262.高等部三年 クリスマスの準備です
今年の選挙も無事終えて、五木くんが生徒会長になった。
そして、彰仁も庶務に指名された。
姉弟そろって高等部の生徒会執行部となることができて、お母さまはご機嫌である。
彰仁もまんざらでもなさそうだ。
だが、私が学院で話しかけようとすると前にもましてイヤーな顔をする。あからさまにシッシと手を振って邪険に扱うのはいつものことだが、今までより当りがきつい。
さやちゃんにボヤけば、「姉のおこぼれは嫌、なんでしょ?」なんて笑う。
暴言を吐きまくっていた前世に比べれば可愛いものなので、ムカつきつつも大目に見ている。
さて、今年も招待状がやってきました。氷川家主催のクリスマスパーティーである。
お母さまは、私と彰仁、綱を集めてパーティーの打ち合わせだなんて言っている。明らかに今まで以上に浮かれている。家に外商まで待機させ、ハンガーラックには色とりどりのドレスが掛けられていた。
「彰仁もベストになったことだし、綱守くんも姫奈子もベストでしょ? こんな素敵なことないわ!! 今年は三人で何かお揃いにしましょ!」
ようは、白山家からベストを三人出している、そうパーティーで誇示したいわけだ。
私はお母さまの企みにウンザリして、彰仁と綱を見る。綱はほほ笑みを湛えたまま、彰仁はヤレヤレといった顔だ。
だが二人とも異を唱えない。私も異を唱えない。
お母さまの魂胆はともかくも、綱と正々堂々お揃いがもてるなんて嬉しすぎる。
「まずは姫奈子のドレスを決めてしまいましょう? それに合わせてドレスシャツとか、ネクタイとか? そうねぇ、カラーチェーンもいいわよね」
ニコニコ笑顔の外商がハンガーラックのドレスを紹介していく。
可愛らしい黄色いドレス、クリスマスらしい赤いもの、プリントのにぎやかなもの。
昨年のエレナ様は、細身パンツのスリーピースにピンヒールで大人っぽく、凛々しかったことを思い出す。
さすがに私には無理よね……。
そう思いながらハンガーラックを眺めていく。
光沢のあるグレーの生地にシワ加工の施されたワンピースである。オープンショルダーで胸のあたりはケープのようにアシンメトリーのレース素材で包まれている。そのレースがまるで鳥の翼に抱かれているようなデザインなのだ。ウエスト部分は羽衣のような長いシルバーのリボンで締められ、スカート部分にはウエストからふくらはぎまでシフォン生地が被せてある。そのシフォン生地には胸の翼のレースから抜け落ちたかのように小さな羽根が舞っていた。
「これ!! かわいい!」
「とてもお似合いだと思います」
外商が間髪入れずにそう言った。
「まずは着てごらんなさい」
お母様に促され、隣の部屋で着替える。みんなの待つ部屋に戻れば、綱が何も言わずに目を細めて笑って、胸がキュンとする。
「まぁまぁじゃねーの」
彰仁がぶっきらぼうに言えば、「似合っているわよ」とお母様が言う。
「これに決めるわ!」
気分よく即決すると、外商がジュエリーの詰まったアタッシュケースを広げた。
中にはカフスやネクタイピン、ブローチやネックレスなど様々なアイテムが入っていた。クリスマスパーティーということで、クリスマスモチーフが多い。お母様がリクエストしてあったのだろう。男女でそろえることを前提に用意されている。
「グレーのネクタイとチーフにするとして、羽根のモチーフのアイテムはある?」
お母様の言葉に外商は嬉々としてアイテムを出してくる。男子二人はあまり興味がないのだろう、遠目にそれを見ている。
「お嬢様のヘッドドレスにこちらを使って、羽根のコサージュなども華やかでよろしいのでは?」
そう言って広げられたヘッドドレスは、クリスマスのオーナメントのようなものがついたものに、本物の羽根を山盛りに盛ったド派手なものだった。羽根のコサージュは、それよりは幾分ましだがそれなりに派手で、綱はあいまいに笑い、彰仁はあからさまにゲェといった。
「他はない?」
彰仁が言う。お母様と外商に任せていられないと思ったのだろう。
「ラペルピンもございますし、ネクタイピンもございますよ。お坊ちゃま。珍しいものでは、カラーチップなどはいかがでしょうか?」
彰仁がアイテムの一つを手に取った。そして、綱に見せる。
「俺、これがいいな。綱は?」
「私も素敵だと思います」
綱が強い同意を示すように頷く。
彰仁が手に取ったのは銀色のカラーチップだった。
襟の先にはめ込むタイプで、二枚の翼が襟の先をV字に彩っている。シックで上品なものだ。
「これじゃあ目立たないわねぇ」
お母様は不満げだ。
「でしたら、シャツの襟だけ黒に切り替えたらいかがでしょう? シルバーがよく映えると思います」
外商の言葉にお母様が思案気な顔をした。
彰仁と綱がハラハラとした顔で様子をうかがっている。
「お母様、ヘッドドレスはさすがにやりすぎじゃないかしら? ドレスが霞んじゃうわ」
「あらそう?」
「これならカラーチップとテイストが似ているし、私はこっちがいいな」
シルバーの羽根が三枚重なっている根元に真珠がぶら下がっているタイプのヘアアクセサリーだ。緩やかに上向きにカーブを描いているので今にも飛び立とうとする翼のようにも見える。
外商が耳の上に添えてくれる。
「このような位置につけられたら羽ばたいているよう見えます」
お母様はしばし考えた。
「そうね。じゃ、そのカラーチップに合う黒い襟のシャツを仕立ててくれる? あとはシルバーの布でネクタイとチーフ。スーツは二人のサイズを測りながら、好みを聞いてちょうだい。男の子はすぐに大きくなるから」
「奥様、さすがにそこまでは!」
綱が顔を青ざめさせる。
「あら、綱守くん、これはね広報も兼ねているの。お店のスタッフがテレビに出る際にきれいな制服を用意するのと一緒よ。生駒にも言ってあります。子供が心配しないのよ」
彰仁が目配せで「あきらめろ」と合図を送る。私も同じく「あきらめろ」と目配せする。綱は恐縮した様子で、お母様に頭を下げ礼を言った。
お母様は満足げに頷いた。







