225.塾のみんなと初詣 1
本日は、塾のみんなと初詣である。
メンバーは、斉藤くんの男友達グループ三人と、ニコちゃんたち四人、晴人くんと私の九人のはずだっだ。
ニコちゃんたちが、「来年の一月は受験で忙しいから」と二年生の今、合格祈願のお参りをしようと言いだしたのだ。
シホちゃんから晴人くんを誘って欲しいとお願いされ晴人くんを誘い、ニコちゃんから斉藤くんグループを誘ってとお願いされ、斉藤くんも誘った。晴人くんはともかく、斉藤くんはニコちゃんたちの方が仲いいのに! みんな自分で誘おうよ! それが第一歩ってとこでしょうが!!
そんなわけで、許可を得るべく、お母様に出かける旨を話した。男女混合グループで行くと言えば反対されると思ったから、うまーくぼかして話した。
のに!
「斉藤くんたちも一緒だと聞きました。楽しんできてくださいね」
綱がシレっと話してしまう。
「綱なんで知ってるの!?」
「七方くんが教えてくれましたよ?」
「ちょっと、なんで晴人くん?」
「私は彼の連絡先を知っていますし」
綱め! 知らないうちに晴人くんまで攻略済みとは、何たる誑しだ。恐ろしい子!
「そう、姫奈子。男の子も一緒なの。それを隠していたのかしら?」
お母様がニッコリと笑った。彰仁は呆れた顔で私を見た。
旗色が悪い。
恨みがましく綱を見れば、綱は澄ました顔をしている。
「綱守くんもお友達のようだし、行くなら綱守君も一緒なのよね?」
「……え、ちが……」
「違うならお断りしなさいね?」
「……そんな……」
「芙蓉の方ではないのでしょう?」
「でも……どうしても、行きたいの」
お母様はニッコリと笑う。
「綱守くんと一緒なら駄目だとは言わないわ」
私は綱を見た。綱は相変わらずの無表情である。
「……綱、一緒に来てくれる? 私からみんなに話しておくから」
「構いませんよ」
綱はそっけなく答えた。
「良かったわね! 姫奈子! 綱守くん、いつも姫奈子が迷惑をかけてごめんなさいね?」
お母様はさっぱりとした笑顔でいうけれど、これって私が悪いわけ?
どう考えてもお母様が面倒ごとを押し付けただけだと思うけど!!
綱と二人で出かけるなとか言いながら、こういう時にだけ都合よく約束を反故にして、綱を使おうとするのはどうかと思うよ、お母様。
でも、綱と出かけられるのは嬉しいから、お母様グッジョブではあるんだけど。
そんなわけで、今日の初詣は綱を含めて十人の大所帯だ。
お昼前に神社の最寄り駅で集合することになっている。神社でお参りを済ませてから、みんなで出店で何か食べよう、という話になっているのだ。
お正月の電車は着物姿のカップルなどでウキウキと浮かれている。
私もお気に入りのコートとブーツで浮かれている。実は綱の瞳と同じ色のムラーノグラスのペンダントまで初めて着けてきてた。ついでにスイスで買った腕時計をしてきたら、綱も同じ時計をしていて、多分すごくすごく浮かれている。
だって、色違いでペアみたいだから、彼氏彼女だって誤解されたらどうしよう! きゃー! 嬉しい!
入り口ドア近くに二人で立って、電車に揺られる。綱がドアに両手をついて、胸の中に私を入れて、守るように立っていてくれているから、ドキドキとして心臓が痛いくらいだ。いつもは座っているからこんな状況に慣れていないのだ。
もう、思考回路はハチャメチャで、どこを見て良いのか、何を考えていいのか、なにもわからない。
綱がどこを見ているのか確認することすらできずに、ひたすらそっぽを向いている。
「……ひな……」
だからもう! そんな無駄にいい声で名前を呼ばないで!
「ねぇ、姫奈……」
ドキドキしすぎで声も出ないでいれば、そっぽを向いた顔を綱が覗き込んだ。
突然のことにびっくりして、ふら付けば綱に抱き留められる。咄嗟に綱を押し返す。
「怒っているんですね?」
「は?」
「初詣についてきたこと」
驚いて綱の顔を見れば、綱は申し訳なさそうな顔をしていた。
「そんなわけないわ!! 一緒に来れて嬉しいわ!」
思わず大声で否定すれば、周りの視線が集まった。
「でも先ほどから不機嫌そうです。目も合わないし」
別に不機嫌で目を逸らしているわけではない。よこしまな自分が恥ずかしいだけだ。
しかし、このまま黙っていたら綱に誤解されてしまう。
慌てて小さな声で弁明する。
「だってだって、そうじゃなくて。その、でも、本当は綱の方が嫌でしょう? お母さまの我儘でごめんなさいね。綱だって帰ってきたばっかりで、したいことだっていっぱいあったでしょう? だ、だから、悪かったかなって……」
言葉にして落ち込んだ。また綱に迷惑をかけている。
「そんなことはないです。私も一緒に来ることができてうれしいです」
「ほんと?」
思わず綱をうかがい見る。綱は私を安心させるかのように、優しく笑った。二人でいる時、綱はたまに優しく笑ってくれるのだ。キュンとしてしまう。
「本当です」
好き、そう言いそうになって慌てて言葉を飲み込んだ。
「す、……すごく、すっごく、うれしいわ!」
言えば綱が驚いたように目を見開いて、ツと目を逸らす。
「結構揺れますから、私につかまってください」
突然そんなふうに言われて戸惑って、チョコンと綱の肘当たりの袖を摘まめば、綱が小さく笑った。
「それじゃ、服が伸びます。もっとちゃんとつかまって」
「あ、うん、そうね」
綱の伸びた左腕をギュッとつかむ。思った以上に硬い腕。手首では黒い腕時計の中で黄色秒針が時を刻んでいる。
やだやだやだやだ! 綱のバカー!! すっごく好きになっちゃうじゃない?
クスクスとした笑いと、可愛いわねー、あんな時代もあったよねー、なんていう大人たちの声を耳が拾って、既に真っ赤だった顔が、さらにユデダコのようになってしまった。
這う這うの体で電車から解放されて、駅前の待ち合わせ場所に集合する。
「急に綱も一緒になっちゃって、ごめんなさいね?」
慌てて謝れば、ニコちゃんが笑う。
「ってか、来ると思ってたし」
「いや、来ないわけないし」
斉藤くんもそう笑って、なんだよ息ピッタリかよはよ付き合え、と思う。
神社へ向かって歩き出す。人の波は女子とカップル率が以上に高い。気がつけば、なんだか自然と男女のペアになっている。晴人くんの嬉しそうな顔がレアだ。
「ほら、ニコ、よそみすんな。混んでるんだからはぐれるぞ!」
「皇貴こそフラフラしないでよ」
「っ、ち、しょーがーねーなー」
そう言って斉藤くんはおもむろにニコちゃんの手を取った。ニコちゃんはニコニコ顔である。
……ちょっとまって? これって何気なく、お目当ての感じの子を誘いましたよーじゃないの! なによそれ! 綱が来なかったら、私一人あぶれるところだったじゃないの! ちゃんと言ってよ!
いや、事情を知ってたら綱が来ることを断っていただろう。なんなら初詣自体辞退する。好きな人を誘うとか、だって、そんな、だって、無理、恥ずかしくて無理すぎる。誘うのを頼まれたときは自分で誘えよと思ったが、自分で誘うのってやっぱり無理ね。
「姫奈もおいていかれますよ?」
綱がそう言って、当たり前のように手を取った。綱にしてみれば私の手をとるなんて大したことではないのだ。
こうやって迷子になりそうな私を、綱はいつだって導いてくれる。あまりにも子供の頃と変わっていなくて、嬉しさの中に切なさを感じる。
「うん……」
それでも綱のやさしさに甘えて手を離せない自分がいる。
ずるいとわかってる。
でも、まだ、この手を離したくない。







