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高等部二年

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217.高等部二年 学園祭 2


 私たちは先に仮装の衣装に着替えてからお手伝いをすることになっていた。お祭りを盛り上げるためである。


 今年の仮装は七人の小人である。そして、そして、白雪姫と王子様は葵先輩と淡島先輩だ。

 もちろん嵌めた。二人にはギリギリまで何を着るのか秘密である。

 忙しい二人だ。紫ちゃんが仮装について任せて欲しいと言えば、すっかり安心してしまったのだ。


 衣装は今年も八坂くんが用意してくれた。こういう作業は好きらしい。今年の衣装は七人それぞれ違う七色の衣装だ。

 赤は詩歌ちゃん。橙は八坂くん。緑は明香ちゃん。青は氷川くん。藍は綱。紫は紫ちゃん。私はなぜか黄色である。


 女子はポンポンのついたニット帽と同じ色のオーバーオール型の膝丈のジャンパースカートだ。胸当てにリンゴ型のボタンが付いている。中にはお揃いのハイネックのオーバーサイズ白ニットを着る。エンジニアブーツが可愛い。

 男子はオーバーオールだが、胸のボタンはさすがにリンゴではなかった。帽子はポンポンのついたニットのキャスケットである。靴はラインの入ったスニーカーだ。


 いつもだったら絶対着ない格好に、詩歌ちゃんと私は盛り上がり、氷川くんは困惑気味だ。八坂くんは当然のことながら着こなしてしまうのはなぜ? しかもオレンジである。


 この服装で校内を歩けば、当然晏司くんファンから声がかかる。


「あんじくーん! 今年は何の衣装なの?」

「七人の小人だよ!」


 にこやかに手を振る八坂晏司。キャーっと歓声を上げる女生徒たち。毎度のことながら楽しそうで良かった良かった。


 綱のクラスの出し物は、リアル脱出ゲームらしい。三峯くんと明香ちゃんがいることで、なんかすごく手強そうである。紫ちゃんが楽しそうに話していた。

 受付には丁度紫ちゃんがいて、なぜか二階堂くんまで側にいた。そして氷川くんからそっと目を逸らす。


「詩歌ちゃんの赤って珍しいわね!」


 紫ちゃんがはしゃぐ。


「ゆかちゃんは紫だって!」


 中から三峯くんが出て来て、私たちを見てプッと吹き出した。うん、大変失礼な人です。


「氷川くん、なんだか、マリPみたいだね」


 氷川くんがグッと息を飲み、八坂くんが隣で笑う。


「緑は誰が着るの?」

「葛城さん」


 三峯くんの問いに、八坂くんが答える。


「そっか、スカートならセーフかな。後は生駒か」


 三峯くんは想像しながらニヤニヤ笑っている。


「みんなに落ち着いたら着替えに来るように伝えてくれる?」


 紫ちゃんに伝言し、私たちは芙蓉会企画のフォトスポットを確認しながら、芙蓉会のお手伝いに向かった。


 私は、数学部の展示室の担当である。

 数学部ではプリンターを設置してアルバム印刷に協力してもらうことになっているのだ。ちなみに数学部の副部長は、なんと桝さんなのである。あんなに目立つことを嫌がっていたはずなのに、何の心境の変化なのか。


 数学部はガランとしていた。数学部の展示は地味なのだ。江戸時代に考えられたという和算の問題と、それに回答するボックスがおいてあり、正解者には景品が当たる企画をしている。和算の問題にはストーリー性があってちょっと面白いとは思うけれど、意味不明である。


 小さい子向けには、五角形に対角線を書き込んでいくパネル展示がおいてあった。多角形に対角線を書き込むと綺麗な模様ができるというものらしい。

 マネできるように色々な種類の多角形のプリントと色鉛筆、定規がたくさん置いてあるが誰も手を付けた気配はない。

 まぁ、地味だ。


「あなたが来たんですか」


 桝さんが私を見てガッカリしたように呟いた。


「彼でなくて残念でした」


 厭味ったらしく答えれば、桝さんも嫌みったらしく答える。


「ワザとでしょう?」

「ワザとでーす。二人っきりにさせるもんですか」

「二人っきりじゃないです。他の部員だっています」


 真っ当に答えられ、言葉に詰まる。

 桝さんはしてやったりという顔をしたので、無視をしてプリンター回りを確認する。


「それにしても、また派手な格好ですね」

「彼も着るのよ? 七人の小人」

「……彼のラフな格好は見たことがないので少し楽しみです」

 

 あ、桝さん想像したな? ちょっと顔がにやけてるんだから!


「まだ誰も来てないの?」

「見ればわかるでしょ」


 桝さんはそっけなく答える。


「暇ね」

「問題を解いたらいいと思います」

「無理よ」

「だったら、これを貸してあげますから黙っていてください」


 グタグタ言っていれば桝さんから正五角形の用紙と色鉛筆、定規のセットを渡された。

 まるっきり子供扱いだ。

 仕方がないので、色鉛筆を使って正五角形に対角線を引いてみる。知ってはいたが、星が浮かび上がるからその中を色々な色で塗る。結構面白い。正五角形なんて馬鹿にされているみたいだから、もう少し角の多いものにチャレンジしてみる。

 気が付いたら隣で小さい子が覗き込んでいた。どうやら保護者の方は和算にチャレンジ中らしい。


「やってみる?」

「うん!」

「桝さーん! かわいいお客さんよ!」


 桝さんに声をかければ、一瞬怯んだような顔をした。

 そうしてオドオドと子供に話しかける。 


「あ、あ、あなたも、やってみたい、ですか?」

「うん!」

「な、な、なんさい、ですか?」

「七歳!」

「そ、それでは、こ、こ、これはできますか?」

「やってみる!」


 そう言って正五角形の用紙を渡す。

 桝さんめ! 私を七歳児と一緒にしたのか!


「じょ、定規を、こんなふうに、あ、あ、当てて、かくかくの頂点を対角に、つ、つ繋いでください」

「かく? ちょうてん?」


 子供はきょとんと桝さんを見る。桝さんは困った顔をした。まだ角だの頂点だのは習っていないのだ。


「この、尖がってるところと、反対の尖がってるところを線でつなぐの」


 私が説明すれば、子供は「うん!」と元気いっぱいに答えて定規を使って線を引き始めた。


「こう?」

「そ、そうです。上手ですね」


 子供が確認するように桝さんを見れば、桝さんはホッとしたようにため息をついた。

 すると一人がはじめたことで他の子供も興味を示したようで集まってくる。

 桝さんはオドオドしながら用紙を配って説明をして歩く。他の数学部の人も集まってきて、小さな子には隣に付き添って説明をしてあげていた。


 桝さんはやっぱりこういうことは苦手らしい。でも、中学の時のように逃げ出さないと決めたのか、一生懸命に向き合っていて、そういう感じが同情を誘うというか、いじらしくて、逆にムカつくのだ。けれど、まあちょっとは見直した。


 その内アルバム印刷の人もチラホラと現れはじめたので、私はプリンター係としてスタンバイすることにした。


「ゲッ! 姫奈子……。なんだよその格好!」


 嫌そうな顔をするのは彰仁である。


「七人の小人よ。八坂くんが用意してくれたの。高等部の芙蓉会は任意だけど仮装することになってるから」

「そういう格好も可愛いですね」


 修吾くんが褒めてくれる。


「ありがとう!」


 お礼を言えば、彰仁が苦々しい顔をする。


「なんでお前が数学部にいるんだよ。絶対いないと思ったのに」

「あらぁ? 私だって数学に興味があるのよ?」


 嘘だけど。


 彰仁は男女の混合グループでやって来た。中等部の学校見学も兼ねているようだ。修吾くんも今回は一緒らしい。中には二階堂くんの妹、智ちゃんもいた。


「さすが、姫奈子お姉さま! 知的です!」

「嘘に決まってるだろ?」


 彰仁が突っ込む。突っ込まれて嬉しそうな智ちゃんにお姉さまはいろいろ察する。うん、頑張れ。


「姫奈子先輩は芙蓉会のお仕事ですか?」


 修吾くんに尋ねられる。


「そうなの。交代制でプリンター係よ。みんな印刷に来たんでしょ? データを送ってちょうだい。印刷するわ」


 答えれば彰仁が嫌そうな顔をした。


「まだ印刷しねーし。もう少し回ってくる。な、もうちょっといろいろ見て行こうぜ!」


 彰仁がみんなに声をかける。みんな、いいねと声を合わせる。


 はいはい、お姉さまには写真を見られたくないってことですね。私も大人になったんですからね、突っ込んだりは致しませんよ。……あとでこっそり修吾くんに見せてもらうかもしれないけど。


「姫奈子先輩、一緒に写真を撮ってもらえませんか?」


 修吾くんに言われて、数学部のフォトスポットで写真を撮ることにした。智ちゃんたち女の子とも一緒に撮ろうということになった。

 しかし、写真の背景が三角の図に英数字ばかりだけど良いのだろうか。


「なんだか地味な背景でいいのかしら?」


 思わず私が言う。


「フランク・モーリーの定理です」


 桝さんがピシャリと不機嫌丸出しで答えた。私にもオドオドと答えればいいのに、なにさ!!


「美しい証明です」


 ボソリとグループの中の男の子がつぶやき、桝さんと目を合わせ静かにお辞儀をした。


「姫奈子のばーか! もうしゃべるな!」


 彰仁はそういうとプンスコと出て行った。


 まったく怒りんぼなんだから。



 休憩時間で交代して、芙蓉館へ行けばちょうど他の人たちが着替えているところだった。


 葵先輩が最後の仕上げでメイクをしている。葵先輩に口紅を差すのは紫ちゃんだ。


 葵先輩が着ているドレスは、青い身ごろにぷっくりと膨らんだ半袖で、スカートが淡いクリーム色になっている。まさに白雪姫だ。赤いリボンのカチューシャが黒々とした豊かな髪に映える。

 葵先輩の白雪姫はイメージ通りである。黒檀のように黒い髪、雪のように白い肌。血のように赤い唇はメイクではあるが、完璧な再現に思わずため息をつく。


「葵先輩……お綺麗です……」

「ほ、本当かしら?」


 頬を両手で押さえる葵先輩が可愛すぎる。


 対する淡島先輩は、ものすごく、ものすごく、ものすごく、不機嫌だった。

 首元と手首のフリルに、裾の長いジャケット。なんといっても膝下丈のキュロットにハイソックスである。これでかつらを被ったらモーツァルトである。淡島先輩、よく着てくださいました。


「あんじ……どういうつもりだ?」

「二人の分は衣装さんから借りてきたんだ」


 八坂くんは気にも留めないように笑っている。普通にフロックコートあたりを用意すればいいのにそうしない辺りが、多分ワザとだ。


「風雅くん、王子様みたい!!」


 紫ちゃんが天真爛漫に声をあげれば、淡島先輩がげんなりした声で答えた。


「王子の衣装なんだから当たり前だろう? 紫だから信用してたのにまさかこんな衣装を用意されるとはね」

「二人で王子様とお姫様をしたら、結婚式みたいで素敵だと思ったの!」


 チクリと棘を刺した淡島先輩に対し、紫ちゃんが、ケロッと爆弾発言を落とした。


「嫌だった?」


 紫ちゃんが不安そうに淡島先輩と葵先輩を見た。


「ううん。大丈夫よ。嬉しいけどちょっと恥ずかしかっただけよ」


 葵先輩がそう微笑んで、淡島先輩は小さくため息をついた。

 妹、強い。


 みんなで仮装パレードに参加する。

 淡島先輩と葵先輩は想像通り「ヒューヒュー」されて、祝福ムードだ。葵先輩は真っ赤なお顔が愛らしく、淡島先輩はこんな時でもポーカーフェイスでお流石ですとしか言いようがない。

 そのうえ最後には、葵先輩をお姫様抱っこまでしてくれた。サービス精神旺盛である。いや、単なるむっつりスケベか?


 三峯くんは去年と同じ狼で、この人合理性とか言っちゃって来年も同じ衣装なんだろうなとぼんやり思う。


 そんなこんなで学園祭の二日間は無事終了した。






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