263.高等部三年 クリスマスパーティー 1
迎えたクリスマスパーティー当日、彰仁は綱とおそろいで上機嫌だ。二人は無難なブラックスーツで、形と生地が微妙に違う。まるで兄弟のようだ。
私は結局おそろいのものは持てなくて、ちょっぴり不満だが仕方がない。
会場に入れば、お母様の計算通り注目が集まった。お母様は穏やかに微笑んで見せてはいるけれど、内心ドヤ顔に違いない。
「天使が舞い降りたかと思ったら姫奈ちゃんだった!」
相変わらずの八坂くん登場である。
「ありがとうございます」
今日は八坂くんの軽口にも素直に答えられる。
試着したとき、綱の反応が良かったから今日の自分はちょっとカワイイかもしれないなんて自惚れているのだ。
お父様とお母様は、八坂くんと軽く挨拶を交わし先に挨拶へ向かっていった。
八坂君はシルバーグレーのタキシードで相変わらず目立っている。こういう派手なタキシードでも当然のように着こなしてしまうモデル力がすごい。
「そのドレス誰が選んだの?」
「私です! 素敵でしょう?」
自信満々に答えれば、なぜか八坂くんが嬉しそうにくしゃりと笑った。
「? 何ですか?」
「それね、僕がデザインしたんだよ。姫奈ちゃん思い浮かべて。ほら、瞳と同じきれいなグレーでしょ?」
「そうだったんですか!? 知らなかったわ。八坂くんてこういうこと本当に得意ですよね」
「僕を選んでくれてありがとう」
八坂くんがにっこり笑えば、綱が不機嫌そうにつぶやいた。
「八坂くんを選んだわけではないですよ。選んだのはドレスです」
そのつっけんどんな物言いに、綱の嫉妬を感じ取って思わず笑ってしまう。
八坂くんがそんな私を、ちょっと戸惑った風に見た。
理由がわからずキョトンとすれば、八坂くんが小さく笑う。
「姫奈ちゃん、かわいいね」
八坂くんが言って笑ってしまう。
「ほめてくれるのうれしいわ」
「うん、やっぱり、良い感じになった。自分のこと卑下しなくなったの、すごく良いと思うよ」
八坂くんの指摘に思わず顔を押さえる。
私はそんなに自分を卑下していた?
「自信つくようなことあった?」
八坂くんの言葉に気が付いた。
綱が私に自信をくれた。好きな人に好きだと言われて、こんな自分でも大丈夫なんだって。
「うん!」
「そっか、よかったね」
そう笑って、綱を流し見る。
「和親には挨拶に行った?」
「今からよ」
「じゃ、僕も一緒に行く」
四人で連れ立って氷川君のもとへ行く。
途中光毅さまに会って挨拶をする。今年のパーティーに修吾くんは欠席で、今年は特に営業もない。
八坂くんのドレス関係で時折声を掛けられる。そのたびに、八坂くんはドレスをほめられたことにドヤ顔し、なぜか綱が表情を消していく。感情の抜け落ちた顔は、仕事中の生駒によく似て格好いいと思うけれど、けれど非常に怖い。
ようやく氷川くんにたどり着き挨拶をすると、氷川くんのお母様は完璧すぎるほどのにこやかな顔を私たちに向けた。
氷川くんはちょっと不機嫌そうに八坂くんを軽く睨む。
「姫奈子さんとナイトたちって感じね」
「そうですか? 僕は新郎新婦な気分です。ほら、僕だけ色が似てるし」
八坂くんがシレっと冗談を言えば、「あんじ」と氷川くんが窘める。
「どうせ、晏司がドレスを贈りつけたんだろう」
「いいえー。姫奈ちゃんが数あるドレスの中から僕を選んでくれましたー」
八坂くんが子供っぽく主張するからおかしい。
「姫奈子さん本当か?」
「ええ。私、八坂くんのデザインだって知らなかったんです。でも、このドレス素敵ですよね」
正直に答える。
氷川くんは一瞬息をのんで、口をつぐんだ。そしてモゴモゴと答える。
「あ……うん。よく、似合っている……」
ちょっと不服そうに言うから笑ってしまった。
「無理しなくていいですよ?」
「いや! かわいい!!」
バッと顔をあげて否定する氷川くんに、氷川くんのお母様が小さく笑った。
「和親、挨拶はもういいわ。姫奈子さんにホテルを案内なさい」
氷川くんのお母様の言葉に既視感を感じる。
昔もそんなこと言われなかったっけ? その時は氷川くんが断ったはず。きっと今回も断るだろう。
そう思ったのに。
「ああ。わかった」
氷川くんが即断でそう答え、八坂くんや綱を見て告げる。
「では、姫奈子さんを連れていく」
「私も一緒に行きます」
綱が答えれば、氷川くんはかぶりを振った。
「生駒は邪魔だ」
即物的とも思える言葉に私がちょっとギョッとする。
「あの、でも、ご迷惑になると……」
言いかければ、氷川くんのお母様がにっこりと笑った。
「姫奈子さんは白山茶房の経営をまかされているんでしょ? ゆくゆくはもっと大きなお店を動かすことになるわ。きっと将来の参考になると思うのよ」
その申し出は正直とてもありがたい。白山家ではホテル内でのレストラン運営はしているが、ホテル経営はしていないのだ。しかもここは日本でも有数の由緒あるホテルである。後学のためにも見学しておいて損はないと思う。
しかし、まるで何かを予言するような口ぶりで、ありがたいがゾッとする。
「行くぞ」
氷川くんがぶっきらぼうに言った。氷川くんのお母様から言われたことだ。氷川くんも従わなければならないのだろう。
「せっかくだから、ちょっと見せていただくわ」
主催者の心使いを無下にもできない。綱と彰仁にそう告げて、私はオズオズとついていくことにした。







