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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@完全無欠の悪女です2月下旬発売
中等部二年

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71.中等部二年 文化祭 3


 担任の先生がやって来て、私はカウンセリング室に行くように指示された。あんなことがあったから、体育館に戻せないと判断されたらしい。


 先生に付き添われてカウンセリング室に行けば、そこには八坂くんがいた。

 体育館を飛び出した八坂くんは、あの後先生に保護されたのだろう。

 担任の先生は、スクールカウンセラーの先生に私たちを託して体育館に戻っていった。


「被害者の方が隔離されるなんて変だけどごめんなさいね。色々落ち着くまで少し休んでいきなさい。ランチボックスとお茶を持ってくるから少し待っていてね」


 スクールカウンセラーの先生はそう言って席を立つ。


「姫奈ちゃん、ごめん。また迷惑かけた」

「先生も言ったわ。八坂くんは被害者よ。誰から見ても、八坂くんのせいじゃないわ。それに氷川くんやクラスの皆で何とかしてくれたから、問題ないわよ」


 八坂くんは泣きそうだ。


「生駒、カッコよかったね」

「そうよ、綱はかっこいい時もあるのよ。八坂くんは見れなかったけれど、あの後、氷川くんもカッコよかったわよ?」


 八坂くんは苦笑いした。


「一番かっこよかったのは姫奈ちゃんだと思うけど」

「……レディとしては最低だったわ」


 肩をすくめる。あんなに大勢の前で、あんなに大きな声を出して、自分の怒りを隠しもせずに足を踏み鳴らすなんて、お母様に知られたら大目玉だろう。みっともない。エレガントからはかけ離れている。


「好きな人に、あんな顔、させたいの?」


 八坂くんが私のセリフをそのまま声にしたから、恥ずかしくて顔を覆った。


「止めて! 忘れて! もう思い出さないで!! 黒歴史だわ!」

「ヤダよ。忘れないよ。すごく嬉しかったからね」


 八坂くんは、顔を覆う私の指を一本ずつ剥いでいく。そうやって、真っ赤になった私の顔を覗き込んで笑った。


「姫奈ちゃんだけだよ。そんなこと言うの。皆いつだってどこででもそれが当たり前みたいに、こっち見て、笑って、って言う。笑わなくていいって、言うのは姫奈ちゃんだけだ」

「だって、つまらないのに笑えるわけないじゃない。笑って欲しいなら笑わせるしかないでしょ?」

「そうなんだけどね。顔の奥に心があるって、誰も気が付いてくれない」


 モデルの八坂くんはいつも笑っているから、皆それが当然だと思ってしまうのだろう。


「……そうなの……」

「だから、ありがとう」

「いいえ」

「それに比べて、逃げ出した僕はカッコ悪かったね」

「そんなことないわよ。人の痛みを自分のことみたいに感じるのは八坂くんの優しさじゃない」

「……誰にでもそうじゃないよ」


 八坂くんは私の手を握ったまま肩をすくめた。


「ねぇ、姫奈ちゃん。お礼がしたいな」

「お礼なんていいわよ」

「でも、このままじゃ、僕だけがカッコ悪いままだ。和親もカッコ良かったとか、なんか許せないし。欲しいものとかない?」

「なにそれ。欲しいものって言っても……手に入るものは全部持ってるわ」

「うわ、さすが白山だね。お嬢様な発言だ」

「八坂くんに言われたくないです!」

「でもさ、なにか、力になれることないかな。貰うものばっかり多すぎて、なにも返せないのはさすがに情けないよ」

「何にもあげてないですよ」

「僕は貰ってる」


 なんだか埒が明かない。手は握られたまま放そうとする気配もない。ブンブンと振ってみたけれど、ニッコリと笑い返されるだけだ。


 答えるまで離さないということだろうか。


「うーん……あ、そうだ! 何でもいいですか? 先のことでも」

「なに?」

「八坂くん、顔広いですよね? 白山家が没落したら仕事を紹介してください!」


 八坂くんは、キョトンとして噴き出した。


「なにそれ! なんの冗談?」

「冗談じゃないんです! 真面目な話です! もしそうなったら、その時、私のことがどんなに嫌いでも、絶対に仕事を紹介してください。何でもいいので! 何でもするので!」

「姫奈ちゃん……本当に、キミ、変な子。没落って、没落するの?」


 八坂くんは涙をためて笑っている。


「没落は、したくないですけど、したら困るんですけど、先のことはわからないじゃないですか! だから、もし仮にそうなったら、生活できないのは困るので。食べられるくらいの仕事を……って笑い事じゃなくて!」

「うんうん、わかった。もしそうなったらね、ちゃんと困らないようにしてあげる」

「約束ですよ? どんなに私がデブスになっていても、ですよ?」

「デブスって、……ほんと姫奈ちゃん、その発想どこから出てくるの?」


 実体験だよ!! とは言えない。


「絶対ですよ!? 約束ですよ?」

「わかった! 絶対ね。デブスになってても、うん、絶対幸せにするよ」


 そう言って、八坂くんは握った手をぎゅっと強く握りしめた。


「幸せまでは遠慮します。なんか怖い……」


 握られた手から逃れようと引き抜こうとする。八坂くんは離すまいと引っ張り返す。


「つれなーい」


 可愛くふくれっ面したって、騙されないぞ。


「営業用の顔してますよ」


 ガラガラと保健室のドアが開いて、ポットとランチボックスをもってスクールカウンセラーの先生が戻って来た。


「あらあら、仲良しなのね? 私も一緒にお昼をしたいけれどお邪魔虫かしら?」


 冷やかすように笑う。


「そんなこと全然ありません!!」


 完全否定すれば、二人に笑われた。遊ばれていたようだ。


 文化祭の日のお昼は持ち帰り給食で、ランチボックスが提供されるのだ。ホームルームの後は自由下校で、好きな場所で食べることができる。午後の校友会の展示準備に向けて、部室で集まって食べる生徒もいるし、午前の合唱の成績が良かったクラスや三年生は打ち上げを兼ねることも多い。芙蓉会のメンバーは芙蓉館のカフェで食べている人もいる。


 きっと私たち二人は面倒ごとを避けるために、ここに保護というか軟禁ということなのだろう。


 お昼は先生と三人でランチボックスを食べた。先生は合唱コンクールの結果を教えてくれた。二年F組は特別賞だったそうだ。それを聞いて安心した。


 午後の文化祭は予定通り行われることになったらしい。

 ただし、合唱コンクールで問題の中心になった大黒さんは生活指導室に呼ばれ、文化祭には出席できないことになった。また、意図的に生徒手帳を落とした子たちについては、反省文を書かされることになった。もちろん、家庭への報告もされる。

 ただ、ヤジの方は特定しきれないということで、全体注意にとどまったと教えてくれた。


「ノリでヤジを飛ばしちゃった子たちも多かったみたいだから、皆反省しているわ。まぁ、生徒会執行部ベストが立ち上がって拍手をしていたら、馬鹿でなければ気が付くでしょう。だから午後は心配せずに遊びに行ってらっしゃい」


 先生はそう笑った。


「執行部が拍手って?」


 八坂くんが不思議そうに聞いてきた。見ていないからわからないのだ。

 

「合唱が終わった後、淡島先輩と葵先輩が執行部席で立って拍手をしてくれたんです。それに他の芙蓉会の方たちが続いてくれて……さやちゃんとかうーちゃんも。拍手してくれた中には、一年生や青いリボンの子たちもいたんですよ」

「そうなんだ」

「そうです。悪意は目立ってしまうけれど、悪意より善意の方が本当は多いんです。ファンの子達もきっとわかってくれます」

「そっか。そうだといいな」


 八坂くんは、なぜか穏やかに微笑んだ。


「うん、僕も決めた」

「何をですか?」


 尋ねれば、八坂くんは小首をかしげる。あざとい。


「できることをしなきゃね」

「できること、ですか?」


 その笑顔はなんだか怖い。ろくでもないことを考えていないだろうか。


「うん、まだ少ないけど、できることからね」

「はあ……あんまり悪巧みはやめてくださいね?」

「やだなー、信頼無いね」


 八坂くんが肩をすくめる。

 先生もそれを見て笑った。


 バタバタと廊下が騒がしくなる。きっとお昼を食べ終わった人たちが移動し始めたのだ。

 午後に向けて、沸き立っているのがわかる。


「姫奈ちゃんは午後どうするの?」

「桜庭のお友だちを招待したので、お迎えに行きます」

「僕も一緒に行って良い?」

「え……何でですか?」


 思わずいぶかしむ。


「そんなにヤな顔しないでよ。営業くらいしても良いでしょ?」

「お仕事熱心なんですね。それなら一緒にいきましょう。友達も喜ぶわ」


 今日は美佐ちゃんだけでなく、百合ちゃんなど何人か招待したのだ。きっと八坂くんを連れて行けば喜ぶだろう。


 しばらくして、氷川くんと綱が迎えにやって来た。心配をしてくれたのだろう。

 四人で校門まで友達を迎えに行けば、周囲の視線が痛い。さっきまでのことがあるから余計に肩身が狭かった。

 

 美佐ちゃんたちは、突然現れたイケメンに戸惑うばかりだ。

 とりあえず紹介をする。


「こちら、氷川和親くんです。たまたま方向が一緒になったので」

「白山さんとは仲良くさせてもらっています。今日は芙蓉を楽しんでいってください」


 氷川くんが挨拶をする。


「こちらは八坂晏司くん。皆さんご存知ね?」

「姫奈ちゃんとは仲良しなんだ。よろしくね」


 八坂くんは、晏司くんスマイルで桜庭女子を悩殺すると、氷川くんと二人で去っていった。


「ちょ、ちょ、姫奈子ちゃんっ! 本物の晏司君っ!」


 百合ちゃんが顔を真っ赤にさせている。だから、お姉さまはどうした?

 美佐ちゃんも大興奮だ。


「氷川くんって、あの、氷川財閥の氷川様!?」

「ええ」

生徒会ベストなの!?」

「よくご存じね」

「知らないわけないでしょ!!」


 コワイ。芙蓉学院の生徒会となれば、桜庭学園にもその名が響くようだ。


「皆様、桜庭らしからぬ言動でしてよ?」


 コホン、と咳ばらいをすれば、みんなは顔を見合わせた。


「そうね」

「すこし取り乱しました」


 気まずそうに取り澄ます姿が可愛らしい。


「姫奈子ちゃん、お二人と仲が良いの?」

「そうね。お友達ね」


 尋ねられるままに答える。もう友達といってもいいだろう。


「晏司くんのオキニって姫奈子ちゃん?」

「違うわよ」


 百合ちゃんの質問には、即答する。晏司くんのオキニは桜庭でまで噂になっているのか。恐ろしい。


「違うの?」

「違います!」


 絶対そんな誤解だけは避けなければいけない。


「もうそんなことどうでもよろしいでしょ? 文化祭を楽しみましょう? 天文部で占いやってるの!」


 せっかく改めて天文部部員として頑張ったのだ。その成果を見て欲しい。

 そう言えば、桜庭のみんなは肩をすくめて、顔を見合わせた。

 こうして文化祭午後の部は、つつがなく終了した。


 当然というかなんというか、このトラブルの後では、私と恋愛占いをしてくれる男子だんすぃは現れなかった。

 それなのに、桜庭の女子たちを紹介して欲しいなんて話があって正直モヤモヤだ。

 ねぇ、神様。やっぱり、私、桜庭にいた方がモテたんじゃないの? あくまでも、ドS仕様のようですね? そうですね。



 後日、問題を起こした生徒たちは、両親とともに私の家へ謝罪に来た。お父様はむっつりと(これは通常運転ではあるが)、お母様は笑顔で謝罪を受け入れた。その恐ろしさと言ったら夢でまでうなされそうだ。

 

「子供同士のことですもの。こういうこともありますわ。子供の過ちと言える年齢で良かったですわね? 一歩間違えばお家の一大事でしたもの」


 お母様は、そうにこやかに微笑んだのだ。

 私はそれを聞いて硬直し、相手の子に至っては泣き出した。相手の親は泣く子を無理やりに謝らせるという、地獄である。


 その晩のお母様の言葉は強烈だった。


「自ら弱みを見せてくれるなんて、とっても素敵な()()()ね?」


 その厳しさで娘を躾けていれば、あなたの娘も過ちを起こさなかったと思うのに。

 親バカなの? バカ親なの? バカ親なのね?


「これで学院の先生方に相談やお礼という形で接待ができるわぁ」なんてにんまりと笑うお母様。どう転んでもチャンスをもぎ取る執念に、この人は敵にしたくないと思った。


 そして、大黒さんは謝罪に来なかった。ご両親から謝罪の品が送られてきたが、あからさまに形だけのものだとわかった。しかし、お父様もお母様もその件については何も言わなかった。

 

 





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