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高等部二年

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235/289

235.高等部二年 修学旅行 4


「まだ少し時間があるね。ちょっと覗いていかない?」


 そう言って示したのは高級ジュエリーブランドだった。制服で入るには気が引ける。

 

「エレナが今モデルしてて、ポスター用のジュエリーが展示されてるんだ。先に連絡しておいたから、見せてもらえるよ」


 ウインクしてそう言われれば、入らない選択などない。


 磨かれたガラスケースにキラキラと輝く宝石たち。

 エレナさまがほほ笑むポスターと、さりげなくレオもいる。


 八坂くんの顔パスで、二階のVIPルームに通される。

 緊張しながらソファーセットに座れば、店員さんがプラチナのリングを持ってきてくれた。


「これ、エレナのつけてる指輪! せっかくだからつけてみない?」 


 プラチナの台にオウムのような頭が付いている。びっしりとちりばめられたダイヤモンドと、オウムの羽を表す華やかな三色のカラーストーンは、サファイアとルビーにエメラルドだろうか。金額を見れば桁が違う。おうちが買えてしまう金額だ。


「左手出して? これ、エレナと同じサイズ」

「エレナさまと⁉」


 思わずくい気味に手を出せば、なんともスマートに薬指にはめられた。

 

「あ、ちょっと小さいね」


 八坂くんが笑う。ちょうど薬指の節でつっかえた。

 エレナ様の指のサイズがわかって、ちょっと感動だ。


「浅間さんはどう?」


 八坂くんが詩歌ちゃんに振って、詩歌ちゃんもつけてみる。

 詩歌ちゃんにはぴったりだ。


「こちらのサイズはどうですか?」


 さっきの指輪がつけられなかった私に、店員さんが似たデザインのものを用意してくれる。

 さすがの店員さんだ。一発で適切なサイズを用意してくれた。


「あっ、ぴったりだね。エレナの一つ上のサイズ?」

 

 八坂くんが問えば、店員さんは無言で頷いた。


「姫奈ちゃんはどんな結婚指輪が欲しい?」


 八坂くんに問われる。


「シンプルなのがいいですね。料理をするときに外すので、ちょっとシンクのはじに置いておいてもおかしくないものがいいです」

「いいね。姫奈ちゃんらしい。僕もそういうのが好きかな」


 トロリとした瞳が蜂蜜みたいに煌めいた。

 思わずドキリとして、パッと指輪を外して店員さんに返す。

 これではまるで。


「結婚を控えたカップルみたいだったね!」


 八坂くんが含み笑いでそう言って、同じことを考えていたこちらはなんとも恥ずかしい。

 イタリア男の真骨頂である。


「やめてください! 誤解を招きます!」

「いいよー。記念にひなちゃんに買ってあげるよ」

「いりません!」


 ツンと答えれば、氷川くんが八坂くんを非難する。


「晏司、ふざけるのもいい加減に」

「ふざけてないもん」


 もん、だなんてあざとすぎるぞ、八坂晏司。


 詩歌ちゃんがお店の人に頭を下げて、二人をたしなめる。


「あんまり騒ぐと迷惑だわ」


 氷川くんと八坂くんが苦笑いして、お店の人も苦笑いだ。それでも丁寧にエレナさまのうつったパンフレットを用意してくれた。

 四人でお礼と謝罪をして、一階のショップへ降りる。

 ちょうど窓から芙蓉の制服がチラチラと見えて、そろそろみんなホテルへ戻ってきたらしい。

 綱はいないかな、なんて思っていれば、丁度こちらの窓を見ている綱が見えた。

 眩しそうに眼を眇め、なんだか呆けたような顔をしている。

 綱がこんなハイブランドのジュエリーショップに興味を持つとは思っていなかったから、大分驚いた。少なくとも、普通の高校生が入るようなお店ではない。

 

 誰かにあげたいのかしら?


 ちょっと、胸が痛む。ここは永遠を誓う指環で日本では有名だ。彼女のために、いつか、そう思ってもおかしくはない。


 ガラス越しにバチリと目が合う。


「!」


 思わず手を振れば、綱はツッと目をそらして行ってしまった。


「え?」


 目があったと思ったのは自意識過剰だったらしい。なんだか少し胸が痛い。


 ポンポンと頭をはたくのは詩歌ちゃん。


「さぁ、そろそろ行きましょう?」


 詩歌ちゃんに促されて、私たちもホテルに戻った。



 今日はフランスでの最後の夜だ。

 たくさんになってしまったお土産を、どうパッキングするかが腕の見せ所だ。優先順位の低いものは郵送してしまうことにした。


 ちなみに今日は三月十四日ホワイトデーで、学院の悪意を感じざるを得ない。

 パッキングの途中で夕食の時間になる。ホテルのレストランでフレンチのコース料理を堪能したら、あとは帰国に向けて準備をする。


 夕食を食べ終わって、詩歌ちゃんと部屋に戻ろうとしたら綱に呼び止められた。


「あとで、姫奈に頼まれた荷物を届けに行ってもいいですか?」


 綱にはいろいろお土産を頼んでいたのだ。確かに帰る家が一緒とはいえ、自分の荷物くらい自分で持って帰ったほうがいいだろう。


「うん、お願いね」


 部屋に戻って綱を待つ。

 しばらくして綱が来た。小さな荷物しかもっていない。私はもっといっぱい頼んだはずだ。怪訝に思えば、目をそらしたまま綱が言う。


「少し時間をください」


 なんだか固い言い方に、ドキンと心臓が痛くなる。


「詩歌ちゃんに言ってくるわね」


 慌てて、詩歌ちゃんに出かけることを伝えて部屋から少し出る。

 珍しく綱が手を差し出した。

 迷って、それでも手を取った。

 無言で綱に導かれ、階段を数階上った踊り場で立ち止まる。


「姫奈に、これを」


 差し出された小さな紙袋を怪訝に思う。


「なあに?」


 綱は何も言わない。


「開けてもいい?」


 ただ頷くだけの人。

 紙袋の中には板チョコをデザインしたようなカフスボタンと、絵葉書が一枚入っていた。カフスボタンは多分日本で買ってきたものだろう。日本のお菓子メーカーのコラボ商品のようだ。絵葉書はフランスで買ったのか、昔の映画ポスターのような写真にフランス語で題名が書いてある。


「どうしたの?」

「……今日のお土産です」


 ボソリ、そっけなく呟く。

 カフスは日本から持ってきたんだと思う。それに、同じ旅に来ていてお土産だなんて、不自然だ。それでも綱が私のために選んできてくれたのがうれしかった。

 

「こんなものですみません」

「ありがとう。すごくすっごくうれしいわ」


 綱は安心したようにホッと息を吐きだした。


「今日渡せてよかったです」


 今日はホワイトデーなのだ。

 そんな日に、あえて、こんな。期待していいの?


 私は紙袋を喜びごとギュッと抱きしめた。


 聞いてもいいのかしら? ホワイトデーなのって? 聞くなら今しか。


 顔をあげて期待を込めて綱を見る。

 綱の顔はいつも通りに無表情に戻っていて、恋の気配など微塵も感じさせない。そもそも綱自体に恋愛感情があるのかも信じられないくらいだ。


 ううん。……聞けっこない。間違ってたら今後どんな顔して会えばいいのよ。荷物を渡すついでなんだから、期待しちゃダメなのよ。


「お時間ありがとうございました」


 綱がそっけなく言う。


「それで荷物は?」


 私もそっけなく問えば、綱は穏やかに笑う。


「それはただの口実です」


 それだけ言って、綱は私に背を向けて階段を下りだした。


 え? 今のって、どんな意味?


 私は綱の影を踏みながら、混乱した頭のまま階段を下りていく。いつの間にか大きく広くなった綱の背中には、何も尋ねられなかった。




 部屋に帰って、絵葉書をぼんやりと眺める。いったい何の映画なのだろう。


「『王冠をかけた恋』のポストカードね」


 詩歌ちゃんが笑った。


「有名なの?」

「古いフランス映画よ」

「知らなかった」

「今日、八坂くんたちと行った宝石店でヒロインが『私を抱きしめて』と刻んだカフスボタンを作って男性に贈るの。それで男性は王座を捨ててヒロインを抱きしめにくるのよ」


 詩歌ちゃんの説明に、私はバッと顔を赤らめた。

 私も綱にビスケット色のカフスボタンを贈ったことがあるのだ。

 でもその時は、そんな意味を込めてカフスを贈ったわけではない。


 綱は、映画を知っていた? やっぱり、私の想いに気づいてる?

 それで、今日くれたのならもしかして、綱も嫌じゃない?

 それとも、ただの偶然なのかしら。


 聞きたいけど聞けなくて、絵葉書をギュッと抱きしめた。






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