75.中等部二年 クリスマスパーティー 1
今年もやってきました。召集令状。氷川家からのクリスマスパーティーの案内状だ。去年抵抗してみて良くわかった。逆らうだけ無駄である。
どうせ来年には彰仁が社交の場へ出てくるのだ。そうすれば私の役目は終わりだ。今回限りだ、我慢しよう。
今年のドレスはエレナさま御用達ブランドにした。お母様には渋られるかと思ったが、何も言わなかった。
「姫奈子はどんなドレスにするのかしら? どなたかと合わせる予定はあるの?」
「特にありません」
ニヨニヨするお母様。何か変なことを考えているに違いない。
「晏司くんは何色のスーツかしら? 去年はアクセサリーがお揃いだったわよね?」
「偶々だってお母様も知っているでしょ?」
ウフフと笑うな、お母様。あの星のブローチを勧めてきたのはお母様だ。
「和親くんは何色か聞いた?」
急に氷川くんの名前が出て息が止まる。何事だ? お見舞いの件については、お父様に報告し口止めしたはずだったのに。
「はぁい?」
動揺して思わず声が裏返る。
「最近、仲が良いんですってね?」
「ど、どなたがそんな」
「氷川様からよ? お見舞いありがとうって言われてびっくりしちゃったわ。どうしてお話してくれないの?」
くっそ、そっちからか! そっちから刺されるとは思っていなかった!
にこやかな笑顔が怖い。思わず目をそらす。
「お、お話したわよ。ええ、したわ。確かにした」
「聞いた覚えないけれど?」
「最近忘れっぽいってお母様」
「え? 誰が年ですって?」
セリフ被せて来たな。
「本当は氷川様からお話される前に気がついてはいたけれど、姫奈子から話してくれるのを待っていたのよ?」
「……」
「姫奈子、あなた、隠し事するの向いてないわ」
「どうして……?」
「敵に手の内は明かさない。鉄則よ? 可愛い姫奈子」
お母様がニッコリと笑う。愛娘を敵という母、此は如何に?
じっと見つめられて、私は敗北を認めざるを得ない。
「偶々、氷川くんのお見舞いに同席することがあって……おばあ様と仲良くさせていただいているんです。氷川くんと仲が良いわけではなくて、おばあ様とお話したくてお邪魔しています。それ以上はありません」
「そう? 餡子を開発して?」
お父様と二人でしていた、白山茶房での低糖質おやつ開発を押さえられたのだ。
「っ! お年寄りやダイエットをする人でも、満足できるお菓子が作りたくて。試食をお願いしています」
だんだんと声が小さくなる。
「いいんじゃないかしら」
「……え?」
「良いと思うわよ。そういうの、素敵だわ」
「お母様……」
お母様の優しい声に、胸が詰まる。が、その瞬間。
「で、どちらと合わせましょう。和親くん? 晏司くん?」
「だから、どちらとも合わせません!!」
「まぁ、姫奈子はノリが悪いのね?」
「冗談じゃすまない相手です!」
「冗談にしなければいいじゃない」
お母様が怖い。怖すぎる。
後退りしてフルフルと頭を振った。
「誰か心に決めた方がいるの?」
「いいえ、そうではないけれど、まだ早いでしょう?」
「女はね、お父様のように甲斐性のある方と結婚したほうが幸せになれるものよ?」
始まりました。お母様の結婚観、という名の惚気である。
いかに自分がお父様と結婚して幸せか、だから同じような結婚を、そう滔々と語るのだ。正直耳にタコ。だって私は前世から二巡目なのだ。その惚気話だって二倍である。
前世ではそれにすっかり洗脳されて、氷川くんゲットを我武者羅に目指していたのだ。だってそうすれば幸せになれるって、お母様が言ったから。
両親の仲睦まじい様子は見ていて憧れで、私もこんなふうに幸せになりたいと思った。お母様より幸せになるならば、お父様よりお金持ちの人と結婚しなくては。一番の御曹司と結婚すれば、一番幸せになれると思ったのだ。
お母様のせいにしかけて考え直す。自分で自分の未来を考えなかった私も悪い。やり方も違ってた。今回は同じではいけないのだ。
「でも、今日はドレスを決めましょう?」
前回のドレスは大黒典佳に地味だと罵られた。しかも地味すぎで目立っていたと思う。今回は程よい華やかさで、目立たないようにしたい。
ずらりと並んだドレス。どれも綺麗だ。今年はやっぱりクリスマスらしく赤や緑がいいかもしれない。
その中にひときわ目を引いたドレスがあった。みんなと同じ赤。木を隠すなら森の中方式に十分叶う。でも、着てみたいと思わせる素敵なドレス。
身頃は真紅のベルベット。大人すぎない膝下丈のふんわりした赤いスカートに、赤いチュールが載せられている。そのチュールには身頃と同じ真紅のベロアでボタニカルな柄が刺繍されている。柄にあわせてパールビーズが雪のように散っていた。
「これがいいわ」
お母様に相談すれば、満足げに頷くお母様。今年のドレスはこれに決まった。







