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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@完全無欠の悪女です2月下旬発売
中等部二年

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83.選挙って大変ね


 筋肉痛である。頬も唇も舌も、腹筋も背筋も太ももも脹脛も筋肉痛である。あれから、選挙が終わるまでは週に二日トレーニングをこなすことになった。

 自主トレ用のメニューも課せられ、呼吸法の改善をしている。

 流石の綱ですら疲れを見せていた。応援だけの私ですら大変なのだ。トレーニング以外の打ち合わせもある綱は、もっと大変なのだろう。


 八坂くんに文句を言おうと思ったら、逃げられた。ついでに、葵先輩と明香ちゃんにつかまった。


 応援演説作成である。


 ああ、しんど。


「明香ちゃんが書いて? 得意でしょう? 私は頑張って覚えるわ」


 グッタリとしてそう言えば、葵先輩がため息をついた。葵先輩は明香ちゃんのブレーンなのだ。  


「姫奈子さん……それはダメよ?」

「葵先輩」

「あなたが、明香さんの、どこを、皆さんに伝えたいの? どうして明香さんを推薦するの? それはあなたにしかわからないでしょう?」


 葵先輩、正論すぎます。だけど、上手い文章なんて考えられない。しかも、応援だよ? 応援……。無理すぎる。


 葵先輩は歴代の応援演説資料を私に手渡した。


「これを参考に考えてみて?」


 うへぇ……。これを読むのか……。


 思わず白目をむけば、明香ちゃんが笑った。


「姫奈ちゃん、私をお菓子だと思ったら?」

「お菓子?」

「そう。みんなに買ってもらうには、姫奈ちゃんだったらどうしたらいいと思う?」


 明香ちゃんが私の顔を伺うように見た。


「さやちゃんがお菓子……」

「果物でも、何でもいいけれど……何か食べ物に例えるなら?」


 オールマイティーな明香ちゃん。頼りになって、皆からの相談を嫌な顔一つしないで受け入れる。

 そんな明香ちゃんを食べ物にたとえるなら。


 そうだ!


「さやちゃんって小麦粉みたいよね」


 そう呟けば、葵先輩はきょとんとして、明香ちゃんは噴き出した。


「どうしてそう思うの?」


 葵先輩に尋ねられる。


「だって、どんな要求でもうまく応えてしまうから。しょっぱい相談も、あまーい打ち明け話も得意でしょ? ウドンを作ったかと思えば、ケーキだって作れる。ご飯にもおやつにも、洋風にも和風にもなれる万能選手だわ。調味料みたいにこれがないと困るとは思わせないけれど、どんな家庭でも、絶対に必要でしょ? 私、無人島に何か一つ食べ物を持っていけるって言われたら、絶対に小麦粉を選ぶわ!」


 思わず力説してしまった。明香ちゃんはそれを聞いて顔を真っ赤にして目をそらした。葵先輩は柔らかく微笑む。


「そうね、それを書いて欲しいの」

「……はい?」

「そういうことを書いて欲しいのよ。姫奈子さんから見た明香さんの売り込みたいところよ」

「だって、皆、知っていますよ? 私なんかが言わなくても」

「そうかしら? 私は知らなかったわ。明香さんが小麦粉だってことも、小麦粉がそんなに大切だってことも」


 ゾクリとするほどたおやかな声に、震えが走る。葵先輩は美しく微笑んだ。まさしく女王。いや、女帝の風格である。


 明香ちゃんと二人、葵先輩に圧倒される。言葉が出ない。


「姫奈子さん、明日までよ? 明日までに草案を持ってらっしゃい」


 有無を言わせぬその言葉に、私は無言で頷いた。






 今日は二回目の公示日だ。今からピロティに立候補者のポスターが貼り出される。私たちはそれを見にやってきていた。三峯くんも大黒さんもピロティに来ていた。

 前評判はいろいろ噂が立っているが、対抗馬が正式にわかるのはポスター掲示によってである。


 会長は噂通り、三峯くんと氷川くん。皆納得の声を上げる。三峯くんは困ったように肩をすくめた。

 女子の副会長候補は、大黒さんと明香ちゃん。大黒さんが顔を上げて髪をかき上げた。少しのザワメキが起る。

 私が明香ちゃんの推薦人なのが意外なようだ。それはそうだろう、私だってそう思う。視線が痛く縮こまれば、明香ちゃんがニッコリ笑って私の腕にくっついた。

 

 そうだ、不安な顔なんて見せてはいけない。


 私は明香ちゃんに微笑を返した。明香ちゃんは満足げに頷く。


 そして、男子の副会長候補が張り出されたとき、ピロティはどよめいた。立候補者は、綱と志倉くんという人だ。志倉くんの顔が思いつかないから、クラスが一緒になったことはないのだろう。


 しかし何といってもどよめきの理由は。


「晏司くんがなんで生駒くんの推薦人なの!?」


 大黒典佳が叫ぶように金切り声をあげた。


 八坂くんは仕事で忙しく、この場にはいなかった。噂も一切出回っていない。それはそうだろう、八坂くんと綱は犬猿の仲、と言うのが共通認識だったからだ。


 淡島先輩と明香ちゃんが、どす黒い顔でニンマリと笑った。……この人たち、絶対敵にしたらアカンやつ。


「八坂と生駒って仲良かったんだ?」


 三峯くんがやってきて尋ねられた。

 私はニッコリと笑う。


「嫌よ嫌よも好きのうち、ってあるでしょう?」


 ドヤァと答えれば、三峯くんは目をパチクリさせている。


 あれ? なんか違う?


「姫奈ちゃんそれは……ちょっと」


 明香ちゃんが隣で小さく噴き出した。


「ああ、違いますね? 喧嘩するほど仲が良い、でした!」


 誤用を訂正したら、三峯くんも噴き出した。何故か周りがザワザワしている。

 綱がこちらを向いて顔を顰めた。


 こら、綱。協力してもらってるんだから、選挙期間中くらい仲良くしなさいよね?


「そうなんだ。すっかり、白山さんが生駒くんを推薦するんだと思ってた」

「私はさやちゃんを推してます。清き一票を葛城明香によろしくお願いします」

 

 私はペコリと三峯くんに頭を下げた。


「では、俺にも清き一票をお願いします」


 三峯くんに頭を下げられた。


 多分、氷川くんの圧勝になるだろうから、私が一票をいれても問題はないだろう。それに、あまり大差がついても可哀想だ。


「そうね、」


 いいわよ、と答えようとした瞬間、明香ちゃんに腕を引かれた。


「姫奈ちゃん、選挙期間中に軽率な言動は慎んでね?」


 メチャメチャ怖い顔で睨まれた。


「は、はい……」


 圧倒されて返事をすれば、三峯くんが笑った。


「ちょっとした冗談だよ」


 三峯くんは爽やかに笑うと、去っていった。


「姫奈ちゃん」


 明香ちゃんに睨まれる。


「ごめんなさい」


 私は素直に謝った。


 明香ちゃんはため息を吐いた。そして、小さな声で囁く。


「最終的に姫奈ちゃんが誰に入れるかは自由よ。でもね、あそこで姫奈ちゃんが三峯くんに入れると言えば、姫奈ちゃんは氷川くん側でないと思われるわ。下手したら、私も生駒くんもよ」


 指摘されてゾッとする。余りにも軽率だった。


「本当にごめんなさい」


 真摯に謝る。


「わからなかったんでしょ? 良いわよ。でも、選挙期間中は特にお口に気を付けてね」


 明香ちゃんがチャックで閉じるように私の唇をなぞって笑った。


 軽率。本当に私は軽率なんだよなぁ……。


 自分の浅はかさにガックリと項垂れて、私たちは教室に戻った。



 翌日は早朝から選挙運動が始まった。

 選挙運動を終えて、いつもより遅く教室に帰れば、二階堂くんが私の机から大きな花瓶を持ち上げたところだった。真っ白な花が沢山活けてある。


 教室がザワリと音を立てた。


「あ、バナナ姫、早かったな」


 二階堂くんが目を泳がせながら言う。


「何? そのお花」

「いや、その」


 紫ちゃんが困ったように私を見た。


「あの、姫奈ちゃん、仁くんは花瓶を退かそうとして」


 あ、さりげに名前呼びなのね? いいですけど!


「選挙のお祝いのお花なの?」


 キョトンとして思わず問う。そうでもなければ、私の机に花を活ける理由が思い当たらない。


「あ、うん、そう、じゃないの」


 二階堂くんが歯切れ悪く答えた。


「でも、普通は立候補者に贈るものなのにね? 面白いわねー」


 不思議に思って笑うと、二階堂くんが脱力したように答えた。


「選挙事務所扱いじゃない?」

「ああ! それなら納得ね! 親切な方がいるのね?」


 ポンと手を打つ。


「でも、流石に机の上は邪魔だと思ったから、動かそうとしてたんだ」

「そうなのね。ありがとう」


 ニッコリ笑えば、クラス中に脱力したようなため息が充満した。


 何?


 思わず振り返って綱を見る。綱は困ったように笑った。


「え、何? なにか可笑しい?」

「いいえ。姫奈はそのままでいてくださいね」

「なにそれ」


 不服に思って綱をにらめば、二階堂くんも、氷川くんも、同意を示すように頷いた。


 ………だから、なにそれ!





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