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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
高等部三年

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283/289

283.救われたのは私でした


 そうして、二年。


 今日、綱が日本に帰ってくる。

 宣言通り、大学をスキップし、二年で資格もすべて取った上での堂々たる凱旋である。

 梅雨の合間の晴れの日で、少し蒸し暑い。


 綱と言えば、三峯くんとグルになって企業買収などのコンサルタントを立ち上げて、経済界で三駒ファンドなんて呼ばれるようになってしまった。淡島先輩が絶対バックについていると思う。大学病院や、政治関係者からどうやら結構な資金を得ているようだ。

 三駒ファンドは芙蓉銀行も無視できない存在になってきたらしく、帰国後の綱のアポイントメントを桝頭取が私のお父様に申し入れて来た。今度、桝家、白山家、生駒家で食事会をすることになった。

 桝さんとは京都の食べ物を教えてもらう仲になっていて、会えば一応嫌そうな顔をするけれど、本気ではない、たぶん、多分大丈夫。

 

 そして私も光毅さんから綱に顔をつないでほしいと言われた。

 我が白山フードサービスも人ごとではないらしい。たまに、お父様と生駒が悔しそうに、また嬉しそうに三駒ファンドの悪口を言っている。


 私も白山茶房を乗っ取られないか戦々恐々としているが悟られてはならない。


 私は大きく息を吸い込んだ。

 本当は空港に迎えに行きたかったのだが、綱からきちんと挨拶に行きたいと言われ、白山家で待つことになっているのだ。

 自分の中で一番お気に入りの服を着て、シェアハウスからやってきた。久々に帰ってきた自宅をうろうろして、時間を潰していれば彰仁からゴミを見るような目で見られた。


 だって、ほら、挨拶って、挨拶ってあれでしょ? あれでしょ? お付き合いしてもいいですかって、きゃー!! 綱の、綱の口から聞くのよ! きゃー!!


 そんなわけで私は朝から気もそぞろだ。というか、緊張で胃が口から飛び出そうだ。リビングをのぞいてみれば、お父様もお母様も落ち着かない感じで、さらに緊張が募る、リビングには入れずに、自分の部屋に引き返す。気を紛らわせるためにお菓子でも作ろうかと考えたが、そんな時間はない。自室の引き出しを開けたり閉めたりしていれば、コンコンコンと部屋のドアがたたかれた。


「お嬢様、……来ました」


 ドアを開ければ気まずそうな生駒がいた。さらに緊張が募っていく。


「今行くわ」


 ちょこっとよろけながらドアを閉める。

 よたよたと玄関まで降りていく後ろを生駒がついてくる。

 そして、息をのむ。


 スーツ姿で逆光の中、佇む綱。


 飛び出して、その胸に飛び込んでしまいたいと、膝がヒョコンとはねようとする。

 それを慌てて必死で押さえ、チラリと背中の生駒を振り返れば、生駒もまぶそうな顔をして自分の息子を見つめていた。


「お久しぶりです」

「大きくなったわね」

「ああ。見ないうちに大きくなった」


 綱とお母様、お父様が一言二言言葉を交わし、応接間へ移動する。

 私は何も言えなくて、それについて行くしかできない。

 応接間の上座には、お父様とお母様と私。対面するように生駒と綱が座る。

 生駒はすでにまな板の上の鯉のような顔をしている。


「今日は、姫奈子さんとのお付き合いにお許しをいただきに来ました」


 綱が言って、深く深く頭を下げた。


「約束通りだな。だが、まさかこんなに早くとは」


 お父様が唸る。

 私はハラハラと様子を窺う。


「……まだ、お許しいただけないでしょうか?」


 綱は頭を下げたままだ。


「ダメよ」


 お母様が言った。私は思わずカッとなる。


「なんで? 綱は全部条件をクリアしたわ! 私が足りなかったの? 私が」

「今更、お付き合いなんてダメよ。婚約でしょ? 結婚でも良いわ」


 お母様が突然そう言って、綱が顔を上げ、私は言葉を失い、生駒はポカーンとする。

 お父様があきれたようにため息をついた。


「葛城さんも去年結婚したわ。お相手は三駒ファンドの三峯くんでしょう? 葛城家は見る目があると話題よ。それなら、姫奈子だって同じでしょう?」


 お母様は明香ちゃんと私を張り合わせるつもりらしい。


 明香ちゃんと三峯くんは大学一年で学生結婚してしまったのだ。あの、紫ちゃんより早くである!

 この二人の結婚は、芙蓉会界隈で一大センセーションを巻き起こした。古式ゆかしき良家のお嬢様がベンチャー企業の息子と結婚というだけでも、ヒソヒソと陰口をたたく古い世代の方々もいた。しかも学生結婚である。不謹慎だの、軽率だの、成り上がりにだまされて妊娠したんだろうだとか、口さがない噂も立った。

 しかし、芙蓉歴代きっての才女と呼ばれる明香ちゃんと、三駒ファンドの三峯くんが、おめでた婚ではなく、後ろ暗さを一切感じさせない堂々とした結婚式を開き、噂を一掃してしまった。何しろ二人とも実績はあるし、結婚式のスピーチの堂々さたるや若気の至りといえるものではなかったからだ。葛城家がバックアップを惜しまない姿勢を結婚式で見せたことで、誰も何も言えなくなってしまった。二人らしい力業だ。

 まぁ、裏を知っている私としては、明香ちゃんの計画の実行力に感心したのだが、思わぬ形で援護である。


「奥様! それはいかがかと! 綱守と三峯くんは違います」


 生駒が我に返る。


「あら? 何が違うの? 三駒ファンドは三峯くんと綱守くんでしょ? 同じじゃない。三峯くんができて、綱守くんができないことなんてないわ! それに綱守くんの方がすごいわ! 留学して卒業して資格も取って! 綱守くんの方がすごいのよ!」


 ちがった、お母様は綱が三峯くんに負けるのが嫌らしい。


「それに、葛城家が許したことを許さないなんて、私、そんなに考え方が古いと思われたくないわ」


 なぜかふんぞりがえり気味のお母様である。どうやら、自分が葛城家と張り合っているようだ。

 お母様の言い分に私はあきれかえって言葉もない。

 全力で反対したのはお母様だったはずだ。


 チラリとお父様をうかがい見る。お父様は苦笑いをしていた。


「まぁ、そういうことだ。好きになさい」


 私はバンとテーブルに手をついて立ち上がった。

 ぐるりとテーブルを迂回して、綱の首に抱きつく。


「やった! つな! やったわ!」

「はい」


 綱は私の腕を優しくさすって小さく笑った。


「綱守」


 お父様の声に応接室が静かになる。


「おまえの人生だ。忘れるな。好きにしていいと言ったのは『綱守の好きに生きろ』という意味だ。おまえを姫奈子の好きにさせるつもりはない。姫奈子を選ぶのはかまわないが、白山を選ぶ必要はないんだぞ。おまえは自力で未来を選べる力を持ったのだから」

「……旦那様。ありがとうございます」


 綱は私の腕を両手でぎゅっとつかんで頭を下げた。

 その頭をお父様が軽くなでる。


「さぁ、どうしましょう? 楽しみね! お祝いは日を改めましょうね? 綱守くんも帰ってきたばかりで疲れてるでしょ? でも、桝頭取に会う前にしたいわね。桝頭取、綱守くんのこととっても気に入っているようだから」


 お母様が焦っていたのは、桝さん一家を警戒してのことなのだろうか。

 

「離れはあの頃のままになってるのよ? いつ戻ってきても良いわ。そうよ、姫奈子ちゃんも帰ってきたら? そうしたらまたみんなで暮らせるわ! そうよ!」


 お母様の勢いに綱もあっけにとられている。


 私はぎゅっと綱を抱き込んで、フンとお母様に向かって鼻を鳴らす。


「嫌よ。もう子供じゃないんだから! 白山には戻らないわ。次に暮らす家は綱と二人で決めるのよ! ね? 綱?」


 後ろから抱き込んだまま、綱の顔をのぞき込めば、綱は顔を真っ赤にして唇を震わせている。目尻がちょっと赤くなり、まつげが小さく震えている。


 あ、やっぱり食べちゃいたい。


 何も言わないことを良いことに、さらにムギュッと綱を抱きしめる。やっと手に入れたのだ。もう絶対離したくない。


「……お嬢様、すこし……離してやってくれませんか……」


 生駒が隣で気まずそうな顔をして私を見て、綱は無言で頷いた。


「お嬢さまなんて、他人行儀はもうやめて。義父おとう様!」


 ガタンとお父様が立ち上がり、生駒はオロオロとお父様に手を振っている。


「あの! いえ、旦那様!」

「……そうか……。おまえも姫奈子と呼ぶのか」

「いえ、旦那様! そんなことは断じて! お嬢様もなんてことを……!」


 綱が私の腕の中で、クスクス笑っているのがわかる。

 生駒はいっぱい反対したから、ちょっとだけ意地悪だ。


「綱とお稲荷様に報告してきます!」


 私はワタワタする大人たちに手を振って、綱を引っ張ってお稲荷様へ向かっていく。

 私が家を出た今は彰仁がお稲荷様の管理をしているのだ。


 お稲荷様の前には、赤い包み紙で包まれただるまの最中が二つ置いてある。

 生意気にも彰仁が今日のためにお祝いのお菓子を供えてくれたのだろう。

 お稲荷様に綱の帰国を報告し、最中をとる。

 小さい頃と同じように、一つを綱に渡して、お稲荷様のそばにある少ししっとりした石に腰掛ける。


「久しぶりですね」


 感慨深げに綱が言って、離れの屋根をまぶしげに見る。


「ほら早く、彰仁に見つかる前に食べないと」


 私はそう言って、包み紙を剥いていそいそと口に頬張る。

 綱はお稲荷様に丁寧にお辞儀をし、いただきますと言った。カサカサと赤い和紙が音を立て、最中の皮がパリリとなる。


「いっつも二人はずるいんだよ。むかっしっから!」


 彰仁が顔を出して、ちょっとむくれてそういった。


「すみません。彰仁様!」


 綱が慌てて頭を下げて、彰仁が笑う。


「冗談だよ、綱……。じゃなくて、兄貴?」


 コテンと首をかしげる彰仁に、綱は顔を真っ赤にして言葉を失う。


 やだ、私にもそんな顔しなくない? あっくんにだけずるくない?


 私はちょっとむっとする。


「あっくん、お兄様でしょう?」

「うるせー、姫奈子!」

「私はお姉様なんですからね! お姉様!」

「だから、おまえ、うるせーよっ!!」


 ワイワイと騒いでいる私の視線のその端に、今日も変わりないお稲荷様。

 そのお稲荷様の後ろ側。

 するりと見えた白い狐のふわふわな尻尾。

 小さくバイバイをするように、左右に振れて消えていった。



                                 おしまい


『神様のドS!!』本編は完結となります。

長い間お付き合いありがとうございました。

コメントやブクマ、レビューとても嬉しかったです。

応援がなければ書ききれなかったと思います。

番外編も書く予定ですので、ブクマ&通知設定していただければ嬉しいです。

そして、また覗いてやってください!


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