234.高等部二年 修学旅行 3
詩歌ちゃんのお目当てのバラ窓を見て、お土産屋さんでステンドグラスのレプリカを買う。
そうやって表に出てくれば、そこには綱がいた。
意外過ぎて驚いて、思わず駆け寄ってしまう。
「綱! まだいたの?」
「はい。食事を一緒にしようと話していたので、どうせなら一緒に行こうかと待っていました」
礼拝堂内での笑顔が嘘みたいな、いつも通りの無表情で綱が答える。
「嬉しい! 待っててくれてありがとう!」
思わず言えば、なぜだか綱は目をそらした。三峯くんが苦笑いする。
「あ、三峯くんも待たせてごめんなさい」
「いいよ、別に。いいものとれたし」
そう言って三峯くんが見せてくれたのは、先ほどの駆け寄る私の動画である。
出口で綱を発見し、ピョコンと小さく跳ねたと思えば、一直線にかけてくる、あほっぽさ満載の動画だ。
「やだ! 私、いつもこんななの⁉」
思わず綱に問う。
「こんなですね」
綱はそっけなく答える。知りたくなかった。まるで「ご主人様お帰りなさい」といわんばかりに尻尾を振りまくる子犬ではないか。綱だって私のことをひよこにしか思えなくても仕方がない。
「やーめーてー!! 消して! 消して!」
スマホを取り上げようとすれば、三峯くんはスマホを掲げる。
背の高い三峯くんだ。到底届きっこない。
「いーじゃん、かわいいよ。ねぇ、生駒」
「ええ。でも消しましょう」
綱は三峯くんを見て、ちょっと怖い感じに笑った。
「はいはい。わかりましたよ」
三峯くんはそう言って、「本当は欲しいくせに」とつぶやいた。綱は「早く消してください」と三峯くんを軽くにらむ。
私の動画を綱が欲しい? そんなわけない、ない。
チラリと綱を見てみたけれど、綱はいつもの綱で、今となっては礼拝堂の綱は幻だったんじゃないかと思える。
「道わかりますか?」
「うん、だってちゃーんと調べてきたわ」
がっかりするような、ホッとするような気持で四人で連れ立ってブラッセリーに入る。少し小道に入ったこじんまりとしたお店だ。
みんなでエスカルゴを一皿頼んでシェアする。男子二人はがっつりステーキを頼んでいたが、私たちは軽めのサンドイッチにした。のに、量が多かった。この後もいろいろ食べ歩くのに大丈夫だろうか。
大きなエスカルゴを頬張りながら、綱に今日の戦果を確認する。
綱たちはオペラ座に行くと言っていたから、オペラ座の蜂蜜を頼んだのだ。
「もちろん買ってきましたよ」
綱がカバンから出して見せてくれた。
「序盤から重いものを頼むよねー」
三峯くんが笑えば。
「三峯くんはおもちゃばっかり買ってますけどね」
と綱がバラす。
「おもちゃの開封動画はそれなりに人気があるんでね」
三峯くんが笑う。なんだか、三峯くんと綱はいいコンビだと思う。
「白山さんはお菓子ばっかり?」
「いいえ! 塩バターとかパンとかも買いましたよ?」
「塩バターって、こないだも買ってなかった?」
「種類が違うんです」
「へー。塩バターそんなに買ってどうするの」
「もちろん、食べるんです」
「どうやって?」
「そのままでもおいしいんですよ?」
そのまま……、三峯くんはつぶやいて、ちょっとゲソッとした顔をした。
「あー! 信じてないですね? もちろんトーストでもおいしいですけど」
「比較動画になりそう? 地味じゃない?」
「三峯くんは、ちょっと動画から離れてください!」
突っ込めば詩歌ちゃんが笑う。綱も三峯くんも笑う。
「これから二人はポン・ヌフ?」
詩歌ちゃんが問う。
「うん。そのあと公園でちょっと撮りたいところがあって。それでシテ島は終わりかな」
三峯くんが答える。その公園では、日本の有名ドラマのロケが行われていたらしい。
「二人はサン=ルイ島ですよね?」
綱が問う。
「八坂くんがジェラート屋さんを教えてくれるの!」
八坂くんの教えてくれるお店はいつもおいしいから期待しているのだ。
「浅間さんとはぐれない様に!」
綱にピシャリといわれて、三峯くんが何かを言いかけて口をつぐんだ。
多分『保護者』と言おうとしたのだろう。わかる、私もいいそうだった。
「はーい」
従順に返事をし、食事を終えた私たちはそこで別れた。
詩歌ちゃんと私はサン=ルイ島へ向かう。
シュークリーム専門店でテイクアウトする。小ぶりな一口サイズのシュークリームにはクッキー生地が乗っている。キャラメルやプラリネなどいろんな種類から選べるようになっていて、その場でクリームを詰めてくれるのだ。私はとりあえず全種類購入した。だって、だって選べない。持って帰ってホテルでみんなと食べるのだ。
そのあとは、ジェラート屋さんへ向かう。八坂くんがお勧めしてくれたお店で、八坂くんと氷川くんと合流することになっている。注文が難しいかもしれないからと、八坂くんが気を使ってくれたのだ。
お店の前には、すでに八坂くんと氷川くんがいた。周りは女の子がたむろしていて怯む。学院以外の子たちもチラチラとみている。八坂くんと氷川くんのイケメン具合は世界標準らしい。
「すっごいわね?」
「ほんとうに……」
詩歌ちゃんと顔を見合わせた。あの女子をかき分けて、二人に近づくのはなんというか、うん、面倒。
すると、バチリと氷川くんと目があった。氷川くんは嬉しそうにほほ笑んで、その輪の中から強引に小走りで抜け出してくる。なんという既視感。さっきの三峯くんの動画の私を見ているようだ。
あー、うん。かわいいと思うんだけど、高校生男子にどうなのよって感想ね。
「迷わずこれたか? すぐわかったか? 疲れてないか?」
矢継ぎ早の質問に、思わず笑う。どうやら氷川くんにとって、私は園児か何かのようだ。
「大丈夫です。うーちゃんもいっしょですし」
「そうか」
「ちょっと、和親、置いてかないでよ」
八坂くんがブーブー言いながらやってくる。
「姫奈ちゃん、浅間さん、待たせてごめんね」
そして私たちに顔を向けて、にこやかに笑った。
「待たせたのは私たちだと思いますけど……」
私が言えば、そうだったー、なんて明るく笑う八坂くん。
「じゃあ、さっそく注文しよっか!」
花びらのように盛り付けられるイタリアン・ジェラートが有名なお店だ。盛り付け方を見るだけで楽しくなってしまう。
「花びらの形がいいなら、コルネット」
「コルネット?」
八坂くんの言葉を繰り返す。
「コーンだよ。花びらごとにフレーバーを変えられるんだ。よーく悩んで?」
「おすすめのフレーバーは?」
「フルーツ系もおいしいし、ノワゼットもおすすめかな。ただ欲張っていろんなフレーバーを混ぜすぎないほうがいいかもね。あと、ミニマカロンも乗せられるよ」
八坂くんに相談しながら、ジェラートを決める。
フレーバーの種類も多く、複数フレーバー決められるとなると、確かにこれは注文が難しそうだ。八坂くんにそばにいてもらって注文を助けてもらう。一応拙くとも自分で注文してみたいのだ。
私は、発色の綺麗なマンゴーと八坂くんおすすめのノワゼットとバニラにマカロンをのせてもらう。詩歌ちゃんはストロベリーとカシスの上にピンクのマカロンで、本当にバラみたいだ。
氷川くんはバナナとティラミスで、八坂くんはレモンとオレンジでそれらしい。
八坂くんが奥の席を取っておいてくれたので、みんなで写真を撮ってから食べ始める。氷川くんとお花のジェラートというのもなかなか乙な組み合わせだ。
八坂くんのおすすめだけあって、くちどけのまろやかなコクのあるジェラートだ。見た目も素敵でおいしいだなんて、最高すぎる。勉強になる。
「着色料を使わないでこの色なんですものね」
しみじみとジェラートを眺めながら感嘆すれば、詩歌ちゃんも頷く。
「自然の色って素敵ね」
氷川くんと八坂くんとは、デビュタントなどで一緒に過ごすことが多かったから、少しぐらいお行儀が悪くても許される仲になっていた。見た目がかわいいが食べにくいジェラートだけど、私も詩歌ちゃんもマカロンを指でつまんで食べてしまう。
二人で笑いあって、大満足だ。
「本当においしいです!」
「二人に食べてもらいたかったんだ」
八坂くんが目を細めて笑う。
「計画通りまわれているか?」
氷川くんが問う。
「だいたい予定通りね。ちょっと寄り道しちゃったり、飛ばしたところもあるけれど」
詩歌ちゃんが答える。
「和親は予定きっちりだから、より道しなくてつまんない」
八坂くんがブーたれれば、氷川くんは「学習の一環だ」なんて真面目な顔で言う。
「もう、あとは帰るだけ?」
八坂くんに問われて頷く。
「寄り道しながら帰ろうかな、って思っているところよ」
「じゃあ、一緒に帰ろ!」
八坂くんが言う。
「ほら、二人がいてくれると何かと助かるんだよね」
チラチラと八坂くんと氷川くんを見ている視線。それに、愛想よくヒラヒラと手を振りながら、小声でそんなことを言う。
確かにあの囲まれようでは大変だ。それにだんだん日が落ちてきて、女子二人では少し不安だ。詩歌ちゃんと二人で目配せする。
「いいですよ」
「すまないな」
「ありがとう」
氷川くんと八坂くんがうれしそうに笑った。







