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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@完全無欠の悪女です2月下旬発売
高等部三年

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255/289

255.すきっぷ


 勝手に顔が緩んで仕方がない。

 我慢しなければ、グフグフと声に出してしまいそうなくらいだ。鼻歌だってかってに漏れるし、足の裏なんて地面についてない。

 

 朝、目が覚めるだけで嬉しい。


 だって、綱に会えるから。

 だって、綱が好きだから。

 だって、綱が私を好きだから!!

 信じられない嘘みたい。もうもう生きてるって最高だ。


 ご機嫌で朝食へ向かえば、すでに綱が座っている。

 それだけで嬉しくて笑いかければ、彰仁が汚物でも見るような顔で私を見た。


「気味悪いな、オマエ」


 綱は無表情で頷いて彰仁に同意を示す。


 嘘でしょ? 信じられない! 私のこと好きなんでしょ!?


「シャンとなさってください。お嬢様」


 冷たく綱に突き放されて、ムッとしながら席につく。

  

 両手を合わせて、いただきます。白山家の朝ご飯はいつだって美味しい。




 電車を降りて学院への道を綱をチラチラと見ながら歩く。

 彰仁は友達グループとだいぶ前を歩いている。


 だって、ほら、付き合ってる子たちって手を繋いでたりするじゃない?

 だから、ほら、ちょっとくらい。


 チラリと綱を見れば、綱は長ーく長ーくため息をついた。


 そしてまっすぐ前を向きながら独り言のように言う。


「あなたはわかってないんですか。バレたらいけないんですよ?」


 綱に言われてギクリとする。


「……わ、わかってるわよ」

「だったら気を付けてください」


 ツンと言われてがっかりする。

 だってこれじゃ以前と何も変わりがないではないか。


 ちぇーっと思いつつ学院に向かって歩いて行く。そんな不満を抱えながらも、通学路はキラキラに見えるから、恋って素晴らしいと思う。


・・・・・・


 ガタゴトと電車が揺れている。気持ちが通じ合ってから、何度目かの塾へいく電車の中だ。

 車窓越しに夕焼けが綱の横顔を撫でていく。

 塾へ行くこの時は綱と二人でゆっくりとできる数少ない時間だ。

 制服から私服に着替え、二人で横並びに座る。


 私服だから周りの目はあまり気にならない。ただ、塾帰りに変な人に絡まれたくないから地味な格好をしているので、それがちょっと残念だ。せっかく綱と二人だから、もっとかわいい格好がしたい。少しでもいいから可愛いと思われたい。


 チラチラと横目で綱をうかがう。

 もう何度もタイミングをうかがっているのだ。でも結局勇気が出ずに今日まで来た。

 今日だって、もう塾まで残り二駅。

 もう、塾についてしまう。


 綱の右手は膝のカバンを押さえて、左手は無造作に座席の上に置かれてる。

 家からは何駅も離れた。

 学校からも離れている。

 私たちを知っている人はもういない。

 だから、今がチャンス、なのだけど。



 そっと息を凝らして、綱の左手の小指に私の右手の小指で触れた。触れたか触れないかわからないくらい、そっと。

 偶然のふりをして。でも、そうでもなければ触れられないから。

 

 綱は今まで平然と手を差し出してくれたけど、何にも感じてなかったのかしら?

 

 スルリ、綱の小指が私から逃れる。

 やっぱり、と思いつつ、ちょっとガッカリしてしまう。

 家では仲良くできないし、学院だってそうだ。

 だから、二人きりの時ぐらい、そう思ってしまうのは私だけ。


 逃げたはずの綱の小指が、薬指と小指の間に挟まる。そこからクルリと小指を搦めとるから、ヒュンと心臓が跳ねた。

 耳まで火照る。恥ずかしい。

 私が綱に触れるのはいいけれど、触れられるのは恥ずかしいのだ。

 でも、何と言って良いかわからずに、恐る恐る綱を見る。


 綱は私を見て笑った。

 車窓から伸びた影が、ゼブラになって綱の顔を浚う。

 夕焼け色と、黒い影。なぜか滲んで見えてくる。


「なんで泣きそうな顔してるんです? あなたが望んだことでしょう?」


 もう息なんて忘れてしまう。俯いて顔を隠す。


「違いましたか?」


 綱の小指が緩まるから、逃さないようにと小指に力を籠める。

 フルフルと頭を振って、ようやっと息を吐き出す。


「……違わない、けど」

 

 私、泣きそうな顔してるの? 


 私の精一杯の答えに、綱が体を強張らせる。


「指を、離して」


 綱の答えに本当に泣きたくなって、力なく綱の小指を開放する。

 綱のカバンが二人の間に押し込まれた。

 

 そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。


 そう思った瞬間に、右手の上に綱の左手が乗った。


「私の方が欲深いんです」


 指と指の間に、温かい綱の指。

 鞄の陰に隠れて結ばれた指と指。私が望んだものよりも、ずっと深く絡まる指。

 

「私の望みを叶えてください」


 綱が照れたように微笑んで、私は小さく頷いた。 

 



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