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【6巻電子書籍&POD化7/25】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻②発売中
中等部二年

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54/290

54.避暑地でお茶会


 夏休みの前半には、早乙女さんの田んぼの見学に行った。田植えの一件で、お借りした洋服を返したりする中で、夏の田んぼを見においでと誘われたのだ。

 お礼を直接言いたいという両親と一緒に手土産の『白山海苔』をもって、彰仁と綱を連れて見学に伺った。早乙女さんは恐縮していて、逆に申し訳なかったくらいだった。


 私たちはお田植えでは見られなかった、カブトエビやホウネンエビを教えてもらった。彰仁は興奮して、今年の自由研究のテーマにしたほどだ。何やら卵を翌年孵化したいなんて、野望まで語っていた。綱と二人で相談している姿を見ると、夏の男の子は本当に健やかだと思う。


 その後の夏休みは、いつも通り別荘で過ごした。去年と同じように夏休みの宿題をこなしつつ、避暑地の休日を満喫している。私は相変わらず、夏のお嬢様とは程遠いファッションで、オニヤンマライフだ。


 もう良いのだ、オニヤンマで。夏のうちに絞っておかなければ、ぶくぶく太る秋冬がすぐにやってくる。エレナさまのコートの前が閉まらなくなっては洒落にならない。


 雨の日には修吾くんが遊びに来てスカッシュをする。

 修吾くんはジュニアの大会で優勝をしたそうで、夏休みの前半は海外でテニス留学をしていたらしい。光毅さま経由で、修吾くんの写真がたまに送られてきたりしていたので、活躍は知っていた。光毅さまも相当にブラコンだと思う。

 写真で知ってはいたけれど、直接会って嬉々としてその時の話をする修吾くんは、去年より大人びて見えた。小学生で海外留学なんてすごいじゃないか。きっと将来はテニスプレイヤーになるんだろう。

 

 たまに光毅さまが修吾くんのお迎えに来るようなこともあって、お話することもできた。大学卒業を見据えて、本格的にお仕事の勉強をしているらしい。ああ、大人の魅力である。カッコいい。


 幸せな夏休みだ。


 

 今日はリゾートホテルで桜庭の子たちとアフタヌーンティ女子会だった。近々行われるバレエコンサートに備えて桜庭の子たちが集まってきていたのだ。今年のバレエには美佐ちゃんが演目の方で役をもらった。端役ではあるがプロと一緒に舞台に立つのである。


 ブーゲンビリアのワンピースで、緑の豊かな中庭でお茶会を楽しむ。昔馴染みの女友達と、気安く楽しむお茶は楽しい。

 前世の私はこんな素敵な時間を失っておきながら、そのことに気が付きもしなかったのだ。残念なやつ。(自分だけど)


 女子会も佳境に入って来た頃、百合ちゃんが言った。


「お姉さまからお手紙が来なくて寂しいの……」


 百合ちゃんは、幼稚園から桜庭女子で一緒の同級生で、昨年ついに憧れのお姉さまの『妹』になったのだ。私や美佐ちゃんより小柄で、ふっくらとしたマシュマロのようなお嬢様だ。


 お姉さまのいるスクールライフはとても楽しい様子で、惚気る姿は羨ましくもあり、愛らしかった。

 しかし、夏休みに入り思うように会えなくなったことを憂いているらしい。


「私からもう一度お手紙書いても良いのかしら?」


 百合ちゃんは夏の間、お姉さまと文通をしているのだ。今時古風だと思ったが、桜庭学園内では手紙のやり取りをするのが普通だったから、その延長かもしれない。


「別に良いんじゃない?」


 気軽に答えれば、百合ちゃんは何もわかってないとでも言いたげに、溜め息をついた。


「重いと思われたら嫌だわ。しつこいと思われても嫌だし」

「そんなこと思わないわよ。百合ちゃんのこと、好きなんでしょ?」


 私が問えば、百合ちゃんは顔を赤く染めてから、少し物憂げな表情になった。


「そう言ってくれたけど、今も好きとはわからないわ。私に飽きたからお手紙くれないのかも。もっと好きな子ができたのかも知れないし……。本当に忙しかったなら迷惑でしょう?」


 ウンウンなんて、美佐ちゃんは訳知り顔で頷いているけれど、本当に乙女心わかってる?


 わかるーわかるーと盛り上がっている他の子たちを横目に、私はスコーンにはジャムだけにしようか、やっぱりクロテッドクリームも一緒に塗ろうか考えていた。


「姫奈ちゃんならどうする?」


 スコーンを半分に割っていたら、話を振られてビックリする。


 私ならしつこく思われようが、好きなのをアピールする。強引にアピールしまくる。相手の都合なんて知らない。周囲すら巻き込んで、断りにくくするまでだ。周りを囲んで追いつめて、相手が根負けするまで、押して押して押しまくる……のだが、それをやった結果が、見事な婚約解消だった。


 全く参考にならない。


「……うーん、ラインのホームに、百合ちゃんの楽しそうな様子をアップしてみたら?」

「どうして?」

「お姉さまがそれを見てるなら、何してるか気になるでしょ? そしたら連絡来るかもしれないわよ」

「嫌味じゃない?」

「わざわざメッセージを送れば嫌味かもしれないけど、ホームに写真をあげるだけなら大丈夫よ」

「そうかしら?」


 百合ちゃんは少し考えているみたいだった。


「だったら、今、写真を撮りましょうよ!」

 

 美佐ちゃんの提案で、ティースタンドと茶器の写真と、私たちの胸下だけが写る写真を撮った。

 真っ白いテーブルクロスの上に、真っ赤な紅茶と色とりどりのお菓子。夏草の爽やかな背景に、華やかなワンピース。百合ちゃんと美佐ちゃんが、お互いの手を使ってハートを作ったから、その奥に覗くホテルのガーデンの写真を撮る。百合ちゃんの手首には、お姉さまとお揃いだというシュシュが付けられているから、手だけでも誰だかわかるだろう。


 なかなかに、いい写真だ。


 百合ちゃんは早速それをホームに載せた。そして満足げにほほ笑む。


「連絡くるといいわね」


 美佐ちゃんが言えば、百合ちゃんは小さく頷いた。


「そう言えば、姫奈ちゃんは憧れの人とかいないの? 芙蓉にはお姉さまはいないのかしら?」


 百合ちゃんに尋ねられる。


「芙蓉では『姉妹シスター』みたいなのはないわね。勝手に憧れるくらいで、お手紙してる子もいないみたいだし。あ! でも! 私ね、エレナさまに会ったの!!」


 先日あったレセプションパーティーの話をする。桜庭の子たちにとって、エレナさまはそれほど有名ではない。中等部の私たちにすれば、エレナさまの活躍する雑誌は、海外雑誌の日本版で大人すぎることもあり、買っている人がそもそも少ないからだ。私が話題にするから、そういうモデルがいるのだと知ったくらいだ。

 だからかえって話しやすかった。


「もしかして、これ、姫奈ちゃん?」


 そう言って百合ちゃんが見せてくれた、某SNSの写真に顔が引きつる。最近噂の炎上芸女性タレントの背景に、今日着ているワンピース姿の私が映り込んでいた。


 ……まじか。


 ピンク色のルビーチョコレートファウンテンの前にいる八坂くんと、白い苺にたっぷり、これでもかとチョコレートをつけている卑しい私の姿だ。

 八坂くんの肩が私に被って、私の顔は映っていない。しかし、八坂くんは斜め後ろからだけれど、見る人が見ればわかりそうな程度で写っている。スタンプで隠すほどではないと言えば、隠すほどでもない。ギリギリなラインだ。


 しかも『いいね』が結構ついているではないか。


「会場内、撮影禁止だったはずなのに……」


 呆然としていれば、美佐ちゃんが笑った。


「あら、晏司くんと一緒だったのね?」

「……言わないで……」


 ズーンとして答えれば、美佐ちゃんがコロコロと笑う。さては楽しんでるな?


「えっ!? 晏司くん? モデルの?」


 百合ちゃんが食いついてくる。


「たまたま会場で会っただけよ」

「仲良いの?」

「去年クラスが一緒だったから、少し話しはするわ」

「カッコいい?」

「カッコいいわね」


 思いの外、百合ちゃんがグイグイ来る。お姉さまはどうした?


「モテるの?」

「モテるわね」

「どんな方?」

「雑誌で見る通りよ。みんなに優しい素敵な王子サマね」


 どうだ、八坂くん! 模範解答だろう? 営業妨害はしないぞ! 誉めて欲しい!!


「でも、これ、炎上しそうね」


 百合ちゃんがコメント欄を開いて言った。

 かわいいだとか、羨ましいだとかのコメントの間に、撮影禁止だったはずだとのコメントもチラホラついている。中には、「他のモデルさんに掲載許可とりましたか?」なんてものもある。

 八坂くんだとバレているのだ。


「怖いわね……」


 さすがに一般人の私が身バレすることはないが、大黒さんに知られたらと思うと顔がひきつってくる。


「わざと話題作りよね、きっと」

「さすがにブランドから苦情がいってるんじゃない?」


 百合ちゃんと美佐ちゃんが言う。


「大炎上になる前に削除してほしいわ……」


 キリキリと痛む胃を抱えて、溜め息を吐き出す。

 そして、このワンピースは、ほとぼりが冷めるまで着るのを控えようと思った。

 あああ、お気に入りだったのに……。




 結局、その写真はすぐに削除されることになった。やはりブランドから事務所に苦情があったようだ。関係者各位に謝罪する内容が、SNS上にアップされた。

 夏休みが開ける前に、終息したことで私はホッとした。大黒さんに絡まれなくて済む。


 ちなみに百合ちゃんの方は、無事お姉さまから連絡があったそうだ。

 良かった良かった。



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