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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
高等部三年

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243/289

243.高等部三年 遠泳大会 4



 そして、決勝戦。

 三年生で勝ち残ったのは、綱のクラス三年三組と私たちのクラス三年二組。

 一年生で勝ち残ったのは、彰仁のクラス一年一組と、一年六組。


 私たちはクラスで円陣を組んだ。


「絶対に優勝するぞ!」

「おー!!」


 氷川くんの声にみんなで答える。



 フィールドはすでに大歓声だ。

 八坂くんはもちろん、氷川くんや修吾くん、モヤモヤするけど綱の名前や、生意気にも彰仁すら歓声を受けている。



「姫奈子おねえさまー!」


 二階堂くんの妹、智ちゃんが歓声を上げて手を振ってくれる。嬉しくなって手を振り返せば、キャァと一年生女子の歓声が上がる。一年生は元気いっぱいだ。


 ピストルの号砲が鳴り響いて一斉に走り出した。先頭は修吾くんで追いかけるようにして二階堂くん。放水ポイントを越えたところで水鉄砲での攻撃が始まる。


 詩歌ちゃんは一年生男子を着々と攻略し、八坂くんは笑顔で女子の動きを封じる。

 私は八坂くんに目を奪われている女子たちのポイを打ち抜く。事前に決めた作戦だ。嫌われ役だと思ったが、みんな八坂くんに打たれたと勘違いしているようで、へなへなと砂浜に座り込みポーっとしている。八坂くんグッジョブ!

 綱も彰仁も私を見ても容赦ない。楽しそうに放水してくるから、私も負けじとやり返す。

 それがとても楽しい。太陽のかけらのように光る水しぶきが、冷たくて気持ち良い。 


 給水ポイントでもある砦を取ったのは、修吾くんと二階堂くんと綱だ。砦を占拠できなかった一年六組は戦いに不利になる。

 その他三クラスはかなりの接戦でどこが勝ってもおかしくない。修吾くんと彰仁が中心になっている一年一組は大奮闘なのだ。


 危機感を感じながら給水ポイントで給水する。

 やっぱり最終年度だ。ここは勝っておきたい。


 というか、彰仁には絶対に負けられないんだから!!


 鼻息荒く気合を入れ直し、さて参戦と思ったとき、クラスの女子に呼び止められた。外部生の派手目で明るい子だ。


「ちょっと作戦」


 悪戯っぽく笑って耳打ちされる。


「そんなの効果あるかしら?」

「やってみなきゃわからないでしょ?」


 怪訝に思いながら彼女の案に乗ってみる。

 ラッシュガードのジッパーをおろして砦から飛び出た。

 その瞬間。


「バカヒナコ!!」


 彰仁が慌てた顔で、前の方から逆走してくるからポイを打ちぬく。油断しまくっていたようで、思いっきり命中しポイが破ける。ついでに側にいて呆気に取られていた修吾くんも打ち抜いた。


「二人とも脱落よ!!」


 言えば、彰仁は地団太を踏んで悔しがる。


「そーじゃねぇ! ジッパーあげろ!!」


 彰仁が騒いで綱が振り返り、顔を青くして声をあげた。


「姫奈!」


 綱が騒いだせいで、先頭集団の氷川くんと八坂くんまですごい勢いで振り返って私を見る。


「姫奈子さん!」

「姫奈ちゃん!?」


 砦を出た私は放水に応戦するのが精いっぱいで、そちらの相手をしている暇はない。


「いいから! みんな前むいて!!」


 思わず叫ぶ。

 

「なにをしてるんですか!」


 駆け寄ってくる綱に向かって標準を合わせる。綱なんか水鉄砲をおろしてしまっている。


「綱! 隙あり!!」


 綱の顔めがけて放水する。

 

「やめ! 姫奈!! ちょっと、やめてください!」


 バンバンと放水するが、綱は冷静さを失ってされるがままだ。

 綱のポイも撃ち抜いて、ドヤ顔を決めたところで、たくさんの水鉄砲が私に向いていることに気が付いた。

 修吾くんと彰仁、さらに綱と主力メンバー三人を打ち抜いたことで、私がターゲットにされたらしい。


 キラリと敵チームの銃口が光る。


「ぎゃあ! 止めて! 一応、お嬢様なのよ!? 私、お嬢様なのよ!?」


 思わず動揺して叫ぶ。

  

「二階堂! 浅間さん! メロンに向かって走れ!!」

「おぅ!」

「はい!」


 氷川くんが指示を出す。


「援護するよ」


 ウインクしながら八坂くんが私を庇って前に出る。


「背中は任せろ」


 そして、後ろに氷川くんだ。


「いや、逆に狙われますって!! 二人ともどっかいってぇぇぇ!!」

「姫奈ちゃん、それ酷い」

「大丈夫だ俺が守る」

「大丈夫じゃないぃぃぃぃ!」


 私は二人を振り切るようにして走り出した。


 冗談ではない。集中放水されがちな二人は別行動で、攻撃を分散させる作戦だったはずだ。

 これでは的が一つになって大きくなったようなものだ。

 私まで巻き込まれるのはまっぴらごめんである。


「ものども狙え―!!」

「日ごろの恨みぃぃ!」


 私の叫びもむなしく、笑い声と一緒に襲い掛かってくる水しぶき。氷川くんも八坂くんもビショビショだ。ポイが破れる。もう脱落のはずなのに、放水の輪から逃げられない。


 ピストルの音が鳴り響く。二階堂くんがメロンを掲げた。

 

「やったぁぁ!! 勝ったわ!!」


 思わず飛び跳ねる。

 びしょ濡れのまま三人で笑いあう。破れたポイの紙屑が顔に張り付いている。もちろん髪型はぐちゃぐちゃで、ラッシュガードはベッタリと肌に張り付いていた。

 こんなにボロボロな氷川くんと八坂くんは珍しいかもしれない。

 

 綱がタオルをもってやってきて、慌ててラッシュガードのジッパーを上げる。


「あ・な・た・は! 何をやってるんですか!!」


 真っ赤な顔をしてお小言である。


「作戦成功だったでしょ?」


 イヒヒと笑えば乱暴にガシガシと頭を拭かれる。


「氷川くんの作戦ですか!」


 私の髪を拭きながら、綱が怒りを氷川くんに向ける。


「いや、俺じゃない! 俺は、その、そんな」


 ワタワタとした氷川くんの声。


「八坂くんですか? しょうもない悪知恵を」

「僕じゃないよ。僕だって独り占めしたいもん」


 八坂くんが笑う。


「だったら誰が」

「もー! 綱煩い! 離して。髪が乱れちゃう!」

「結び直してあげます!」


 怒られながらも綱に触れられるのが嬉しくて、タオルに隠れていることをいいことにニヤニヤと笑ってしまう。


「反省してないですね」


 隠れて笑ったはずなのに、綱に見咎められる。

 ギクリと肩をすくめて綱の顔をうかがえば、不愉快そうにしかめっ面だ。


 それにしたって。


「なんで綱はそんなに怒ってるの?」


 思わず問えば砂浜が静かになった。波の音が聞こえる。


 氷川くんが不憫なものを見るような目で私を見た。

 八坂くんが、プッと噴き出す。


「表彰式の前に直しますよ!」


 綱はそう言って不貞腐れたまま乱暴に私の手を引いた。


「向こうの木陰でいいですか! ここでは目立ちすぎるので!」


 プンプンとした綱の言葉に頷いて、砂浜の際にある階段に腰かける。

 防波堤の木陰が白い階段を黒く濡らして、そこだけ幾分涼しかった。

 

 いつもより少し乱暴に髪を引く綱。濡れた髪がギシギシと悲鳴を上げる。

 なんだか話しかけにくくて、階段に散らばる砂を集めて手遊びする。

 セミの鳴き声と、潮風に鳴る木の葉の囁き。

 濡れてしまったラッシュガードが少し冷たくさえ感じた。


 綱が大きく息を吐いて、終わりましたと不機嫌に言った。


「まだ怒ってる?」


 綱に背を向けたまま、砂をいじりながら尋ねる。綱に怒られるのは嬉しい。でも、やっぱり怒られ続けられるのは悲しい。


「……怒っては、ないです」

「怒ってないの? じゃあなんで不機嫌なの?」


 綱は答えない。

 波が打ち寄せる。砂浜の歓声が遠くに聞こえる。

 振り向いて綱を見れば、遠くの海を眩しそうに見ていた。


 なんだかそれが儚げで、見てはいけないようなものを見てしまった気がして、慌てて足元の砂に目を落とす。


「綱?」

「……見せたくない……去年、あなただって言ってたくせに」


 小さな小さな声だった。


 バッと首筋まで真っ赤になる。

 

 え? それって。同じなの?

 あの時、私は綱を美味しそうだって思ったのよ? みんなが欲しがると思ったの。だから誰にも見せたくなくて、自分だけの綱でいて欲しくて。


 だったら。


 嬉しくて泣きたい気持ちで綱を見る。

 綱は私の顔を見て、困ったようにそっぽをむいた。


「嘘ですよ。困らせてみたくなりました」


 困った顔をしてるのは綱の癖に。綱を困らせているのは私の癖に。


「はしたない格好を許したとなると、私が父から怒られます」


 あとちょっと。もうちょっとで気持ちがわかりそうというところで、綱はそうやって線を引く。

 そして私はその線を越えられない。綱に嫌われるのが怖いのだ。


「綱のばぁぁぁぁかっ!」


 ムシャクシャして当たるように吐き出せば、階段の上を散歩をしていた犬が驚いてキャンキャンと私たちに向かって吠えた。


「淑女らしからぬ行いですね」


 綱がツンと答えて歯噛みする。


「どうせ、だれも私をお嬢様だとおもってないくせに!」


 フンとふくれっ面をすれば、綱が前に出て手を差し出した。


「さあ、怒ってないでいきますよ。表彰式と閉会式です」


 私は当然のごとく差し出された手に戸惑って、喜んで、怒っていたことなんか忘れてしまう。

 手を掴めば、子供の頃のように乱暴に引き上げる綱。驚けばいたずらっ子のように笑う。

 去年と違って熱く感じるその手のひらは、子供とは違う強さを感じる。


 私が立ち上がったのを確認すれば、綱はパッと手を離した。


「行きますよ」

「はーい」


 先を歩く綱の背を追いかける。

 日に焼けたのか、綱の耳は赤く火照ってスイカみたいだった。





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