57.銀行へ行こう!
今日は芙蓉銀行へやって来た。綱に間に入ってもらって、桝さんに紹介してもらうことになったのだ。
応接室へと案内してくれる桝さんは、私と目を合わさないようにしている。綱は私と桝さんの間に入り、私をシッシと追い払った。
「桝さんの一メートル以内に近寄らないでくださいね」
「ちょっと、猛獣扱い!?」
綱のあんまりな言い方に詰めよれば、桝さんが驚いて震える。
「ほら、そういうところです」
グウの音も出ない。
「桝さん。大丈夫ですよ。姫奈はこれ以上桝さんに近寄りませんから。話しかけないようにも言い聞かせてありますからね」
「……はい……」
小さな小さな声で桝さんが返事した。
「姫奈、わかりましたか?」
「グウ」
駄々っ子に言い聞かせるような綱の物言いに、思わず反発してぐうの音が出る。
「わかりましたか? 桝さんから話しかけてくれるまで、姫奈からは声をかけないこと」
「はい……」
しょんぼりと答えれば、桝さんは怯えた顔で私を一瞥した。
つらい。
応接室では、桝さんのお父様が待っていた。
必要書類については、綱が桝さんに聞いておいてくれたので、手続きが終わるまで応接室で待つ。
仲良さげに話す私以外の芙蓉会。制服のポケットに蓮の蕾が光る。
私は指をくわえてそれを眺めていた。
私の何が悪いんだ。
確かに、綱みたいなシュッとした涼やかな顔じゃないし、声は大きくて落ち着きがないかもしれない。
だけどさ。なんで私だけ?
出されたお茶を飲みながら、落ち着きとは?という命題と一人戦っていた。
「難しい顔をしてどうしました?」
頭取が私を見て怪訝に尋ねる。
「桝さんに話しかけていただきたいんですけど、どうしたら良いかと考えていて」
答えた瞬間に、綱が溜息を吐く。
「淑子と?」
頭取は桝さんを見た。
桝さんは恐縮したように縮こまる。横髪がサッと落ちて、顔を隠した。
またやってしまった……。
「ひな……」
綱が呆れたようにため息をついた。
「だから、焦らないでって言ったでしょう?」
「はい。言われましたね」
拗ねたように答える。
だって、だって、私ばっかり、仲間外れなんて寂しいじゃない!!
「桝さんは気にしないでください。姫奈にはちゃんと言って聞かせます」
綱が桝さんに謝れば、桝さんは小さく頭を振った。
「わ、わたしが、悪いんです、ごめんなさい。治さないと。父にも何度も言われているのに」
「桝さんが謝ることはなにもないんですよ。治す必要もありません。思慮深いことは美徳ですし、穏やかな静けさを好む人もいます」
綱がキッパリと言い切った。
桝さんは安心したように頬を染める。頭取が満足したように微笑んだ。
なんかモヤっとする。なぜだかモヤっとする。
だって、だって、いつだって綱は私をバカにしてきたくせに。なんで、なんで、桝さんばっかりそんなに手放しで誉めたりするの?
ふーんだ、ふーんだ、どうせ悪いのは私ですよだ。短慮軽率でうるさくて悪かったわね。
「生駒君、だっけ? 淑子のことをよく見てくれてありがとう。引っ込み思案なところが心配だったが、美徳と思ってくれる友人ができてうれしいよ」
頭取が嬉しそうな顔をした。一人娘の桝さんが可愛くて仕方がないという顔だ。
桝さんが、顔をパッと明るくして頭取の顔を見る。
「な? 淑子?」
頭取の声に桝さんは、学校では見せたことがないほど嬉しそうな顔で頷いた。
「いいえ。桝さんの素晴らしさは皆さんご存知です」
綱が笑えば、桝さんは頬を押さえた。
「生駒くんにそう言われて……嬉しいわ……」
なんだこれ。初めての舅と婿の顔合わせみたいだな?
目の前で見せつけられるなんともいえないやり取りを、私は生温かい目で見守った。
なんやかんや無事に口座開設し、スマホでの操作方法を銀行員の方に教わった。
これで、いつでも運用できる準備が整った。頑張って勉強しよう。
まずは、大黒商会の株価をチェックだー!! おー!!
ついでに、氷川関連の株も覗こう。
私は没落する可能性があるから、しっかり資産運用しておかなければいけないのだ。
……白山関連株、見ておこうっと。







