冷やかすように言う。
「選挙中、生駒はそういう地味なことも良く働いてくれたよね。ちょっと意外で助かったよ。盲目的な所があるから、営業活動は嫌がると思ってたからね」
淡島先輩が満足げに笑った。
「目的のためにやらなければならないことはやります」
無表情に綱は答える。
淡島先輩は肩をすくめて笑った。
「あと、白山さんが言っていた、図書館の飲食スペースのメニューの充実と、チュートリアルルームへの飲食物の持ち込みの許可を求めることにしようと思う」
氷川くんが言えば、皆賛成してくれた。氷川くんは笑顔で私を見た。
「どうだ?」
「良いと思います」
答えながらも、心はここになかった。なんだか、モヤモヤと胸の中が詰まってくる気がした。







