78.中等部二年 クリスマスパーティー 4
ビュッフェコーナーには、今年も絢爛豪華な食事がずらりと並んでいた。ワクワクとして目移りする。グラタンもいいし、パイ包みもいい。フォアグラは鉄板で焼いてくれるらしい。これは絶対食べたい。
食べたいものをお皿にとって歩いていると、明香ちゃんが手を振ってくれた。空いているテーブルに詩歌ちゃんと二人でいたから、八坂くんと一緒に合流する。
席について、一口飲み物を口にすれば、ホッと息が漏れた。生き返る。
「相変わらず目立ってたわよ。恒例の白黒バトル」
明香ちゃんが笑った。
「変な娯楽にしないで欲しいわ。私は本意じゃないのよ?」
むぅとする。
「今日もオソロなのね?」
「なにが?」
「八坂くんは赤地に白の水玉のタイとチーフでパールのカフス。姫奈ちゃんは、赤にパールのドレス」
指摘されてハッとする。
「偶然よ」
「偶然のリンク率がこうも高いと運命みたいね?」
明香ちゃんが冷やかすようにいうから、あからさまに顔をしかめる。
「母に聞いて僕が寄せたんだよ」
八坂くんが意味ありげに笑った。
「え?」
真意を測りかねて、私は思わず聞き直した。
「誤解を解くことにしたのね」
明香ちゃんが確認するように八坂くんを見た。
「うん」
「なんの誤解?」
チンプンカンプンである。
「大黒さんはオキニじゃないってこと」
八坂くんが答えれば、詩歌ちゃんが私の手を強く握った。
「もう、姫奈ちゃんに嫌な思いをさせないで」
詩歌ちゃんが八坂くんを睨んだ。
「うーちゃん……」
詩歌ちゃんがそう言ってくれたのが嬉しくてウルウルしてしまう。
「だからだよ、くだらない誤解だと放っておいたら、姫奈ちゃんに迷惑かけちゃったじゃない? 害になる誤解は解いておかなきゃ」
八坂くんも、一応考えてはいてくれるのか。
「大黒さんより姫奈ちゃんが大切なのは本当だし」
真っ向から言い切られて、ちょっとテレる。イタリア男の血筋、強い。サラッと言えちゃうのすごい。
「ありがとうございます?」
「いいえ、どういたしまして?」
ニッコリと微笑まれて、なんとなくそれ以上突っ込めなくなってしまった。
「後で氷川くんを誘って、皆で写真とりましょう」
明香ちゃんの提案に、八坂くんが冷めた顔をする。
「なんで」
「さっきの目立ってたわよ。姫奈ちゃんと八坂くんだけが写真を撮っていたとなれば反感を買うわ。グループでも撮るなら納得もできるし、氷川くんが混ざっていたら文句は言えないでしょう」
「流石、葛城さん」
八坂くんが肩をすくめた。
「うーちゃん、さやちゃん、ありがとう!」
思わず二人にハグをする。
そんなこんなで食事をしていたら、疲れきった氷川くんがやって来た。
「さっきはすまなかったな、白山さん。母が失礼で」
「いえ、うちの母こそ失礼しました」
お互いに思い出してげんなりする。
「どうしたの?」
明香ちゃんが尋ねる。
「マダムの噂話というか、からかわれたのよ。こういう席ではよくあることでしょう?」
苦笑いして答えた。
「そうね」
明香ちゃんも詩歌ちゃんも心当たりがあるのか、頷く。
「とりあえずお食事して、英気を養ってください。フォアグラ美味しかったです!」
氷川くんに薦める。
皆で食事をとりながら、しばしの休息だ。
鉄板で焼かれたフォアグラは美味しいし、鯖寿司も食べた。去年食べられなかったクロカンブッシュを食べようかな。
食事の締めのミニャルディーズは、種類がたくさんで目移りしてしまう。小ぶりで可憐なお菓子は、宝石みたいにキラキラとしていていくらでも食べてしまえそうだった。
丁度落ち着いたころ、明香ちゃんが声をかける。
「みんなで写真を撮りましょう。氷川くんも良いですか?」
「俺は構わないが珍しいな」
氷川くんはキョトンとして、八坂くんを見た。八坂くんは氷川くんに肩をすくめて見せる。
「色々あってね。葛城さんから政治的配慮のご提案だよ」
「そうか。でも、そうだな、やっておいても悪くはないな」
氷川くんはそれで納得したようだった。
明香ちゃんが、満足そうに頷く。
なに? 政治的配慮って? 不穏な言葉に感じるの私だけ?
「姫奈ちゃん、撮りましょう?」
呆然としていると、詩歌ちゃんが私の腕を引っ張った。
「え、ええ」
先ほどのソファーへ向かう。女の子三人がソファーへ腰かける。中央は、姫奈ちゃんね、と明香ちゃんに無理やり座らされた。二人の男子はソファーの後ろに立った。
詩歌ちゃんが私の腕に絡みついた。
「見せつけてあげるんだから」
詩歌ちゃんが珍しく怒気を含んだ声で呟いた。しかし顔には令嬢スマイルが付いている。
え、なに恐い。何を誰に見せつけるの?
大人たちは、微笑ましいものを見るような目で見ている。氷川くんと八坂くんがいるせいか、注目が集まってなんだか気恥ずかしい。
「コチラを見てくださーい!」
スタッフの声が響く。私たちはカメラを見て、とびっきりのご令嬢笑顔を繰り出した。







