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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@お飾り側妃は糸を引く7/5発売
中等部一年

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31.文化祭 1


 先日まではハロウィンだったのに、すっかり世間はクリスマス一色になって来た。

 芙蓉学院の中では、文化祭の気配で溢れかえっている。


 十月の体育祭は学内だけのお祭りだが、十二月の文化祭は土曜日に開催され、一般に開放される。

 クラス対抗の合唱コンクールと、校友会文化部の展示・発表が主な出し物だ。

 校友会は、一般的に言う部活動だ。自由に入ることができ、兼任も可能。この校友会の人脈は卒業後にも力を発揮するので、高等部になるとその辺を考慮して所属する外部生も多いという。

 現在、私はどこの校友会にも所属していない。

 

 実は、春に詩歌ちゃんが茶道部に誘ってくれたのだ。詩歌ちゃんの家は、華道の家元だから逆に華道部には入りにくいらしく、茶道部に入ると言っていた。茶道部では、着物の着付けから始まって、茶道をすると聞き、その時点で腰が引けるよね。

 まず、着物が着られない。そこから笑いものになることが確定している。恥かきたくないし、お点前なんて全然知らないし、絶対着物で失敗するし、ムリムリムリ、無理すぎる。

 明香ちゃんが誘ってくれたのはディベート部で、……まぁ、内容聞く前に頭痛くなったよね。そんなに頭良くないし、なんかマジめんどくさそう。


 だって、だってさ、校友会に入っている子は、みんな習い事などでそれなりに上手な子ばかりだし、その中に入って下手だと馬鹿にされるのはプライドが許さないのだ。 

 そんな馬鹿みたいなプライドを持て余して、結局どこにも入れずに来た。


 プライド高いってわかってるよ! 自分でも嫌になってるよ! だけど、どうすりゃいいのさ! そんなに簡単に人間なんか変われっこない!(逆切れ!)


 とりあえず、校友会に入らなくても罰は当たらないだろうと、希望的観測で今日までやってきたのだ。

 ば、罰が当たったら、考えよう……。そうしよう。



 そんなわけで、クラス合唱の練習が終わってから、私は校内をフラフラとしていた。ピアノの伴奏者がレッスンらしく、今日の練習は少し早めに終わったのだ。帰宅前に御不浄にでも……と教室から出てきたのだが、ウキウキとした空気に流されて、ちょっと他の教室を覗きながら戻ってきたところだ。


「遅かったですね」


 綱が相変わらず無表情だ。


「うん、ちょっと」

「またフラフラしてたんですか?」

「まぁ、そうね? 暇だし」


 相変わらず怒りんぼうで、幼馴染に怒られたからって気にするなんて意外に繊細ね、なんて淡島先輩を思い出して思わず笑ってしまった。


「なんですか?」


 見咎めるように綱が聞いてくる。


「なーんでも」


 話して面白い話でもなかった。

 綱はつまらなさそうに私を見たけれど、それ以上追及することもなかった。


「明日は芙蓉会なので遅くなります。姫奈は先に帰ってください」

「いいわよ、待ってるわ」


 たぶん私が先に帰れば、綱は一人でバスで帰ってくるだろう。現に私がバレエの日に、芙蓉会の仕事があるときなどはそうしている。

 なんだかそれは嫌だった。帰る時間を合わせれば、車で一緒に帰れるのだ。無駄な気がする。


「帰ってくださいと言っています」


 綱は不服そうにため息をついた。

 少し心外でムッとする。待っていてあげるのにその態度はないだろう。


「せっかく待っていてあげるって言ってるのに」

「頼んでいません」


 迷惑そうに反論された。


 確かにそうだけど。勝手に私がそっちの方がいいと思っているだけだけど、それにしたってそんな言い方ないだろう。


「校友会もないのに待っていても暇でしょう?」

「……そうだけど……だって、いいじゃない」


 口を尖らせれば、綱は大袈裟にため息をついた。


「よくありません。姫奈は直ぐフラフラするから心配です」

「お母さまじゃあるまいし」

「姫奈」


 綱が睨む。

 ムッとすれば、目の端に帰ろうとしている沼田さんが見えた。沼田さんは休み時間も文化祭の展示物を一人で黙々と作っている大人しい女の子だ。

 丁度いい。


「沼田さん!」


 声をかければ、ビクリと肩を震わせて振りかえる。


「は、はぃぃ?」


 動揺した声。そんなに私のこと苦手? 違うよね? 違うってことにしておこう。


「文化祭の展示の準備、明日お手伝いさせてくださらない?」


 できるだけフレンドリーにニッコリと笑いかける。怖がらせないように、恐がらせないように。


「……姫奈……迷惑ですよ」


 綱が小さな声で咎めるが、無視をする。私は自分のやりたいようにやる。


「……は、あ、あの?」

「休み時間も使って準備されてますよね? 忙しいのではないかしら?」

「え、ええ」

「ご迷惑かしら?」


 にっこり笑う。


「いえ! そんな! あの、て、天文に興味があるんですか?」


 沼田さんは珍しく顔を上げて私を見た。


 天文には全く興味はない。みじんも。だけど。


「天文には詳しくないんですけど、沼田さんがやってる作業が楽しそうだなって思って」


 そう答えれば、沼田さんは少しガッカリしたような顔になった。


「あの、私、天文部で展示の準備が少し遅れていて……そのもしお手伝いいただけるなら」

「ええ! 手伝うわ!」


 私は即答した。天文にはまーったく興味がないけれど、用事ができるなら好都合だ。これなら綱だって文句は言うまい!


「え、良いんですか?」

「もちろん!」


 それに、沼田さんとも話をしてみたかったのだ。


 綱は小さく、強引と呟いた。

 ふーんだ、知らないもん。




 今日は沼田さんと天文部にやって来た。

 理科室の隣の教室が天文部の部室らしい。近くには生物部や科学部の部室が並んでいる。そんな校友会があったんだと今頃知った。正直文化部は地味で普段何しているのかわからないのだ。だからこそ、発表の機会を設けているのだろう。


 小さい教室の中は静かだった。皆集中して机に向かっている。静かに顔を上げたのは部長なのだろうか。黒い縁の眼鏡をかけた、色白で細長いひ弱そうな男子だ。


 まるで、沼田さんの男子版……。


 教室の中を見てみれば、男子が圧倒的に多く、そしてみんな地味。悪いけど地味。


「沼田さんその子は?」


 小さな声で問われる。


「クラスメイトの白山さんです。今日はお手伝いに来てくれました」


 沼田さんも小さな声で答える。


「……よ、よろしくおねがいします……?」


 私もつられて小さな声であいさつした。なんだかいつもの調子だと、教室の窓にヒビでも入ってしまいそうだ。


「よろしくおねがいします。部長の諸星です」


 静かにそう挨拶し、そっと去っていく。

 沼田さんは教室の後ろの角に私を案内し、机を向かい合わせに並べ直した。


「あ、あの、白山さんは、こ、こちらに」


 言われるままに席につけば、その前に黒い紙を広げられた。その黒い紙には白い線で渦巻きのような模様が描かれていた。

 不思議に思ってみていると、その隣に同じ形をしたカラー写真が並べられた。


「これって銀河!? すっごく綺麗!!」


 とても綺麗で思わず声を上げたら、教室中に響いてみんなが顔を上げてこちらを見た。

 思わず頭を下げる。


「かみのけ座の渦巻銀河『NGC4565』です」


 即答される沼田さんの言葉に、思わず、は?と言いそうになったが、口を噤んだ。私と話すときは別人のようにスラスラと話す。


「天の川を横から見たらこんなふうに見えるのでは? といわれています」

「え? いつもはどこから見てるの?」

「私たちは天の川銀河の中にいるんです」

「天の川の中……」


 壮大な話でビックリする。


「私たちは天の川の泡みたいなもの?」


 そう言えば沼田さんは小さく噴き出した。


「そうですね」


 とても柔らかく笑って、キュンとした。この子、こんなふうに笑うんだ。

 教室ではいつも顔をこわばらせていたから気が付かなかった。


「それで、どうすればいいのかしら?」

「写真を見ながらこの白い線にあわせて、針で穴をあけてください」

「……は?」


 今回は思わず声が出た。教室では紙をなぞっているだけに見えたから楽勝だと思ったのだ。


「黒い紙に針の光で星を作るんです」


 そう言って沼田さんは立ち上がり、持っていた黒い紙を窓に押し当てた。裏側にセロハンの張られたそれは、窓の光を通してキラキラと光る。

 中心には赤、外側には緑の星が光っている。


「わぁぁぁ! 宝石みたい!! 」


 また思わず声を上げたら、みんなの視線が集まって、身を縮める。


「みずがめ座の惑星状星雲、『らせん星雲NGC7293』です。「神の目」なんて言われたりするんですよ」


 こんな神秘的な目で見ていたら、私の悪行などお見通しに違いない。


「そう言われたら納得するわ」

「わ、私が作ったんです……」


 沼田さんがそう付け加え、顔を赤くして俯いた。


「本当に!? これを? 一人で??」

「はい」

「すごい、素敵!」


 この黒い紙に根気よく穴をあけていけば、あんなに素敵なものができるのだ。ちょっと気が遠くなりそうだけれど、半面おもしろそうだと思う。


 判断に困るところは沼田さんに聞きながら針で穴をあけていく。静かになった教室に納得した。みんな集中しているのだ。

 私は針を借りて黙々と黒い紙に穴をあけ始めた。


 大きな光は深く刺して穴を広げて、小さな穴はその反対。ただの黒い紙に光の粒が現れる。


 ドヴォルザークの家路が流れて、ハッとする。もう帰宅時間になったらしい。

 

 慌てて顔をあげれば、沼田さんが微笑んでいた。初めてしっかりと目があって思わず恥ずかしくなって、うつむいた。


「凄く集中してましたね」

「ええ、自分でもびっくり」

「生駒くん、迎えに来てますよ」


 ドアを指さされて、ぎくりとする。待たせたのだろうか? また怒られるかもしれない。

 そろそろとドアを伺い見れば、無表情の綱がいた。でも、怒っている様子はなくて安心する。


 沼田さんと机の上を片付けて、帰り支度を整えた。


「またお手伝いに来てもいいかしら?」

「もちろんです!」





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