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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@完全無欠の悪女です2月下旬発売
高等部二年

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209/289

209.パンを作ろう!


 サマースクールから帰ってくれば、待っていたのは彰仁だった。

 彰仁が私を待っているなんて珍しい。

 何事かと思ったら、今年は酵母の研究をしているらしく、集めた酵母でパンを焼けとのことだった。


「お願いします、っていうんでしょ?」


 彰仁を煽る。

 彰仁は冷たい目で私を見てから一つ溜息を零した。


「お願いいたします」


 その言い方が、俺はもうそんな言葉で煽られるほど子供じゃないんだよ、と言わんばかりで、かえってムッキーとなる。何さ大人ぶっちゃって。


「ちょっと彰仁! 馬鹿にしてない?」

「バカになどするわけがございません。尊敬するお姉様を」

「ここで倒置法っ! 絶対絶対バカにしてるー!!」


 ムキムキ怒り散らせば、ため息をつくのは綱だ。


「それはバカにもされるでしょうよ」


 綱が彰仁側につき孤立無援だ。三人しかいないけど。


「わかったわよ。それでは私は何をすればいいのよ」

「食パンを焼いて欲しい。酵母によってふくらみだとか発酵速度だとか比較したい」

「はいはい。お安い御用ですわ」


 安請け合いをしたのだけれど、彰仁が用意した食パンの型を見て眉間を押さえる。なんと10個も用意してある。


「あっくん? これはどういうこと?」

「比較実験だからな。同じ条件下で作らないと意味ないだろう?」

「なに当然みたいな顔して言ってるの!! うちのオーブンはせいぜい二つしか焼けないし、そもそも十斤も出来上がった食パンどうするつもりよ!」


 パンを作るということを理解していないのだ。そもそも天然酵母など癖がありすぎて簡単に同時進行で作れるものか。


「最初ッからできないっていうのは姫奈子の悪い癖だぞ」


 この場合は絶対彰仁が間違っている。


「彰仁、まずは一度ドライイーストで作ってご覧なさいよ。理由がわかるから」

「……わかった」


 彰仁と一緒に予備発酵不要のドライイーストでパンを作ることにした。自家製レシピ帳を持ってくる。作ったものや作りたいもの、そこからアレンジを書き込んだノートである。

 それを見て彰仁は驚いた顔をした。


 とりあえずは、基本の丸いパンを作ることにした。綱も一緒に手伝ってくれる。

 いつものつもりで計量スプーンを取り出せば、彰仁から待ったがかかる。


「秤でやってくれ。条件を同じにするのに必要だから」

「……自分で計って確認して」


 マジで面倒だ。確かに料理には正確性も大切だが、経験によるチョットの匙加減だって重要だと思うのだ。


 しかし、今回は実験だ。仕方がないので秤を使う。


「強力粉250g」


 そう言えば、彰仁が秤で計る。


「ドライイースト、小さじ2……計るとどれくらい?」

「6gだな」

「砂糖は大さじ2」

「16、7gか?」

「塩化ナトリウム小さじ1」


 厭味ったらしく彰仁に言えば、彰仁はハッとしたような顔で私を見た。


「それ精製塩か?」

「……沖縄の塩よ……」

「精製塩は90%以上塩化ナトリウムだが、沖縄の塩だとミネラルが含まれているから正確には塩化ナトリウムじゃない」

「余計なこと言わなきゃ良かったわ」


 ため息をつけば綱が笑った。


「ところで塩には何の役割があるんだ? 姫奈子」

「ええ? 味じゃないの?」

「後で調べる」


 本当に彰仁は可愛くない。


「で、なんだっけ?」

「お塩、小さじ1!」

「5gだな」

「水170ml」

「あとバター15g これは細かく切って室温で置いておいて」


 実験用だから安いバターにしてやれ。

 

「室温て何度だ?」

「室温は室温よっ! 何このめんどくささ!!」


 彰仁の質問にキレれば、綱が答える。


「今の室温は26度です。彰仁さま」

「ありがとう、綱」


 私は大きく息を吐き出す。


「大きいボールに、強力粉とドライイーストと砂糖・塩を入れて泡だて器で混ぜて、お水を加えて木べらで混ぜる。その後は手でこねて」

「こうか?」

「そうそう、こうやって……」


 ボールに手を入れて見せてやる。


「耳たぶくらいの硬さになったら、ボールから出してこう!」


 生地を伸ばして叩きつけ、捏ねる。正直この工程はあまり人に見せたくはないのだが、彰仁も綱も真剣な顔で覗き込んでくるから恥ずかしい。

 続きは彰仁にパスをする。

 彰仁も、バッタンバッタン叩きつける。


「きめが細かくなってきたらボールに戻してバターを入れてもみ込んで」

「こうか?」

「バターがベタベタしなくなったらまたボールから出して、今度は優しく折りたたむようにしてこねてね」

「うん」

「そうそう、いい感じ。これくらいつやが出てきたら一次発酵よ。ラップをかけて温かいところに30から40分くらい放置して、1.5倍くらいに膨らんだら一次発酵は終了。今の時期なら室温でも発酵すると思うわよ? 私はいつもオーブンの発酵機能を使ってるけどね」

「温かいって何度だ?」

「発酵機能は40度って書いてあるわね」

「今回はそれでやってみる。その前に写真を撮らせてくれ」

「はいはい……」


 もう好きにやればいいよ……。


 一次発酵が終了したのをフィンガーテストで確認する。


「こうやって指をさして指の後が残れば大丈夫」


 その姿まで写真に撮るの?


「で、ガスを抜いたら生地を十等分にする」


 そう言えば、彰仁は秤で正確に十等分する。細かくちぎって重さを合わせるものだから、生地が可哀そうになってくる。


「こうか?」

「本当はあんまり細かくしない方がいいけど、実験なら仕方がないわよね」

「なんでだ?」

「生地が可哀そうでしょ?」

「感情論か」

「まとまりにくくなるのよ!」


 ふーんだ! 生地をイジメるとどうなるか体験すればいいのだ。


「そうして断面が内側になるように丸めて、固く絞ったふきんをかけてちょっと休憩」


 はー、と彰仁が大きく息をついた。細かくしてしまったから綺麗に丸めるのも一苦労なのだ。


「結構大変なんだな」

「結構大変なのよ?」

「実験計画を立て直した方がいいですね、彰仁さま」


 綱が言えば彰仁は頷いた。


「この後、もう一度ガスを抜いて綺麗に丸め直したら、二次発酵よ。天板の上に並べて、隙間に熱湯の入ったコップを置いて、ラップをかけておくの。それでまた1.5倍くらいに生地が膨らんだら完了ね。指で押してみて少し指の跡が残ればいいわ。その間にオーブンを温めておくの」

「たとえば、ここの発酵時間を延ばしたらどうなるんだ? 姫奈子」

「焼き色が薄くなってふくらみが悪くなるし、ちょっと酸っぱくなる気がするわ。気になるなら試してみたらいいじゃない。半分先に焼いて、半分は後で焼いてみるとか。焼き時間が十五分くらいでしょ? 二次発酵が大体三十分から四十分だから、倍に延ばすなら一回目が焼き終わってから焼いても十分間に合うし」

「料理って科学なんだな!」


 目をキラキラさせる彰仁。


 眩しいな? くっそ、私の弟、可愛いな?

 もういい。存分に実験すればいい。失敗したパンはフレンチトーストにでも、ラスクにでもお姉さまがしてあげます!


 そんなわけで、二回に分けてパンを焼く。


「なんか、姫奈子が丸めた方が綺麗なふくらみだな? 何が違うんだ?」

「経験に決まってるでしょ?」


 思わず突っ込めば、彰仁はまじまじと自分の手を見た。


 一回目のパンはまぁまぁ美味しくできた。やっぱり生地をイジメたせいで少し口当たりが悪い気がする。

 しかし、二回目のパンは発酵させ過ぎたためにやっぱりいまいちだ。

  

「食べられなくもない」

「まぁ、そうね。食べられなくもないわよ」


 綱と彰仁と三人でパンをモグモグと食べる。

 彰仁は難しい顔をして、イーストの箱なんか眺めている。


「なんで姫奈子はドライイーストを使ってるんだ?」

「保存が簡単で思い立った時に使えるのが便利なの。生イーストは保存しにくいけど、発酵が早いのが利点よね」

「ふーん……。発酵速度に違いがあるんだ。じゃあ、いろんな酵母ですればそれぞれ発酵速度が違う?」

「と思うわよ。知らないけど。それを見極めるのが大変じゃない?」

「わかった。とりあえずドライイーストで発酵の比較してみる」

「それが良いと思うわ」

「発酵時間を遅らせる方法ってある?」

「冷蔵庫に入れておくと遅くなるのよ。オーブンの余熱が間に合わない時は冷蔵庫に入れたりするわ」

「そっか。ありがとう、姫奈子」


 彰仁が素直に礼を言うから面食らった。思わず言葉を失って、パクパクしていれば、彰仁が立ち上がった。


「ここ、俺一人で片付けておく。あとで今日のレシピくれよ」


 彰仁は背中を向けてブスっといった。


「あ、うん。紙に書いて渡すわね。グラムね?」

「ああ、グラムで」


 なんだか妙な感じだが、ここは大人しくしていよう。

 綱と二人でリビングへ戻る。メモ用紙にパンのレシピを書くためだ。ついでに自分のノートにも彰仁が読みあげていたグラム数や温度を併記しておこう。自分自身の参考にもなりそうだ。


「……なんだか、彰仁、変ね? 夏休みに私に隠れて変なものでも食べたのかしら?」

「お嬢様ではあるまいし」


 綱が肩をすくめる。


「初めてお一人の夏だったんです」


 そう笑いながら使用人が私たちの前に麦茶を置いた。

 カラリとグラスの中で氷が音を立てた。


「だからなんなのよ」


 私は意味が分からず綱の顔を見た。


「修吾さまも全米オープンの準備で忙しかったのでしょう」

「だから?」

「お一人で夏の社交をこなされたということですよ」


 そうか、それで大人っぽくなったように感じるのか。


「大人っぽくなられて寂しいですか?」

「……べっつに!」


 図星を指されてそっぽを向く。


 男の子は突然大人になってしまうらしい。





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