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高等部二年

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220/289

220.高等部二年 選挙戦


 高等部の選挙戦が始まった。

 芙蓉会からの出馬は、生徒会長に氷川くん、男子の副会長は三峯くん、女子の副会長は明香ちゃんだ。

 淡島先輩の指示の元、私が氷川くん、詩歌ちゃんが三峯くん、綱が明香ちゃんの応援演説をすることになっている。

 芙蓉会と内部生、外部生の垣根を少しでも低くしたいという意図があるのだろう。


 朝から挨拶運動をして、休み時間には各クラスを回る。今度の選挙は穏やかで、怪文書も撒かれていない。逆に応援の花をくれるような人もいないが、それは明香ちゃんの人望だったのか。氷川くん、なんか、頑張れ。



 今年の応援演説は悩みに悩んだ。氷川くんを食べ物に例えようと思っても、いまいちピンとこないのだ。

 オールマイティーで何でもできるところは、明香ちゃんと同じように小麦粉だが、明香ちゃんより主張が強い。何でも主役級なのだ。

 完全食品的な考えで言えば、卵もいい線いっているとは思うけれど、少し可愛すぎやしないだろうか。ブロッコリーも栄養価は高いけれど、主役には程遠いし、なんにでも使える食材でもない。


 牛肉? しかも和牛? シャトーブリアン? うーん、それだと使い勝手が悪いしなぁ……。悶々と考える。


「別に食べ物でなくても良いのでは?」


 綱は明香ちゃんの応援演説を書き終えてしまっている。


「うーん……。綱は何を書いたの?」

「普通に葛城さんの今までの業績を書いただけです。それで十分だと思いますが」

「確かにそうよね」


 今回は三峯くんのような強い対抗馬がいるわけではない。二年生で初の副会長をつとめ上げた時点で、氷川くんの会長は決まったようなものだ。きっと選挙戦も盛り上がりが欠けるだろう。

 前世では選挙など、煩いし、興味もないのに集会あるし、面倒で怠いものという認識だった。準備する側はこんなに大変なのに、呼び集められる側にすれば、つまらなくて迷惑に近い行事だ。


「あ! そうだ! 良いことを思いついた!」


 ひらめきを綱に話せば、綱が何とも言えない顔をした。


「面白いでしょ!?」

「面白いですが……、まぁ、面白いですけど……」


 


 というわけで迎えた応援演説当日。

 副会長候補から順次応援演説が始まる。

 氷川くん、もとい私は最後の大トリなのである。正直怠い選挙の応援演説会。後半はダルダルになってしまうのだ。しかも今回は氷川くん当確の空気しかない。


 名前を呼ばれ壇上に立つ。壇上には大きなプロジェクタースクリーンが下りてくる。

 事前に準備しておいたパソコンでパワーポイントを立ち上げて表示する。


― 芙蓉学院高等部において氷川和親が舵を取るべき理由 ―


 バーンとスクリーンに映し出されたUDデザイン教科書体の文字。メイリオと迷ったけれど、学生だから教科書体を選んでみた。

 ザワつく体育館。

 氷川くんが言葉を失い、八坂くんはお腹を抱えて笑い出した。失礼だ。


 中等部の頃からの氷川くんの業績を公開し、今後の運営についてわかりやすく説明した力作なのだ。ところどころには、学園が公式資料として撮影した写真をお借りした。もちろん、氷川くんにも写真使用許可はとった。ただ内容は確認しなかったので黙ってはいた。

 氷川くんら昨年度生徒会役員の写真も盛り込み、サービスショットだって欠かさない。

 ちゃんと淡島先輩には目を通してもらい了解だって得ている。ちなみにべた褒めされた。

 そんな完璧なプレゼン資料をなぜみんな笑うのか。


 私はムッとしながらも、どんなに氷川くんが素晴らしいか、どんなに氷川くんが会長に相応しいか、冷静にプレゼンすることにした。

「中等部一年の頃の氷川くんは、クラス委員としてクラスをまとめ上げ……」


 ウォーウォーボールの雄姿を映し出す。キャーっと歓声が沸き起こる。

 氷川くんが幼いー! この頃からカッコイイー! 外部生女子たちの沸き立つ声。

 懐かしいねー、楽しかったよなー、と呟いているのは内部生。 

 半目だった瞳が、カッと見開かれ前の方に移動してきている人もいる。


 もちろんピアノを弾く姿や、中等部での生徒会の様子、高等部の遠泳での様子などサービスショットも盛り込んだ。正直このまま結婚式のスライドに転用してもらったって良いほどの力作なのだ!


 氷川くんの輝ける功績と未来の可能性を存分に発表し、最後まで冷静にこれでもかとプレゼンすることができた。大満足である。



 パチパチと拍手が起こり、無事に応援演説が終わる。元の席に戻ろうとすれば、肩の震えている三峯くんが目に入る。詩歌ちゃんが目を逸らした。あ、酷い。明香ちゃんは満面の笑みで、綱は相変わらず無表情である。


 氷川くんは耳まで真っ赤にし、金魚のように口をパクパクとさせている。所謂放心状態である。

 次は氷川くんの演説だというのに大丈夫だろうか。


「あの、氷川くん? 次、氷川くんですよ?」

「あ、ああ、そうだな」

「大丈夫ですか?」

「だ、だいじょ、」


 そう言いながら立ち上がり、パイプ椅子に躓く。全然大丈夫そうではない。今まで見たことないほどの動揺ぶりだ。


 氷川くんの動揺を見て、体育館の中もどよめいた。

 氷川くんは真っ赤な顔のまま、よろよろと壇上に上がり、今までにないくらいグタグタな状態で、這う這うの体で演説を終え、最後に一言。


「終わった……」


 と呟いた。



 絶望気味の氷川くんだったが、選挙は無事に勝ち抜いた。今までにない圧倒的勝利だったそうだ。淡島先輩が満足そうに話していた。

 氷川くんのプレゼン資料は大反響で、生徒会室には配布して欲しいという女子生徒が殺到した。しかし、私の作ったデータは氷川くんに没収されてしまった。せっかく作ったのに残念である。


 後日、氷川くんがゲッソリした顔でぼやいた。


「風雅先輩があのデータを両親に渡してしまった……。うちの両親から何か言われても気にしないでくれ」


 その言葉の通り、後日氷川家からはお礼のお菓子が届けられた。

 さすがの氷川家である。あの程度のことでご丁寧なお礼とは、ちょっとびっくりした。





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