247.高等部三年 夏のガーデンパーティー
今日は別荘でガーデンパーティーだ。
夏休みの終わりの集大成として、彰仁と二人で友人たちを招待することにしたのだ。
庭に作った石窯でピザを焼き、燻製をその場で作る、お嬢様方には珍しい野性味あふれるパーティーをすることにした。ただし食べやすいようにメニューは考えて、もりつけ方にも工夫することにした。
八坂くんと一緒に行ったワイナリーで見たように、クリアなボールに氷水を張ってブドウの粒をたくさん浮かべた。金魚すくいのポイを使って掬ってもらう。大きな金盥に造花を凍らせたフラワーアイスを入れて、ラムネの瓶も一緒に詰める。
ハンモックを吊るしたり、ターフを飾りたてて日陰を作ったり、スプリンクラーも回して涼しくする。
夏祭りをイメージして屋台風にし、綿菓子やポップコーン、かき氷のシロップ好きなものをかけ放題など気楽に遊んでもらうのだ。
案内状には「テーマは夏祭りです。汚れても良い格好でお越しください」と記載した。
定番の桜庭の子たちや、テニスで知り合った芙蓉の子たち、釣りで知り合った花桐の子たちと色々集めてパーティー運営の練習といったところだ。花桐の子たちのイメージは良くなかったのだが、彰仁を通じて知り合った子たちは気持ちのいい子ばかりで、学校名でのカテゴライズはいけないと反省した。
皆、思い思いの服装でやってきた。女の子たちは夏向きのワンピースが多い。男子はジーンズやチノパンでラフな格好が多い。男女誘いあってきた人たちは、浴衣姿だったりした。
そのおかげもあって、パーティー全体の雰囲気は格式張らず気さくで朗らかなものだった。
私は生成りリネンのシンプルなワンピースで裏方に徹することに決めている。刺し色に黄色い靴を履いている。
彰仁も同じく生成りのリネンシャツに黄色い靴でリンクコーデだ。同じ色でそろえて、ホストが誰かわかりやすいようにしたつもりだ。でもちょっとアヒルっぽいな、とは彰仁の談。……たしかに。
彰仁と私の二人がホストになってパーティーをするのは初めてで、こんなにジックリ彰仁と何かをした夏も初めてだったと思う。
いつもは綱と三人で、相談するなら彰仁ではなく綱だったからだ。綱がいなかったからか、小さなミスが沢山あった。「なんでやっておかなかったの?」「おまえだって!」と彰仁と二人でミスを押し付け合ったりした。
綱がいないとこんなに大変だなんて、準備だけで二人でぐったりした。当日はそれ以上のてんやわんやだった。
時間があれば自分でピザを焼こうと思っていたが甘かった。
庭の端にポツンとしてしまった子に目を配り話しかける。違う学校の子を紹介したり、気になる子がいる子を紹介したり。
共通の話題ができるように屋台の出来上がり時間をずらして、同じものが好きな者同士が集まるように配慮した。
良く知らない子に話しかけるのは苦手だが、かき氷の屋台に誘ってみて、好きなシロップを聞いたりと食べ物の力に頼った。
その子をフォローしていれば、人の輪ができて抜け出しにくくなる。そして、気がつけばポツンとしている子がいるというループである。
なんとか回数をこなし、あまりよく知らない人に話しかける方法や、スマートに話の輪からぬける方法がわかってきた。
ヘトヘトになりながら彰仁と夏の庭を右往左往していた。
でも、今、満足げにパーティーを終えて帰って行く友達を見てホッとする。学校や性別を超えて仲良くなった人たちもチラホラいた。
「無事に終わったわ……っ!」
最後の一人を見送ってから、万感の思いを込めてガッツポーズをとる。
「無事か?」
彰仁が鼻で笑う。
「いいじゃない! 大きなトラブルはなかったんだから!」
「色々反省すべき点はあるけどな、綱がいないなりに頑張ったよな」
「そうよ、綱がいないのに。私たちやればできるわ」
二人で満足して笑う。
「さて、じゃあ一旦着替えて片付けるか」
彰仁の言葉に元気いっぱい頷いた。
人の気配が薄くなり、夏草が匂い立つ。パーティー中には気が付かなかったヒグラシが鳴いている。
まだ日の高い夕方は、なんだか店じまいには勿体ない。
「今度は夜のパーティーもいいかも。松明とか焚いて和風も良くない?」
言えば、彰仁は笑う。
「こんなに苦労したのに、もう次の計画かよ」
「実際は無理でも考えるのは楽しいわ」
「ふーん。向いてるんじゃね? 八坂先輩の誕生日パーティーも評判いいみたいだし」
「ほんと!」
「なんか女子が騒いでた」
ツカツカと歩き出す彰仁は振り返らない。でも背中は怒ってない。夏の日差しで焼けた首筋、耳の上も赤く色ついている。
でもまぁそれでいいのだ。
文句を言われないということは、彰仁は満足なのだから。だったら私も大満足だ。
そうして二学期が始まった。
綱は夏休み中にしっかりと車の免許を取ったそうで、敷地内で生駒に車の扱いの猛練習を受けている。
生駒は私たちには見せたことのないスパルタで、スムーズな車庫入れはもちろん、エンジンルームの点検からタイヤ交換まで叩き込んでいて、お父さまから「綱守を運転手にするつもりか」と呆れられていた。
生駒は「執事になるなら最低限の知識です。二種免許も取らせます」と答えていたが、お父さまには「執事になると決めたわけではないだろう」と返されていた。
私も呆れる。綱には綱の未来を自分で選んでほしいのだ。
「綱も白山のことなんか気にしちゃだめよ? ちゃんと自分のなりたいものになってね」
そう言えば綱は笑った。
「自分の安全のためにも知っておいて損ではありませんから」
真剣な目で車の車体の下に体を滑りこませている綱は、それはそれでかっこいい。
綱の運転する車の助手席に一番最初に乗る女の子になりたいな、なんてチョットだけ考える。
いやいや、ちゃんと計算しよう。車を買う日を聞いておいて、ちゃっかり引き渡しの日についていってしまおう。
下心満載である。
「車はいつ買うの?」
「それは当分先になると思います」
「そうなの?」
「必要ないですし」
確かに都内では車は必要ない。ちょっとガッカリすれば、綱が笑った。
「お嬢様は欲しいんですか? どういう車が好みですか?」
「え? 私? キッチンカーが欲しい!」
思わず反射で答えたら、綱が笑って生駒が笑った。
「おやじ、さすがに買い与えるなよな!」
彰仁がお父様にそう言って、お父さまは曖昧に笑った。
ん? もしかして、強請ればいける感じ? もう一押ししちゃう感じ?
「買うならせめてキャンピングカーにしろよ」
彰仁が言う。
「それ、彰仁が欲しいんじゃない!」
「悪いかよ。キッチンついてるぜ?」
「確かにそうだけど!」
「確かにそうだな」
お父様が少し思案する。
「大きな車の運転も練習しないといけませんね」
生駒が言って綱が頷く。
車の話題で暴走気味な男性陣を見ながら、こういう時はお母様が手綱を引いているんだなとしみじみと思う。
逆に言えば、お母様がいない今がチャンスだ、言質を取ってしまおう。
「ねぇ、お父さま。私、三月に免許を取ったら」
「だめよ、姫奈子ちゃん? あなたに車は必要ありません。免許もいりません」
どこからともなくお母様が現れて、ピシャリという。
「えぇぇぇ……。今どきみんな持ってるわ」
「家には運転手がいます、車もあるわ。事故を起こしたらどうするの。自転車と同じ気分で乗られたらこまるのよ。スキーだって迷子になって」
また始まってしまった。お母様のお小言だ。いつまでたっても過去のことを引きずり出してくる。たった数回の迷子くらいで大袈裟なのだ。
「お嬢様が行きたいところは私に申し付けてくださればよいのです。どこへでもお連れいたしますよ」
生駒が言えば、綱もその横で頷いた。
あっという間に生駒はお母様サイドにまわる。お父様も我に返って冷静になる。彰仁はうっとうしそうにソッポを向いた。
綱の助手席に乗れるのは嬉しいけれど、ちょっと違うのだ。
しかし、これ以上のお小言は面倒だ。
「はぁぁぁぁい……」
不満を隠す気もなく、渋々と返事をした。







