226.塾のみんなと初詣 2
駅から五分のはずの神社までの道は、参拝客が多くノロノロ進む。
神社でお参りを済ませ、お守りを見に行ってギョッとする。
縁結びのお守りがとてもたくさん置いてあるのだ。絵馬も、おみくじも恋にまつわるものが多い。恋愛のパワースポットだったのかと妙に納得した。
「なにが受験よ」
恋愛成就の絵馬を見ながら、ボソッと呟けば綱がクスリと笑う。
もてる男は余裕なので、それも癪だ。
「ねー! このおみくじ引こうー? 栞にもなるんだって!」
ニコちゃんがウキウキで女子に声をかける。
女子みんなでおみくじを引く。
「大吉を引くと半年以内に彼氏ができるんだって!」
シホちゃんがそう言って。
「怖すぎる―!!」
なんてキャッキャとはしゃぐ女の子たち。
私はドキドキとして、薄目で見れば『末吉』で、うん、なんか、うん、と遠い目になる。
うん……、わかってた。でも凶じゃないから、ワンチャンあると、信じたい!
「きゃー!! ニコ! 大吉!!」
うん、それもわかってた。
「やだ、私も大吉」
シホちゃんが驚くように言って、ギョッとする。
おのれ、晴人くん……。
ムカっとしたので、男子を見て不敵に笑った。
「ニコちゃんたち可愛いもんね! いつ彼氏ができてもおかしくないもの!!」
「やだー!! アネゴ! そんなことないって!」
顔を赤くする女子たち。
サッと顔をこわばらせる男子たち。
「アネゴ、ないない。ウケルわそれ」
ヘラヘラと斉藤くんが笑う。失礼にもほどがある。
「そう? 冗談に聞こえたならシ・ン・ガ・イー。帰るまでに素敵な出会いがあったりして?」
私も意地悪に笑って答えてやる。
「に、ニコ! なんか、ハートのなんか探して写真取るんだろ? 行くぞ」
斉藤くんが急にニコちゃんの背中を押した。ニコちゃんが私を見てウインクして手を振った。
「じゃ、みんな、ばいばーい!」
……うん、がんばれ。
「あれ……、自然解散みたいになった……のかな……?」
オドオドと晴人くんが問う。
「みたいですね。どうします?」
綱が答えた。
「わ、私もハート、探そっかなー……なんて?」
シホちゃんがチラリと晴人くんを見る。
「あ、オレも……い、一緒に探しても……いい、かな?」
「う、うん! 人が多いから、だ、男子一緒だと安心ていうか……」
そんな感じでゴニョゴニョ言い訳じみたこと言いながら、バラバラと別れていく。
あーあーあーあー! 青春か! もういいよ! みんな勝手にすればいいさ。別にヤサグレテたりしないし!
ハタと気がつけば綱と二人で戸惑った。
「あれ?」
「どうします? 帰ります?」
「あ、う?」
綱に尋ねられて、口ごもる。
「とりあえず、お守りを頂いてきてもいいですか?」
「あ、私も行くわ」
綱め。お守りってなんのお守りよ。まさかまさかの恋愛成就じゃないでしょうね?
いや、邪魔はしないわよ? 邪魔したりはしないけど……。
横目でチラチラ綱を見ながら、気が付かれないようにお守りを見るふりをする。可愛らしいお守りがたくさんで、逆の男子は選びにくそうだ。
私も授けていただいた方がいいかなぁ。末吉だし。
私が悩んでいれば、綱はサッサと選んでしまう。木札が二枚で一組になった『恋愛成就』なんてバッチリ書いてあるお守りだ。一片には自分の名前を書いて神社に納め、片方の一片は手元に置くのだ。
……。うん……。そっか。好きな人いるんだぁ……。
思わぬところで真実を知り、悲しくなってしまう。これで凶じゃないなんて。
魂まで抜け出てしまいそうだ。新年からこれって、どこの神様もなかなかのS仕様である。大きくため息をつく。
「姫奈」
綱の声に恨みがましく顔を向ければ、綱はお守りの木札の一片を私に差し出した。
何よ。なんなのよ。綱の無神経!
「二枚入っていたので一枚あげます」
「は?」
『恋愛成就』と書かれた木札は、自分の名前を書いて神社に収めるものだ。それを私にくれるという。
「綱、それじゃ、願いが叶わないわよ」
「名前を書いて不特定多数が見るところに吊るすというのはなんだか抵抗があって」
「それはそうだけど、だったら初めから選ばなきゃいいのに」
「……ダメですか?」
綱に小首をかしげられ、ハイ降参。
「別に駄目じゃないけど」
手渡された木の札。恋愛成就と書かれた裏は真っ新だ。
「私の名前書いちゃうわよ」
「いいですよ」
綱がこともなげに笑った。
「私の願いが叶っちゃうわよ?」
そしたら綱の恋は叶わないのよ?
「姫奈の願いが叶うなら、私はそれでいいですよ」
綱が何だか寂しげに笑う。
なんて顔、するの。なんで、そんな切なげな顔するの? 誰を想ってそんな顔するの?
私はそんな顔はさせたくない。私だったらさせないのに。
「うそよ」
宙ぶらりんになった願いの札を、私はポケットに突っ込んだ。
「りんご飴、買いに行きましょ!」
「ここで食べるんですか?」
「持って帰るの! お土産よ。冷凍すると美味しんですって!」
「向こうで見かけましたよ」
当たり前のように手を取る綱。当たり前のようなふりをして握り返す。
だって、迷子になっちゃうから。
今日はお母さまが無理を綱に言ったんだから。私も綱も悪くない。こんなのお母様のせい。
言い訳を繰り返し、人混みの中をワザとノロノロと歩く。
駅についたら手を離さなくてはならないからだなんて、綱は絶対気づかないだろうけど。
家について、綱から貰った木札を引き出しにしまう。
綱の名前を書いた方がいい、そう思いつつ引き出しを閉める。
だって、そうしたら。
― 姫奈の願いが叶うなら、私はそれでいいですよ ―
綱の声が耳に残っている。
綱のバカ。綱のバカ。そういうふうに言われたら、私だって、綱の願いが叶った方がいい。
もう一度引き出しを開け、お守りを取り出した。大きく息を吐き、唇を噛む。
恋愛成就と書かれた木札のその裏は、木肌が薄く輝いて見える。
まだ諦めたりしないけど。でも、だけど。
― 綱の願いが叶いますように ―
丁寧に、丁寧に、大好きな人の名前を書いた。







