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高等部二年

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223/289

223.高等部二年 お正月 1


 お正月である。

 なぜか八坂くんが来ている。ついでに氷川くんがいて、修吾くんがいるけど、綱はいなくて彰仁がいる。

 なんじゃこれ?


 八坂くんはここ数年お正月の三が日に、お母様宛てのお年賀という八坂サロン新製品をもって挨拶に来るのだ。お母様にアポを取り、ついでに私にも顔を見せるというのがいつもの流れだ。お母様は毎年大興奮である。


 修吾くんは彰仁に会いに来る。オーストラリアの試合の前に新年のあいさつだそうだ。やっぱりそのついでに私に会っていく。


 氷川くんはアポなし訪問だった。


 どうやら門で大ブッキングが起り、三人そろって現れたのである。

 お正月から眩しい来訪である。


 とりあえず、八坂くんは母と客間に、修吾くんは彰仁と彰仁の部屋に、氷川くんには申し訳ないけれどリビングに来てもらった。お手伝いさんも大忙しなので、氷川くんの分は私が用意することにした。


「なにを飲まれます?」

「ジンジャーエールがあれば」

「お気に入りなんですね。ありますよ」


 ジンジャーエールを用意して、お茶請けを用意する。豪華なスイーツは飽きているだろうから、大黒さんから送られてきた外国のスナックを出してみる。

 氷川くんの正面に座って一息つく。


「今日はこれを届けに来た」


 テーブルに置かれたのは手のひらサイズのリボンのかかった紙箱だ。開けてみろと促され、リボンと包装紙を解く。中には濃紺のジュエリーボックスが入っていた。フロッキング調でなんだかとても高級そうだ。


「?」

「クリスマスの時の真珠を持ってきた」


 ゲ、本当にあの真珠アクセサリーにしたのか。もちろん私は事前に断った。断ったのに。


「何が良いのかわからなかったから、ブローチにした。ブローチなら学院の鞄につけても問題ないだろう?」


 え? つけて来い、そういう感じ? ものを見る前に結構なプレッシャーだ。いろいろ戸惑う。 

 前世の氷川くんがくれたアクセサリーは流行の最先端で趣味も良く不満はなかったが、前世ではそんなことを言ったことはなかった。


「気に入るかわからないが」


 氷川くんに促されてジュエリーボックスを箱から取り出す。フロッキングの独特の感触が肌をくすぐる。

 中を開ければ、紺色の中に金色の音符が光っていた。十六分音符が二つ繋がった形で、おたまじゃくしの頭の部分が真珠になっている。おたまじゃくしの尻尾についている黄色いキラキラした石がイエローダイヤではないことを秘かに祈る。


「真珠が二つに増えている……」


 思わず零れる言葉に、氷川くんは嬉しそうに笑った。


「音符、一つじゃ寂しいからな。俺のグラスに入っていたものを使ったんだ。俺たち二人で音楽を奏でているみたいだろう?」


 天真爛漫に微笑まれ、なんだかいろいろ考えている自分がおかしな気がしてきた。

 高価だと思うからとても受け取りにくいのだが、もう作ってきてしまっているし、それを受け取らないのも失礼な話だ。デザイン自体はとても私好みだった。


「ありがとうございます。とても可愛らしいです」


 私の好みを考えて作ってくれたかと思うと、それ以外の言葉が思い浮かばなかった。

 氷川くんはそれを聞いて満足げに頷いた。


 それにしても氷川くんが私に施しを与えたいのは病気なんじゃないだろうか。

 

「つけてやろう」


 氷川くんがそういってブローチを手に取る。


「いえ、自分でつけられます」


 慌てるがすでにブローチは氷川くんの手の中だ。さすがにそれを奪い返すこともできない。

 氷川くんは私の胸元に手を伸ばそうとして、慌てて手を引っ込めた。


「あ、すまない。襟でいいか」

「はい」


 氷川くんは真っ赤な顔で襟と襟の間、首の中央にブローチをつける。

 うん、そこは絶対間違っている。絶対バランス悪い。襟って言うから、襟の方だと思ってたけどなーと思いつつ、ワタワタと不慣れな様子の氷川くんを見て少し華子さまの気持ちになった。こんなこといつもの氷川くんを見ていればさもないようなことに思えるのだが、対女の子対応はどうやら不得意分野らしい。

 なんというか、何でもできる人が何かに手間取っている様子がレアで、初々しく思う。彼女ちゃんにはサラッとカッコよく決められるといいね、なんて見守るような気持ちだ。

 大人しく氷川くんにつけてもらっていれば、八坂くんとお母様がリビングにやって来た。


「あらあらあらあら? 素敵なブローチね?」


 お母様、変な声出すな。

 八坂くんがジト目で氷川くんを見れば、氷川くんはツっと目を逸らす。


「和親まだいたんだ。暇なの?」

「暇で悪いか」

「ぜんぜーん?」


 そういうと八坂くんは氷川くんの隣にドカリと腰を下ろした。男同士幼馴染はほらすぐにいちゃつきだす。


「和親何飲んでるの?」

「ジンジャーエールだ」


 氷川くんはぶっきらぼうに答える。


「姫奈子、晏司くんにも何かお淹れしてあげて? そう言えば水羊羹作っていたわよね? それをお出ししたら?」


 お母様がニヤニヤしながらそう言った。立ち上がりながら、私が軽く睨めば、口元を押さえながら、「私はお邪魔にならないように向こうに行っているわね」なんてコソコソ言う。


 私はそれを聞いて溜息をついた。絶対、良からぬことを考えている。氷川くんや八坂くんに迷惑の掛からないようにしなくてはと思う。


「八坂くんは何にしますか?」

「んー、何があるの?」


 八坂くんがキュルンとした顔で私を見る。


「確か、梅とカリンもあったはずだ」


 氷川くんが何故かドヤ顔で答えた。八坂くんが氷川くんを無視して、私を見てちょっと怖い顔で笑う。


「姫奈ちゃんのおススメは?」

「温かいものが良ければ、レモネードや普通にコーヒーもありますし。甘酒や緑茶も紅茶もあります。冷たい方が良ければ氷川くんの言っていたものと、あ、炭酸水もありますよ?」


 そんなふうに話をしていれば、修吾くんと彰仁までやって来た。


「姫奈子ー、レモネード!」

「私はレモネードじゃありません!」


 彰仁を窘めれば、修吾くんが笑う。そして、ソファーでくつろぐ氷川くんと八坂くんに気が付いて、ペコリとお辞儀をした。

 彰仁も慌ててお辞儀をする。


 修吾くんと彰仁に八坂くんと氷川くんの対面に座るように促す。彰仁は修吾くんの隣に座り緊張している。帰ったと思っていたのだろう。まだ寛ぐ芙蓉会の先輩に動揺が隠せないようだった。確かに後輩からすれば圧が強い二人である。芙蓉会のメンバーでも気さくに話ができるのは先輩や同級生のごく一部だからだ。


 修吾くんはさすがと言うのか、こういう場で動じたりしないようだ。メンタルトレーニング凄い。


「島津くん()まだ帰らないんだね」


 八坂くんから冷たい風が吹いてきた。


「八坂先輩()()お忙しいのかと思っていました」


 修吾くんがニッコリと笑う。うん、なんか、光毅さまを彷彿とさせる笑いである。


「僕は忙しくても姫奈ちゃんに会いに来るよ」


 八坂くんが修吾くんと氷川くんをみてドヤる。なぜドヤる。


「忙しいなら無理しなくてもいいですよ? 冬休みが終われば学院であえますし」


 思わず答えれば、三人に変な目で見られた。なんか、気まずい。話題を変えよう。


「えーっと修吾くんもレモネードにする?」

「はい。お願いします」


 修吾くんはさっきとは違う天使な笑顔で笑った。


「八坂くんは決まった?」

「姫奈ちゃんの水羊羹が食べたいから緑茶をお願いしたいな」

「水羊羹、本当に食べます? 初めて作ったからあんまり自信がないんですけど」

「食べるよ」


 八坂くんが被せ気味に答え。


「ああ、俺も食べたい」


 氷川くんが答えた。


「他の人は飲み物とあわないんじゃない?」


 八坂くんの言葉に、気にしませんと答える修吾くん。


 なによ、なんか空気悪くない?


 思わず彰仁を見れば、助けを乞うような眼で私を見ている。


 私の弟可愛いじゃない。この部屋で唯一の天使なんじゃない?


 ここへきて中三男子の彰仁に安らぎを感じる日が来るとは思わなかった。


「彰仁、ちょっと手伝って」


 彰仁を連れてキッチンへ避難する。





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